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俺だって少しは

 そりゃあ俺にも順番は回ってくるよな。うん。


「さあ、お前もなにか魔法を――」


「ちょっと待って下さい」


 考える。考えた。これが異世界冒険なのだとして、そういう物語なのだとして。

 魔法使い二人。であれば、パーティとして考えれば。

 必要だろう。前衛が。


「剣を、頂けますか?」


「なんと。そなたは剣士だったか。少し待て」


 まあ剣道やってたし嘘ではない。が。

 実践、つまりは殺し殺されがある世界で通用するかといわれればノーだろうな。


「待たせたな。そら」


 渡されたのは木刀。……まあ能力を見るのに真剣である必要はないよな。

 受け取って背を向ける。さて、俺に何が――。


「——待て」


「はい?」


「せっかくだ。——私と打ち合ってみる、というのはどうだ?」


 なんてこった。実践だと? 出来るわけが……、待てよ。

 よく考えれば、魔法が撃てるか分からないのに壇上に立つよりは、相手から一本取った方が簡単なんじゃないか?

 剣道は6年やってきた。段位もある。可能性なら、なくはない、か。


「わ、わかりました」


「うむ! それでこそ男児だな」


 嬉しそうな声で答える女性騎士。……いつまでも騎士と呼ぶのもなんか引っかかるな。


「あの、そちらのお名前は?」


「ああ、言ってなかったか。すまない。王国騎士団長、シルヴィアだ」


「シルヴィアさん。よろしくおねがいします」


「戦う前に名乗るのが礼儀なのか? そちらの名も伺っておこう」


 俺は「笛木悠馬」とだけ答え、シルヴィアさんも満足したようだ。


「では――、始めようか」


 シルヴィアさんは剣を、まるでフェンシングでも始めるかのように切っ先を上げた。距離が剣道よりも遠い。三歩くらいは離れているか。俺も剣を上げる。


「遠慮はいらん。いつでもかかってくるといい」


 そういう彼女の構えは実にリラックスした、理想的な構えだ。対する俺は少し強張っている、か。

 深い呼吸を一つ。同時になるべく肩の力を抜く。落ち着いて、冷静に。

 今更ながら俺たちは転移してきたままの恰好なのだと気付かされる。靴が上履きのままだ。動きにくいが、なんとかするしかない。


「……ほう」


 指の動きが使えない以上、バレバレだが足をよじって距離を詰める。いつもの剣道をしている時の間合いに持ってくる。

 相手の木刀とぶつかる少し手前まで来た。それ以上は踏み込めない。


(一足一刀の間合いには少し遠い。あのフェンシングみたいな構えと戦うのは初めてだから距離感が掴めないな)


 ここからは相手の方が有利な状況の中に飛び込むしかない。まず狙えるのは小手だが、フェイントなしに狙えるわけもない。

 ……というかフェンシングも異世界組手もルールを知らない。軽率に試合なんて始めるんじゃなかったな。


彼女ギャルたちは魔法が使えた。なら俺も何か使えるはず)


 そう思いラノベ知識をフル活動させる。今欲しい力、それは――。


(素早い行動——!)


 自分の丹田に意識を乗せる。体の芯から力を籠める様に。

 煌城さんのような派手な能力ではなく。

 澪のような恐ろしい力でもない。

 自分に「バフ」を乗せる。


(——、今!)


 力を感じた俺は踏み出す。自分の身体能力を超えた速度で――!


「ほれ」


 こん。と木刀が当たる。俺の、ではない。相手の木刀が、俺の頭を軽く叩いた。

 俺が振るった剣の先に相手はおらず、完全に俺の”横”につけられていた。完全に見失ったのだ。


(攻撃が当たらないだけじゃない。——何が起きたかさえ見えなかった!)


 衝撃を受ける俺。これでも県大会準決勝まではいけるくらいはあるのだが。


「遠慮はいらんと言っただろう? 何故身体強化の一つも使わん?」


 ……いや使った、つもりなんですが。


「ああ、全力を出すと城まで壊しかねなかったか? 大丈夫だ、セルジオ卿がなんとかしてくれる」


 そんな化け物でもない。待て待て、冷静に考えると……。


1.まず魔法が発動していない。

2.俺に特別な能力はない。

3.単純に弱い。


 と推察する。

 ……。じゃあどうするんだ。


「まあ気にするな。私も気を抜き過ぎたか? 少し、力を込めてみるか」


 まずいまずい。どうする? 俺は魔法も使えない。あるのは残酷なまでの現実的な身体能力だけ。足が治っていたし、こういう転移モノって最初強いのがテンプレートじゃないのか?


「さ、気を取り直して二本目だ。手加減は不要だぞ?」


 とりあえず構える。だが……策はない。

 魔法が使えない。逆転の目はない。

 実力は劣っている。打つ手もない。

 こういう時……どうする?


「……」


「さあ何を見せてくれる?」


 構えを変えた。日本の、現実の事を考えず、ゲームの様に戦ってみる。

 自由に棒を振るえれば、可能性は見えるかもしれない。


 まず、相手の剣を弾き飛ばす――!


 カン!


 そして空いた胴に――。


「——はぁ」


 聞こえたのはため息。——同時に、右脇に激痛が走る。突かれた、と一瞬遅れて気付く。剣は確かに弾いたのに。

 手から剣が落ち、その場に崩れる俺。


「手加減は、不要と言ったはずだ。なのにこのザマとは。全力を出せない理由があるのか。あるいは――」


 嫌な汗が滲む。


「ハズレ。だったのか」


 ……。

 悔しいが、そうなのだろう。

 俺には魔法を使えるセンスも無ければ、与えられるギフテッドも無かった。


 ただ、それが現実なんだ。


「……」


「……一応、打ち合いは三本先取だ。とりあえずやるが――」


 元のポジションに戻るシルヴィア。そして構え――。


「——残念だ」


 ……俺も立つ。立って、構えて、試合開始の形になれば、俺は何が起きたかも分からずに地に伏すのだろう。

 痛いのは嫌だ。だが、それが現実なんだ。


 ——。


 もっと夢を見ていたかった。

 俺はただのラノベ読みで、そりゃ、こんなファンタジー世界に行ってみたいとか。何度思った事か。


 でもこれが現実だ。俺は、弱い。

 誰もがなろう系の様な無双が出来るわけじゃなかった。


 ごめん、二人とも。俺——。



「負けんな笛木!!!!!」



 その――声が聞こえた。煌城さん?


「アタシ、いっつもバカって言われて。実際その通りだし、なんも言い返せないけどっ。

 でも、なんか出来たんだよ! アタシだって、”なんか”出来た!」


 その声を受けて、俺は――。


「だから出来るって! 《《負けんなよ》》笛木っ!」


「……そうよ」


 今度は、澪か。


「子供のころから、あんたが情けないのは知ってる。不器用なのも知ってる。

 でも私の前では、かっこいい所見せろよ! 悠馬!」


 ……そんな事言われても――。


「笛木!」「悠馬!」


 ……全く。


 ——負ける気が、しなくなったな。


 剣を構える。相手を見据える。


「む……」


 そうだ。カッコ悪いまま終われるか。

 俺はまだ、澪に好きだと言ってない。


 一歩、踏み込む。剣を振り上げる。踏み込んだ右足が、力強く地面を捉える。


(なんだ? 頭が、いや脳というべきか? さっきまでにない力を感じる)


 『何故か』、相手の動きがゆっくりに見える。俺の振り上げた剣を防ごうと同じく剣を上げようとしているようだが……。


(遅く見える。それに対して俺は、それ以上に速く動けると分かる)


 その速度では遅い。相手が10cmほど剣を動かす間に――。

 俺の剣が相手の胴を捉えていた。


 ……。


 自分では剣道の試合と同じ感覚で胴を打ったつもりだった。しかしその威力は凄まじく、相手、シルヴィアさんを派手に吹き飛ばし、城壁に叩きつける形になった。

 アニメみたいな土煙が舞い、シルヴィアさんがどうなったか分からない。


現実リアルならグロいことになりそうだが……、やってしまったか?)


 どうしようとおどおどしていると、笑い声が聞こえてきた。


「——はっはっは! やはり実力を隠していたな! はっはっは!」


 土煙の中からぼやりと人影が浮かんだと思ったら、中からシルヴィアさんが出てきた。


「殺気すら持たない神速の一撃。とっさに防御魔法を使っていなければ死んでいたかもしれんな! うはははは!」


 ……なんだろう。ちょっとハイになってる? 頭を打ったか?


「あの、大丈夫なんですか?」


「ああ。最初に言っただろう、手加減不要と。私は打たれ強さには自信があってな」


 ぽんぽんとお腹を叩く。……金属の鎧とその下の服も消し飛んで肌が見えているが、ほんとに大丈夫なのか? 金属の鎧がそんな”千切れる”様な壊れ方はしないと思うのだが。


「いやあ恐れ入った。全く見切れない速度だったぞ。やはり最初の二本は手加減していたな?」


 いや全力だったんですが。とは言い出しにくい。なんとなく笑って濁す。

 ともあれ、何とかなったようだ。……ホントに?


「実力も申し分なし。となれば冒険前の景気付けにパーティをしなくてはな! 料理長に気合を入れてもらおう! な?」


 ホントこの人はこちらの事情とか気にせずに話を進めるなぁ。でも、また実力を見るとかでなくて良かった。食事くらいなら、大丈夫か。

 こちらは「わーい」と言ったり、「大丈夫?」と言ったりだが……。

 食事くらい、気を抜いても――。


「団長! 北東警備から通達です!」


 どこからかシュッっと現れた騎士。いたのか、他の人。


「例の『ドラグナー』が接近しているとの報告!」


「む、分かった」


 シルヴィアさんは簡潔に返答し、伝令に来た騎士は颯爽と帰っていった。


「あー、どうやら……」


 ……嫌な予感が。


「——祝杯の前に、初陣が来たようだ」


 どうなるんだ、この異世界生活……!


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