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冒険のはじまり

 夜が明けた。天井は、見覚えのないところで。

 ああ、やっぱり夢じゃなかったと思わされる。


 ベッドから出て体を伸ばす。気分は至って普通。寝れなかったとかは無かった。だが目を覚まして、自分がファンタジーに居て、と情報がまとまっていくたびに「どうする?」感が湧いて出てくる。


 他の二人はどうしているのだろう。朝の挨拶でも行くか? いやまだ寝てる可能性も……。

 悶々としていたら部屋がノックされた。「どうぞ~」、誰だろう。


「やあユーマ。しっかりと目を覚ましているようで感心だ」


 相手はシルヴィアさんだ。その片手には衣服? のようなものを持っている。


「またしばらくしたら呼びに来るが、それまでに私からの贈り物だ。これに着替えてみてくれ」


 そう言われ、持っていた衣類一式を受け取った。服と、剣。ホンモノだろうな。それに防具もあるせいかやや重い。


「着替え終わったら昨日の広間に来て欲しい。よろしくな」


 シルヴィアさんが部屋を出るのを見てから、着替え始める。


 ……。


 着れた。と思う。姿見で姿を見る。なんというか着させられているというか、似合ってないというか。


(そこはかとないコスプレ感)


 要は違和感が凄い。この格好で彼女らの前に立つのは幾ばくか恥ずかしい。うむむ。

 考えても仕方ない。とりあえず出よう。


 で、廊下に出た訳だが。俺の両隣りには澪と煌城さんの部屋がある。

 いる、だろう。声を掛けるのが普通だろう。朝の挨拶として話すのはごく普通のこと、だろう。なんだが。

 選択肢を突きつけられた様な感じだ。澪から行くか、煌城さんへ行くか。


(深く考えすぎだろうか)


 ・・・・・・澪にしよう。俺が似合ってない服装をしていても、アイツなら笑って終わらせてくれるだろう。それに慣れた仲だ、こういう会話はアイツに振るのがいい。

 というわけで澪の部屋をノック。「どうぞ〜」。普通に入る。と。


 普通に下着姿の澪が!


「え、おま・・・・・・っ」


「は? ちょっ・・・・・・!」


 お互いに「どうして」みたいな反応をする。いやいや、それはおかしいじゃないか。


「お前、どうぞって・・・・・・!」


「あ、アカリかと思って・・・・・・。っていつまでそこにいんの!」


「ああそうだよなすまん出る」


 戸を閉める。こういう時あるあるが自分に発生するとは思わなんだ。気をつけないとな、うん。

 ・・・・・・しかしながら。

 網膜もフィルムの様に。一瞬ながら澪の肢体は目に焼き付いた。

 スラッとしていて、締まっている身体。でも胸は思ったより出ていて――。


(いかんいかん)


 健全な男子として、下着姿の女子に何も思わない、なんてのは難しい話だが。それでも、その下心が漏れ出たまま顔を合わせるのは向こうにとっても気分のいい話ではないはずだ。うん。忘れ、るのは難しそうだが、忘れたフリくらいは出来るはず。頑張ろう。

 となれば、今度は煌城さんの方に行ってみようか。……細心の注意を払って。ノックノック。「はーい」。返事が来るまではいい。ここからだ。


「俺、笛木だけど。入っても大丈夫?」


 言ってから「別に入る必要はなかったのでは?」と雑念が入る。でも口が勝手に動いてしまったし、なるようになれ。

 「いーよー」と返事が来る。なら大丈夫なのだろう。……大丈夫だよな?

 戸をくぐる。そこにいたのは――。


「おお……」


 コスプレ感、はややあるが、それでも俺以上に着こなしている感の煌城さんがいた。魔法使いっぽいローブを羽織り、中の服は金属の装飾や部分的に宝石のようなものもあしらわれている。

 だが物々しさ、というよりは、なんかこう……アレな感じ……。


「この衣装さ……」


 煌城さんが口を開く。


「魔法使いなんだろうけど……」


 姿見を見て、確信を得たように言った。


「魔法少女、っぽいよね」


「それだ!」


 俺の中で言語化出来なかったモヤが晴れる。そう、冒険ファンタジーの魔法使い、ウィザードみたいな黒でローブでぶかぶかで、みたいなものかと思ったらそうではなかった。ちゃんとカワイイものがお出しされた。


「どーお、似合ってる?」


 くるっと回って見せる。揺れるローブとスカートを見ながら。


「うん、似合ってる。かわいいね」


「だよねーかわいいよね~。かわっ……」


 ぴたっと止まる。何かに気付いたような、何かを思い出したような。

 頬を冷やす様に両手を添えてこちらを向く。


「……。アタシ、カワイイ?」


「? うん」


 素直な感想だが、なにか、まずったか? 女子のそのあたりの心情は複雑だと聞く。もっと他に欲しい言葉があった、とか? あるいは具体的に、とか。

 頭を回せ俺。似合ってて、カワイくて、そんな女の子にかける言葉は……。


「あ、あのっ」


「うっ、うん!」


 向こうから声がかかり、若干のドキドキを隠して答える。どうしよう、怒られたりする? 


「……先に出てくれる? すぐ追いつくから、その間にミオちゃんのほうに行ってくれると、ありがたい、デス……」


「わ、わかった」


 お怒りとかでは無かった。ならいいが、何か動揺のようなものを感じる。なにかしてしまったか……?

 とりあえず部屋を出る。澪の方に行って、か。そろそろ着替え終わっただろうか。


 ***(アカリ視点)


 ユーマくんが部屋を出た。念のため一拍置いてから。


「……はぁぁぁぁぁっ」


 大きなため息一つ。

 彼とのやり取りに問題はない。だが昨晩の――。


『だってアイツが好きなのは・・・・・・、アンタ。煌城さんのはずだから』


 と言ったミオの言葉が忘れられない。もしそうなら、似合ってるって、カワイイって。


「うううぅぅぅ……」


 熱い顔を必死に冷やそうと手を当てる。耳も熱い。ダメだ。

 もし。もし本当にアタシに気があるとしたら……。どんな顔をすればいい?


「……」


 一周回って腹が立つ。軽々しく似合ってるとかかわいいとか言うなよ、って。

 さらに半周して、悩む。本気でそう思って言ってるなら……?


「う~~……」


 この後ユーマと合流、と考えるのがモヤモヤするようになった。


 ***(視点戻って)


 ……。流石に澪も着替え終わっただろう。もう一度部屋に向かう。

 先ほどの事件だって気をつければいいだけの話だし。二度は失敗しない。

 まずノックして……とか考えていたら戸が開いた。


「あ……」


「……」


 部屋から出てきたのは当然澪だ。そして、魔法使いとしての衣装を纏っている。

 さっきの煌城さんがキラキラだとすれば、澪はほの暗く輝く黒曜石のような雰囲気を感じる。その黒の服に銀の装飾が入った感じ。大人っぽい。

 廊下で出会って10秒程度黙って(見惚れて)しまっていたが、感想とか言った方がいいだろうか。となれば……。


「——似合ってる」


「へ?」


 先に口を開いたのは澪。自分で似合ってる、と言ったのか?


「……って言おうとしたでしょ?」


 全くもってその通り。じゃあなんだ、他に声をかけるべきは。

 まじまじと見る。もっと全体を見るべきなんだろうが、その、しっかり強調された胸に目線が何度も吸い込まれる。しかしだからと言って感想が「エロい」は良くないだろう。なにか、ええと……。


「か、カワイイ、と思うぞ」


「どうせアカリにも同じ事言ってるんでしょ」


 バレてる。流石幼馴染、か。それとも俺の語彙力が足りなさすぎるのか?

 しかし、カワイイも似合ってるも本当だし、なんて言えばいいのか。と、顔に出るほど考えていたのだろう。澪は「ぷっ」を笑い出す。


「な、なんだよ」


「アンタのことだからどうせ語彙力が~とか思ってるんでしょ」


「……。まぁ」


「いいんだよ。そんなありきたりで。ありきたりだけど、言って欲しいものなの」


 若干の照れが混じった声で言う。そういうものか。


「似合ってるし、カワイイぞ、澪」


 と、言われたので言葉にしたのだが。


「アカリとだったら、どっちがいい?」


 と、さらに詰められた。煌城さんは魔法少女的なカワイさ。澪は魔女っぽい感じだ。それに服をよく見ると飾られた金属の意匠はかなり似ている。多分同じ人が仕立てたんだろう。

 ぶっちゃけ、どっち、と言われたら澪を選ぶが。即答はなんだかよくない気がして悩んだふりをする。実際カワイイのはどちらもだし、澪がいい。と言って関係を崩したくはない。なので、時間を空けてから答えればいい。そう思っていたが。


「おまたせ~」


 後ろから声が掛かった。煌城さんだ。


「ミオちゃんかわいい~」「アカリもかわいいじゃん」


 と女子トークに切り替わった。俺は、ううむ、どうすればいいのやら。

 ……って、ミオちゃんにアカリか。名前で呼び合っている。いつの間に仲良くなったのやら。


「確か広間集合だったよね。行こ!」


 ちょっと疎外感を感じつつも、三人そろって広間へむかった。


挿絵(By みてみん)


 ***(移動中)


 広間に着いた。中央にシルヴィアさん、そこへ至る道を示す様に甲冑の騎士がずらりと並んでいる。


「来たか」


 シルヴィアさんが口を開くと、さっきまでわいのわいのとしていた空気とは一変し、緊張の空気が走る。


「お前たちの実力は分かっているつもりだ。だからこそ頼まれて欲しい。——魔王の討伐を」


 真剣な空気だ。だが俺にしてみればテンプレート的な展開だ。分かりきっている。


「どうかこの国の未来、君たちに託させてくれ。これまでに散った、仲間のためにも」


 厳かな空気。ノーというつもりはない。謹んでお受けいたします。と言葉選びを終えた後。


「——かしこま!」


 煌城さんがギャルっぽい返事を返す。その答えに一瞬ぽかんとしたシルヴィアさんだが、すぐに笑みへと変わった。


「では、門まで送らせてもらう。……本当は私も行きたかったが、城を空けるのは忍びない。頼んだぞ」


 ――そうこうして。門をくぐり、冒険が幕を開けた。


「これからよろしくね、ミオ。……と、ユーマ」


 煌城さんは名前の方で呼んだ。これから旅をするのならその方が気兼ねないか。


「うんよろしく。きらめ、いや、アカリさん」


「さんはいらないよ~。ってかおんなじクラスメイトだし」


「分かった。じゃあ――アカリ」


 名前呼びも決まった所で、門から伸びる道を歩んでいく。

 さあ、異世界冒険の始まりだ。

本作の応援イラストを描いて下さいました「晴風よ。(はるかぜよ。)」様です。https://x.com/harukaseyo_8?s=21

この場を借りて改めて感謝させていただきます。ありがとうございます。

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