初戦
ドラグナー。
……なんだろう。異世界でこういうカタカナを聞くと違和感がすごいな。今更だけど。
で、俺の知る『ドラグナー』だと、竜騎士、みたいな感じであってるか? それが来ていると。強そうだ。
俺たちはシルヴィアさんに先導されるがまま、城の中を駆けた。そして北東部に辿り着いた。
「あれだ」
シルヴィアさんが指さす場所。じっくり目を凝らすと真っ黒な豆粒が見える。
「定期的にこの城を攻撃してきていてな。毎度甚大な被害を出していく」
そう語るシルヴィアさんは苦しそうだった。
「あいつのせいで、我々騎士隊は……」
俺たちのいる城は大きい。なのに人気をあまり感じなかったのはそういうことなのだろう。
そこまで聞いて――。
「あれを倒せばいいのね? り!」
頼もしい言葉を煌城さんが言ってくれる。豆粒だったそれは、もうドラゴンだとはっきり分かる程までに接近してきていた。
「よーし、ぶっぱなしますか~。えーっと……」
ドラゴンに向けて指ハートを作る。……でも詠唱がないな?
「……、ド忘れした! とりあえずドーン!」
ド忘れて。と突っ込もうと思ったが、何の問題もないと見せつけるかのように指ハートからレーザーを放った。
そのレーザーでドラゴンが消し飛び――はしなかった。空中で回転し回避したのだ。「うっそぉ!」と驚きの煌城さん。
「む! いかん、来るぞ!」
後ろからセルジオさん? が警告する。なにが、と聞く前に答えが出現した。
こちらに向かって大きな黒炎弾が三、いや四発飛んできている。
「防御魔法を全力で張れ! さもなくば城ごと消し飛ぶぞ!」
シルヴィアさんが声を張る。魔法て。俺はどうすれば。
「あれをなんとかしなきゃ、なんでしょ? うーん……、こうだ!」
煌城さんが両手を大きく広げる。すると周囲がシャボン玉のような虹色の球体に包まれた。その大きさは城を十分に覆っている。
シャボンが弾を受ける。一つ、二つ、そして四つ。このバリアの方はビクともしていない。……ように見えるが。
「煌城さん! 大丈夫!?」
「大丈夫だけど、なんか体が押される感じがするぅ〜!」
苦しいとかでなくて良かったが、多少なり影響はあるようだ。「これほどの防御魔法とは……!」と魔法使いがぼやいている。俺も対策を何か考えないと・・・・・・。
俺に出来ることは剣を振るえる事だけだ。斬撃やらレーザーやらが出る訳ではない。つまりは遠距離への攻撃手段がない。
そんな俺に出来ることは・・・・・・。
「煌城さんがんばれ〜!」
ふざけるな。そんな無責任な事を言ってられるか。それで煌城さんが集中を切らしたらどうする。いよいよ戦犯だぞ。
考えろ。俺に出来る、何かは・・・・・・。
「セルジオ卿、微力ながら」
「うむ。支援感謝する」
隣でそんなやりとりを見た。何がどうなった、を完全に見たわけでも理解したわけでもないが、剣士にも扱える横バフ魔法とかあるのかもしれない。光がシルヴィアさんからセルジオさんに流れているのが見える。
少しの恥はあれど聞くしかない。剣士にも出来る事を。
「シルヴィアさん、あの、俺に出来るサポートって、どうやれば」
「ん? 私は精霊の加護をいくらか持っているのでな。それを少し分け与えただけだ。自分に何が出来るかは、自分が一番知ってるんじゃないか?」
それが分からないから聞いてるんだ……! さっきの試合だって、なんであんな出力が出たのかも分からないのに。
考えろ。俺に出来る事……と、呆然と立ち尽くす澪の姿が目に入った。他力本願、しかし今はそれしか出来ないか。
「澪!」
「ゆ、悠馬。わ、私、どうしたらいい?」
「魔法での攻撃が必要だ。さっきみたいに魔法をつかって……」
「そ、それは無理、かも。だっていまいちやり方分かんないし」
だよなぁ。煌城さんは順応しているように見えて”結果的に”上手くいっているだけの様だし、俺もさっきの身体強化だってよく分からない。
分からないが、先ほどの結果を鑑みるとやはり射程距離のある澪の方が向いているはずだ。
あと俺に出来る事は……。
「魔法がどんな感じか伝えるから、試して欲しいんだ」
「ええ……私アニメとか全然知らないんですケド」
「いいから、『お前だけが頼り』なんだ」
「……(ぴくっ)」
ぷい、と向こうを向く澪。……ダメか?
「……どうすんの」
恥じらいを見せながらも聞いてきた。よし、出来るはずだ。
ここからは俺の想像力と説明力だ。
「ここから攻撃したら煌城さんのバリアごと破壊しかねない。魔力をバリアの外、真上に集める感じで」
「いや、その魔力ってのが分かんないんだって」
「じゃあえっと、さっき的を壊した時の感覚で集中してみて。真上に的があると思って」
二人して真上を見る。そのあと澪は目を閉じた。多分集中しているのだろう。
俺は真上を見続けていた。すると黒い、ブラックホールのようなものが出来た。
「出来てる! さすが澪!」
「う、うん。で、このあとは?」
「これを武器の形にしたい。槍とかどうかな」
「槍って、どんな?」
ブラックホールは大きくなる。だが円状のままだ。槍では伝わらない。もっと簡素で分かりやすい伝え方をしないと。
「じゃあ矢印だ。最終的にあのドラゴンを貫けるような」
「矢印か……」
そう聞いた澪は円形のブラックホールから棒状の形へ変えていく。元のブラックホールが円形として”安定していた”のを無理矢理変えた反動か、その棒から黒い稲妻のようなものが溢れている。
「澪、しんどくはないか?」
「別に。それよりこれでいいの?」
見上げると大きな矢印、パルチザン(長柄槍)のような形をした殺意の高い槍が出来ていた。
多分すさまじい火力を秘めているのだろう。黒い稲妻みたいなのが全体から漏れ出ている。
「すごいな澪! 『かっこいい』ぞ!」
「そ、そう? ふーん……」
「あとはアイツに向けてぶつけるだけだ! やってやれ澪!」
「え、発射ってどうやるの……」
そこもか。そういえばさっきの的を壊したのも発射とかじゃなく力を出現させた、みたいな感じだったな。
魔法の射出……ボールとかを投げる要領で飛んでいかないのかな。
と、頭を使っていたら――。
「わー、コケる~!」
煌城さんが態勢を崩していた。いままで敵の攻撃を防いでいたんだ。無理が出てもおかしくない。
「煌城さん!」
片足で倒れる直前の煌城さんを支えるべく駆け寄る。だが間に合わず――。
「ぐえ」「うお」
俺ごと倒れる形になった。うお柔らかくていい匂い。彼女に触れているのは不可抗力、だよな?
「……」
それを見ていた澪は、指をドラゴンの方へ向ける。同時に上空の槍も連動して動く。そして、——音もなく槍は射出された。
槍は凄まじい速度で飛んで行った。だが。
「ああ! 躱された!」
最初から分かっていたと言わんばかりに、ドラゴンは大きく旋回し回避行動を取った。そして口から炎を漏らして……。
「——ヤバッ!」
煌城さんが声を上げた。俺もバリアが消えている事に気付く。体勢を崩した際に消えてしまったか。マズイ、と思ったその時——。
「え?」
「なんだ?」
黒一閃。さっき外したはずの槍がドラゴンの背後から穿っていた。
(二発目? そんなはずはない。なら一発目に追尾機能が付いていた、いや付けたのか?)
胴体ではないが翼に大きな穴を空けた。そのドラゴンは浮いてもいられず徐々に高度を落としていき、森の中へ沈んだ。
俺と煌城さんはぽかーんとそれを見ていたが、「警備隊! 捜索と追撃だ!」というシルヴィアさんの声でハッとする。
「あ、大丈夫だった煌城さん?」
「うん、へーき。ありがとね」
と言葉を交わして体を離す。軽くて柔らかくてフワフワだったな……。
そして最大の功労者、澪の元へ行く。
「お疲れ様、澪。あんな事が出来るなんて、やっぱすごいな」
「……、私、すごい?」
「ああ、俺の想像以上、っていうか。とにかく任せて良かったって思う」
澪は少し下を向いた後、いつもと変わらないいたずらっぽい顔をして――。
「煌城さんと長い事くっついてたね」
「あ、あれは不可抗力というか……」
「いいじゃん。カワイイ女の子に触れてさ」
しし、と笑う澪。あんまり勘違いされたくないな。
そりゃ、異世界に来てしまった仲間として二人は大事だ。大事だけど……。
俺は、澪の方が気になるし、どっちかというと澪の味方でいたい。
「ま、スケベ男って言うのは勘弁してあげる」
機嫌を損ねた、わけではなさそうだが……。
この思い、どうしようかな……。
***
(……さっき)
澪は繰り返し思い出す。私の前にいた悠馬。なのにピンチそうとはいえ、速攻で煌城さんの元へ駆けつけた悠馬。
私だって、不安だったのに。
悠馬もやっぱ男の子か~、と納得。私なんかより明るくて愛想のいい女の方がそりゃいいわよね、と。
(……でも)
魔法を放つとき、感覚として掴んだ。
煌城《あの女》の背中を見て思う。
(魔法は、『刺す』みたいに撃つんだ)




