3話「聖者の交信」
「うす!」
深夜12時30分、あかねが集合を掛けた時間に俺はテスコードに入った。
あんな夢を見た後だからか…あかねが生きていることが嬉しくて、思わず上機嫌になってしまう。
「うっす 先生、なんかテンション高くないですか?」
「ちょっと変な夢見てさ」
「…ふーん ま、元気なら何よりです
今日のネタは視聴者からの投稿でして
『セントボーイズ』って言う芸人の事、覚えてます?」
…
一瞬、ヒヤッとした。
夢で見たのと同じ内容…
まさかあの夢が予知夢…とか言わないよな?
俺は何か不意に出かかった言葉を飲み込み、話を続ける
「セントボーイズって…あれだよね、コンビ揃って失踪した」
「そう!ボケの『左マガル』が失踪した後、
後を追うようにツッコミの『右岡進』も失踪したっていうコンビですね」
「今回はその『セントボーイズ』にまつわるリクエストが来てるんだ」
「ええ。
セントボーイズはコンビでの冠番組を持っていなかった…にも拘らず
深夜の1時11分にアナログテレビを見ていると セントボーイズがコンビで司会をしている『聖夜の交信』という番組が映るらしいんです」
「…」
…あまりにも、
あまりにも同じだ、夢の内容と…
嫌な予感を肌で感じていても、何も言えず俺は黙り込んでしまう。
「正直信憑性は薄いと思います。複数の報告があるにはあるんですが…何故かこの人たちその前にも変な物を見たってDMしてるんですよね
釣りの可能性があるにはあるけど…検証する分には法に触れないし良くないですか?」
「…」
ここまで時を巻き戻したかのように同じ文言を投げかけられ続け、動揺してしまう。
これはドッキリの延長なんだろうか?
「マッキー先生?」
「えっ」
「…気が進みませんか?」
「ああ、いや…!面白そうだしやろうか!」
思わずそう答えたものの、勿論乗り気になれるわけはない。
俺は思わず傍らで息絶えそうなあかねの姿をフラッシュバックさせる
…やめろ、あれは夢だ
「じゃあ撮影するから一端ミュートお願い」
俺は気持ちを切り替えてカメラの電源を入れた。
あんな非現実的な夢に怯えるなんて、馬鹿馬鹿しい…
「どうも!マッキーだ!
今日のネタは視聴者さんから頂きました!なんと深夜にアナログテレビをじーっと見ていると…
昔失踪された芸能人の番組が映るっていうんです!」
俺は恐る恐るテレビを付ける。
「こんな感じで砂嵐しか見えないけど…映るかな?」
…
…
ここも夢の中と同じだ、何かが映る訳がない。
「あー、待ってる間にフリートークでもしようかな!
この前…」
~♪
…?
俺がフリートークに入ろうとしたとき、聞いた事のある音楽が耳に入ってきた
この曲は確か…聖者の行進…
俺は思わず振り返る。
そこには、映らないはずの番組がはっきりとテレビに映し出されていた
『セントボーイズの!』
『聖夜の交信!』
「うそ!」
言いながらカメラを向ける。
10年前によく見たような、カラフルでポップな雰囲気のセット
ひな壇にいる人間なのかも疑わしい何か
その中心で「あの」右岡と相方と思わしき男がにこやかに手を振っていた。
彼らはひな壇の何かとは違い「人」と認識できる見た目だが、
ふと動く度に顔が奇妙に歪むのがこの番組の奇妙さを際立たせていた。
『やー、右岡お前知っとる?最近ここに迷い込んでくる
「オモテ」の住人さんが多いんやって』
『危ないなあそりゃ…ほなら今回は!間違って迷い込んだ「オモテ」の人が帰れるように
この世界で気を付ける事ベスト3を紹介しよか!』
オモテ…って夢の中でヒロも言ってたよな、
もしかして俺らがいるこの世界の事を指しているんだろうか?
『第三位!「おじさん」に気を付けろ!』
「!」
どこかで聞いたワードと、映し出された顔に少しの吐き気を覚え目をそらす。
―あいつだ!あかねを刺しやがったあの男!
何で…!夢じゃないのかよ、あれは!
『こいつ、「オモテ」の人間を見つけたら殺しに来よるんよ』
『回避する方法は「オモテ」の人間って気づかれない事やな!
「ウラ」の人間は大体言葉を喋れへんから、何か聞かれても答えない事!
そして二位!「飯を食うな」!』
『腹減っても食ったらあかんよ、怪異になるから』
『怪異になったらもうこっちには戻ってこれへん
大多数の怪異は意思の疎通も取れんらしいで、どうやら』
『そ、俺らが特殊!あはははは』
『一位は…!「逕ー蟲カ豈泌曹縺ォ豌励r莉倥¢繧搾シ」!』
わぁは…
2人の笑い声が、気持ち悪く歪みだす。
一位発表をする前にテレビが再び砂嵐になり番組が見れなくなってしまう。
「き…消えた?」
俺はテレビをゆする。
しかしもう番組は映らなかった。
「あかね…?これ…どういう事なんだと思う…?」
俺は全ての事情をあかねに伝えた。
夢で見た事、今回の事が夢で見て来た出来事と酷似している事…
「なるほど…そっからのこれ、ですか
番組の音声だけは私も聞いてました。
ほぼ何言ってんだか解らなかったですけど…
でもそっか…生きてるんだ、あの二人」
「え?」
「ああいや、こっちの話です。
その夢の内容と繋がってるって先生が言うんなら何か関係があるんでしょうね」
「疑わないの?こんな話
漫画の話じゃないよ?ガチなんだよ」
「ええまあ、変だとは思います けど
ドッキリ仕掛ける計画とか本当に準備してましたし…?
私がオカルト嫌いなのも本当ですし…一旦信じます、一旦」
「…ヒロは…あんな場所で何をしてるんだろう」
「解りませんが、先生がこっちに帰ってこれている以上
異世界から帰ってくる術があってこっちの世界を往来している可能性はあります
セントボーイズの番組内容を信じるのであれば…ヒロさんはしっかり意思の疎通ができていたんですから、『怪異』になっていない可能性も全然あると思いますよ」
…
「ま、とはいえ先生が危険な目に逢うってわかった以上『異世界エレベーター』の検証は辞めておいた方がいいですね
先方に連絡して…」
「待って!あのさ、
俺…どうしても確かめたい事があるんだ」
「確かめたい事?」
「ヒロが…どんな奴なのか知りたい」
あの世界から俺を救ってくれた親友が…
動画の中で楽しそうに笑っているこの男が
どんな人間なのか 俺はもっと知りたい。
それが俺の目標であり、今日まで頑張って来れた理由でもあったからだ。
「まさか…行く気ですか!?異世界!?
会えるかも解らないヒロさんに会いに!?」
「…駄目かな…?」
「命を張ってまでする事とは思えません」
「でも夢の通りなら!ヒロに会えるはずなんだよ!
頼む!後生だ!検証に行かせてくれ…!」
「…わかりました。
私は邪魔になりたくないのでテスコードで連絡を取ってバックアップします
だから、なるべく気を付けて行ってきてくださいね」
「ありがとう!」
これが予知夢なんだとしても、時間が巻き戻っているんだとしても
これはヒロから貰ったチャンスに違いない!
まるで、ドラマや漫画に出てきそうな展開にわくわくすると共に、
ヒロに会えるかもしれないという期待が俺の胸を高揚させた。