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「ウラセカイへようこそ」  作者: よつば ねねね
2章「きさらぎ駅」
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7話「ニコル」

「きさらぎ駅」はS県E鉄道沿線に繋がった駅…つまり駅名がことごとく違う異世界では大変分かりにくい事ではあるが

現実のダイヤ通り乗り換えればそこに行き着ける可能性が高い。


…今から行けば3時間程で行ける

それまでに俺とパイセンが物を食べなければ大丈夫だろう


会話してはいけないと言う事もあり、

車内は静かで鬱屈としていた。


「かわいかろ?なあ、かわいかろ?」


「飛行機のハイヒールを折るとね、教会の鐘のようなハードロックが旨味になるの」


かろうじて聞こえてくる「言葉」は単語をただ切り貼りしたような不気味な物で、その異様さにパイセンは震えながらじっと下を向いている


携帯の電源は路線図を確認し

あかねから来ていたテスコにはとりあえず「絶対に大丈夫だ」とだけ返信すると俺はスマホの電源を切る。

下手に電力を消費したくない。


とはいえいくら異世界であってもこの無音の中スマホも無いのは退屈だ

俺は寝落ちないように必死に明日出す動画の事について考えていた。


電車を順調に乗り継ぎドキドキしながらE鉄道へ向かう。

ここまで2時間半も無言でいたパイセンは仮面越しでもやつれているのがわかった。


きさらぎ駅よ、どうかあってくれ…!

祈るように電車に乗ると、何とも異様な光景が目に入った。


「うおっ」


同じ顔をした頭の大きい女性が複数人…楽しそうに談話している

それを見るや否やパイセンが顔を青くして慌てながら俺に


「この人!顔大きくなっちゃってるけどニコのお母さんだよ!、!!!」


と書いたスマホのメモ画面を見せて来た。


ニコさんの…?てことは

まさかニコさんの「母親」は怪異になってるのか!?


2人で目を合わせ青ざめる。


「ねえ、あの子たちいいんじゃない?」


「ええ、凄くいいわ」


会話ができている…?

どっからどう見ても怪異に成り果てているけど

どうやらかなり人間に近い部類の怪異らしい。


俺が警戒していると、パイセンが俺の脇腹を肘でつき、

スマホの電源をつけるようジェスチャーで要求してくる。


どうやら今、ニコのイマスタライブがやっているようだ。


俺がライブを開くと、スマホから悲痛な声で


「助けて!しずく!誰か!」


そう言って画面に向かい叫ぶニコさんが映った。

彼女は、大勢の「ニコさんの母親」に追われている…


ゴチ、と強い衝突の音に、ニコさんが転んでしまったであろうことがわかった。

内カメが上を向いて落ちたおかげで

このライブを見ていたリスナーはとんでもない物を目撃する事になる。


ニコさんは強い光に照らされると、

母親達に押さえつけられ、


電車の中に引き寄せられていった…


「つぎは〜きさらぎ〜きさらぎ〜」


まるでイマスタライブの終わりを解っていたかの様に、タイミング良く入るアナウンスに身を震わせる。


「…」


不気味な予感を感じながらも、俺とパイセンは電車を降りた。


「走れますか?」


「うん」


後ろから伸びて来た複数の手から逃れ、

俺たちは走って駅を出る。


「なんなのあいつら!?」


「わかりません!でもニコさんや俺たちの敵である事は確かです!」


俺とパイセンは必死に逃げる…

しかし、上空が激しく光り出すと思わず足を止めてしまう。

目を細めてしまうほどの強い光が空から降り注ぎ、俺達めがけて電車が降ってくる。

その様はまるで映画で見たUFOの様だった。


「先輩だけでも逃げて下さい、囮になります!」


「は!?ダメ!私が勝手について来たんだよ、そんなのないじゃん!

 逃げるなら2人で…つ、捕まる時も

 2人で、でしょ」


その言葉を最後に、俺の意識は遠のいた…


「まあ…なんて可愛いの?お人形さんみたい」


「可愛すぎやしない?」


薄い意識の中で、ニコさんの母親達の話し声が聞こえてくる。


「ニコルちゃんとはタイプが違うから大丈夫よ

 きっと男の人はニコルちゃんみたいな子を選ぶわ」


「でもこの子の顔どこかで見た事あるわね、

 他の私にも聞いてみましょうか」


「こっちの子も…まあ、人の顔してるし優しそうだからアリ?」


「波里西高校の制服ね、ちょっと偏差値が足りないかしら?」


「偏差値があれでもお金があればありじゃない?この子のサイフブランド物だし結構入ってるわ、若社長とか…実家が太いのかも」


なん…だ?


「体も見ましょ」


母親の手が俺のシャツの襟元に伸びた所で、俺の意識はやっとはっきりした。


「うわあああああああ!」


目が覚めると、俺は縛られながら母親たちに体をまさぐられているという最悪の状況にまず絶望した。

最後に見た電車の中にいるのであろう、細長い部屋の窓には夕焼けを濃くしたような真っ赤な空の色が覗いていた。

何だこれ!何だこれ!何だこいつら!


「あらあら、麻酔に耐性がおあり?」


「ならお酒とか強いかも!

 ほら、変な失敗でもされたらニコちゃんの顔に泥を塗る事になるし」


「体は意外といい感じね、スポーツやってた?」


そんな下品な詮索が続いた後、

俺とパイセンは起こされ大きな部屋に連れて行かれた。


「うそ…しずく!?何でここに…!」


大部屋には、まるで人形が着る様なフリッフリの服を着たニコさんが椅子に縛られている。

俺達を見るなりニコさんはかなり動揺した様子で声を荒げた。


「あら、しずくってもしかして」


「絶対そうよ!Metuberなんて下賎な事してる」


「でも、こっちじゃMetubeはできないし…私嫌よ?またお友達探しに行くの

 だってこの世界の人、顔がぬいぐるみとかなんかそんなのばっかじゃない」


「お母さん…何でこんな事するのよ

 もうしずくを巻き込まないって約束したのに」


ニコさんは震えた声で言う。

しかし母親たちは全く聞いておらず


「ほら見て、顔だけは凄く素敵」


「でもなんか…ふふ、浮気されそうな顔してない?

 仕事できますって感じの美人系は危ないわよ~?」


等、パイセンに失礼な言葉を浴びせていた。


「散々言われてますけど…いいんですかパイセン」


「ん…ちょっと…まだボーッとしてて…」


パイセンの意識はまだはっきりとはしてないようだな、

どうする…?ここでロードを使うべきだろうか?


「また聞いてくれないんだ…

 大体、どうしてこんなことに」


ぶつぶつ呟くニコさん。

どうやら家族仲が悪いって言うのは本当らしい。


「喋れないとか、そう言うのよりはいいじゃない?ね、ほら!

隣に”飾って“あげましょう」


「ほら、男の子は自分で歩いて」


無理矢理ニコさんの隣に座らせられる俺。

…状況が掴めない

”飾って“何をさせるつもりなんだ…?


「ニコルちゃん、他にもこんなにお友達が来たわよー」


ぞろぞろと入ってくる母親達。

入って来た母親の1人が腹話術で見るような人形の頭部を持って笑っている


「さくら…ニコル…」


頭部だけの人形は見た目とは似つかわしくない低い声で何かを呟いていた。


「お父さん!」


お父さん!?…あの人形が?


「ハッピーバースデートゥーユー

 ハッピーバースデートゥーユー」


「ハッピーバースデーディア ニコルちゃん」


「ハッピーバースデートゥーユー」


「皆でお父さんを食べましょ、美味しいのよ〜」


突然歌いだしたかと思えば、

突如ガリガリ、バリバリと音を立てながら人形の頭部を貪る母親達。


気味の悪い光景だ…

幸いパイセンは意識が朦朧として何が起こってるのか解ってないようだが


人形の頭部にピラニアのように群がるニコの母親達…普通に生きてたら絶対に目に入らない光景に唖然としていると、

母親の一人が


「ニコル、プレゼントは何がいいの?」

とニコさんに尋ねる。


彼女はくしゃっと顔をゆがませると

「欲しいものなんかない!今すぐしずくを開放しないと殺すから!」

と叫んだ。


「あら嫌ね、そんな反抗的な態度取って

 いつからそんな子になっちゃったの?」


「きっとお父さんを食べれなくっていじけたのよ

 食べさせてあげましょ」


その言葉から何かを察すると、俺は「やめろ!」と声を上げる。

しかし母親たちは全く気にも留めず、楽しそうに歌い始めた。


ハッピーバースデートゥーユー


ハッピーバースデートゥーユー


ハッピーバースデーディアニコルちゃん


…曲の中で、少しだけニコさんの悲鳴が聞こえると

彼女の口に何かが入るのが見えた。


ーーーーーー


ふとニコルの頭に蘇る、過去の記憶


小学1年生の夏、父の誕生日プレゼントを母と選んだ。

母は「ニコルが選んだものなら何でもいい」と言いつつ、

父に似合うのはこれじゃない、あれじゃない、と私以上に拘っていて

本当に父が好きなのだと子供ながらに感じたのを覚えている。


私も、そんな母が好きだった。


「お父さん、誕生日おめでとう!」


「お、こんないい物くれるのか!?」


母と選んだネクタイピンを渡すと、父は笑顔で付けて見せてくれたっけ。


仲のいい家族、幸せな家

だったのに


「ねえ、しずくの家に勝手に電話入れたって本当!?」


「だって…Metubeなんてやってる時間ニコルちゃんには無いでしょ?

 あんな頭の悪そうな女と付き合っちゃダメ」


「ひどい!お母さんには関係ないのに」


「やめないか、ご飯の時じゃなくて部屋でやってくれよ」


「お父さんも…おかしいと思わないの...?

高校生の友人関係に大人が関わるなんて」


「俺には関係ないだろ、ほらお前の事は全部…お母さんに任せてるんだ」


父は私と母に干渉するのを避けるようになり、対照的に母は私へ過干渉するようになり

何をするにも母の査定が入って息苦しかった、


何度も助けを求めたが、私を助けてくれる筈の王子様は白馬のみ残して消えていった。


いつからこんな事になったんだろう


誰か…助けて


ーーーーー


彼女の姿が変わり切る前に、俺は時間をセーブ地点に戻した。

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