【天使】養殖(9)
「ラ……」
「ラ……ラララ……」
意思なき『材人』と化した群衆が、悲しく声をさざめかせてよる。
「ララララ……ラ……!」
この現象引き起こした【邪天使】は、軽蔑する年上の相棒たる【巾着天使】よりも突き抜けてシンプル、かつ徹底した狂乱の徒やった。
(服が似合ってねえ?)
て、彼はいつも思う。
(ちげえよ! 人が服に似合ってねんだよ!)
人間が生み出した衣服は、すでに人間以上の被造物。
人間は衣服にふさわしくない。
服をうやまえ。服を救え。服を虐待するな……!
「ラララララララ……ララララ……ララララララララララ……!」
裸。
服を人から解放すべく、彼は歌う。
「裸……ら……ラ……! ラ裸ラら裸……汚肉で服を串刺スな……!」
少女の力によってすでに『海』と化していた人々が皆、あらたにこの【天使語】の効果を受けてすみやかに着衣脱ぎ捨て、『肌色の海』を現出せしめよった。
ひとたまりもなかったんが、少女と襟紗鈴や。
見知らん老若の、特に異性の、なまの裸形の乱舞を目の当たり、サーフィンどころやあらへん。地べたにへたりこみそうになりながら、自分らのまわりをめぐる『肉の海流』に悲鳴あげてすくんでよる。
その様子をめざとく見つけた【裸天使】が【巾着天使】をつついて、少女らを指さしよった。
二人の【邪天使】は最初この騒ぎに乗じて逃げるつもりやったが(二人ともすでに脱衣ずみ)、気い変えよった。
手近のペティナイフひろたんが【巾着天使】。
脱いだ警官が残していった拳銃ひろたんが【裸天使】。
全裸に凶器一丁かまえて正面から近づき、気づいた少女と襟紗鈴がこちらの意図と正体を認識して失神寸前の恐怖に震えたんをさもうれしそうに笑って、だしぬけに目の前を黄色い風のようなものがよぎったかと思うと頸椎へ強烈な圧迫感じて、二人ともつま先立ちに痙攣しよった。
少女と襟紗鈴の目のまえで【天使長】が両腕かかげて、全裸の暴漢二名の首を後ろからつかんで吊り上げてよる。
全裸で。
「見んといて……お嬢やんらを傷つけんように近づくには、わても脱ぐしかなかったんや……」
て、消え入りそうな声の【天使長】。
襟紗鈴がぼう然と、
「ぇ剃ってる……?」
「吾の趣味そかり」
少女も襟紗鈴もぎょっとして、すぐそばまで来てた【神女】へ振り返りよった。(『【天使】養殖(10)』に続)