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第13話:計画の成功と、支配の檻

セシリア(誠)は、ヴァルター王子の目を欺き、術式破壊の最終段階へと進んでいた。彼女は、傲慢な公爵令嬢の仮面を被り、ヴァルターの警戒心を「美貌と知識に夢中な支配者」という欲望に集中させていた。


(ヴァルターの支配欲は、俺の美貌と知識に集中している。この男は、俺が何をしようとしているかを技術的に探るよりも、俺という人間をどう手に入れるか、という個人的な欲望に囚われている)


セシリアは、ヴァルターのキャンプから離れた岩陰で、【隠密の聖痕】を手のひらに集中させた。彼女は、改変を終えた術式へと、遠隔で破壊を起動させるための、「影の魔力」を流し込んだ。


セシリアの体から放たれた微細な魔力の波動が、ヴァルターの術式へと流れ込む。


『——成功。聖女イリス嬢への魔力干渉術式は、内部崩壊を開始。再構築は不可能』


セシリアの心に、安堵と達成感が満ちた。これが、「影の聖人」として、彼女に課せられた最大の使命だった。王国の危機は、水面下で回避されたのだ。


セシリアは、すぐに「逃走」の準備に取り掛かろうとした。しかし、その時、背後から深く、熱を帯びた声が響いた。


「見事だ、流浪の魔術師よ。貴様は、私に最高の贈り物をくれたな」


セシリアが振り返ると、そこに立っていたのは、目を光らせたヴァルター王子だった。彼は、セシリアの魔力波動の真の目的には気づいていなかったが、セシリアが何らかの「特別な魔術」を秘密裏に実行したことだけは理解していた。


「王子殿下……何のことで?」


セシリアは、最後の傲慢な仮面を維持した。


「惚けるな。貴様は、私の術式に、私の知らない『何か』を組み込んだ。だが、それこそが、貴様が私に値する女である証拠だ。貴様の知識、貴様の美貌、貴様の全ての秘密。それらは、私の支配下に置かれなければならない」


ヴァルターの瞳は、支配欲と独占欲に濁っていた。彼は、セシリアが何を成し遂げたかよりも、セシリアの「知識の秘密」を奪い、彼女自身を所有することに執着していた。


セシリアの傲慢な拒絶と、秘密裏の行動に、ヴァルター王子の我慢は限界に達していた。彼は、もはや「知識の対価」という建前を捨て、強引な手段に出た。


ヴァルターは、術式破壊の成功に気を取られているセシリアに向け、強力な「支配と束縛の魔術」を瞬時に発動させた。


「貴様の傲慢な口調も、ここで終わりだ。その美貌は、私に隷属している時こそ、最も輝く」


セシリアは、「女性の身体」が持つ魔力的な特性から、彼の術式に一瞬の遅れが生じることを見逃さなかった。彼女は、【影の魔力】を全身に巡らせ、「肉体の感覚」を麻痺させることで、束縛の術式に対抗しようとした。


(まずい。この術式は、『支配者の魔力』と『隷属者の魔力』の接続を前提としている!この肉体は、女性だ……魔力の相性が、最悪!)


TS転生者としての、この肉体への「不慣れ」が、セシリアの一瞬の判断ミスを誘った。彼女の影の魔力が、術式を完全に弾き返す前に、ヴァルターの支配の魔力が、セシリアの女性の魔力回路を、強引に接続し始めた。


セシリアの全身に、熱い鎖が巻きつくような魔力的な不快感が走った。それは、他者の意志が、自分の肉体を通して、魂にまで侵入してくるような、筆舌に尽くしがたい屈辱だった。


「ぐっ……!」


セシリアは、衝動的な怒りでヴァルターを睨みつけた。彼女の前世の男の魂が持つ猛烈な嫌悪感が、冷徹な怒りへと昇華された。


「愚か者め……!貴様が破壊したのは、この国を救う唯一の手段だぞ!」


セシリアの影の魔力は、ヴァルターの支配魔力によって、完全に抑え込まれた。彼女は、物理的、魔力的に、拘束されてしまったのだ。術式の起動には成功したが、脱出の機会は、完全に潰えた。


ヴァルターは、魔力的な鎖でセシリアの両手首を強く拘束し、華やかな金髪を掴んで、強引に自分の方へと引き寄せた。


「貴様の冷たい目も、すぐに私への熱い服従へと変わる。貴様の美しい身体も、貴様の知識も、全て私のものだ!」


セシリアは、肉体的な屈辱と魂の拒絶に耐えながら、冷徹な思考を巡らせた。


(くそっ……!俺の「影の聖人」の使命は果たしたが、このままでは、この肉体はこの男の道具になってしまう……!どうにかして、聖痕の力をこの束縛を解くために使う必要がある……!)


セシリアは、美貌という名の檻の中で、絶体絶命の危機に瀕していた。


その頃、キャンプの周囲でセシリアの動向を監視していたディラン王子は、魔術陣の破壊によって生じた一瞬の魔力的な混乱を察知していた。


(何だ、この魔力の乱れは!流浪の魔術師が、何か危険な行動を起こしたのか!?)


ディラン王子は、セシリアの美貌が隣国の王子に利用されているという可能性に、激しい焦燥感を覚えていた。彼は、セシリアの真意を知るまで、彼女に何かあってはならないという、償いの心からくる強い使命感を抱いていた。


ディラン王子は、【光の魔力】を集中させ、静かにキャンプへと急行した。


彼が、ヴァルター王子とセシリアがいる岩陰に近づいた瞬間、ヴァルターの支配魔力の醜い波動と、セシリアから漏れ出る微弱な抵抗の魔力を捉えた。


(……これは、不測の事態だ!あの女が、ヴァルターに、肉体的、魔力的に拘束されている!このままでは、彼女が何をしようとしていたとしても、取り返しのつかない事態になる!)


ディラン王子の中で、セシリアへの憎悪は完全に消え去り、「公爵令嬢を救う、光の騎士」としての本能的な使命感が、湧き上がった。彼は、セシリアの華やかな金髪と冷徹な美貌が、屈辱的な状況に晒されていることに、激しい怒りを覚えた。


ディラン王子は、【光の魔力】を限界まで高め、怒りの叫びと共に、岩陰に姿を現す直前で、足を止めた。彼は、この一瞬が、セシリアの命運と王国の未来を左右することを、本能的に理解していた。


(冷静になれ、ディラン!無策で飛び込めば、人質に取られる。あの女の秘密を暴き出すためにも、確実に彼女を救い出す必要がある!)


ディラン王子は、セシリアの救出と真実の探求という二つの使命を胸に、介入のタイミングを測り始めた。


一方、王都の大神殿では、聖女イリスが、セシリアから受け取った「感謝の贈り物」と、大神殿の禁書を照らし合わせていた。


イリスは、セシリアが追放前に残した「この国を救ったのは私」という言葉の真意を掴もうとしていた。


禁書には、「影の聖人」の伝説に関する記述があった。そして、その伝説の末尾に、ディラン王子さえ知らない、極めて微細な注釈が書き加えられていた。


『影は、光の器が欠けた時、異なる姿ソウルをもって現れる』


イリスは、この「異なる姿ソウル」という言葉と、セシリアの最後の瞳の冷徹な輝きを結びつけ、ある恐ろしい仮説に辿り着きかけていた。


(セシリア様……もしかして、貴女は……!そして、その『影の聖人』が、辺境で戦っているとしたら……!)


イリスは、ディラン王子にセシリアの真意を伝えるため、辺境への旅を決意した。

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