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サボり魔王子の家庭教師  作者: 梨乃あゆ
第二部 恋人編
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第6章 サボり魔王子と波乱の幕開け①

アレンとアニスがミルティアの部屋に戻って来たのは夕方のことであった。すでに護衛やエディルダは戻っていたが、部屋に戻るなり彼らは口に手を当て静かにするように合図を送る。言われるがまま静かに部屋の中に進むと、ソファにお互いもたれかかるように2人が眠っていた。手を繋ぎながら幸せそうに眠る2人であるが、ミルティアの顔には涙の後が残っており、彼女がどれだけ傷付き疲れ果てるまで泣いたのか、手に取るように分かる。


 ショコライルは日中眠ることはあまりない。だからこそミルティアと一緒に寝落ちしていることが珍しかった。アレンはショコライルが何故ここまで疲れているのか知っていた。ショコライルはミルティアが愚弄されたあの場で、感情のコントロールが難しくなり、魔力暴走の一歩手前までいってしまっていた。その状態で自分の力だけで魔力を制御するのは、体力の消耗がとても激しい。それに加えて、感情のコントロールもしなくてはならない。怒りの感情を、ミルティアを助けることに気持ちを切り替えることで、うまくコントロールしていった。


 そんなことがあの茶会で行われていたため、ショコライルの疲労も限界がきていたのだ。


 できればこのまま静かに休ませたい。そんなことをアレンは考え、一度退室しようとしたが靴音に気が付いたのかショコライルは目覚めてしまった。




「アレン、来ていたのか。すまない。」

「いいえ。お疲れでしたのに起こしてしまい申し訳ありません。」

「気にするな。」



 ショコライルは未だ起きないミルティアをソファに寝かし直そうとしたが、手を強く握りしめられているためうまくできない。無理に動かしてしまえば起きてしまいそうなミルティアに困っていると、アレンもそれに気が付いたのか「どうかそのままで」と言ってくれるため、ミルティアが肩にもたれたまま、アレンからの報告を聞くことにした。


 アニスにはミルティアに何か掛け物を頼み、優しくかけてもらう。ショコライルが安心させるようにミルティアと繋がった手を少しだけ力を加えて握り返すと、嬉しそうに微笑んでくれる姿に、ショコライルの胸が温かくなるのを感じていた。




 アレンはそこでエクラが決めた処遇の詳細を伝えてくれた。もちろんミルティアを起こさないよう小声である。




 まずは、同調した令嬢達はやはり自宅軟禁を言い渡された。期限は短い者で2週間であるが、中でもメランカに加勢したバヒロ公爵の娘とアマナ伯爵の娘は罪が重いということで、それぞれ半年の軟禁となった。軟禁中は教会が開催するバザーに出品するためのハンカチの刺繍を縫うことを言いつけられた。これらの収益を教会に納めることで、教会が管理し運営している孤児院の運営費用に賄われることになった。ただ自宅軟禁するのではなく、奉仕活動も言い渡した形となっていた。


 続いてはその娘達の父親である。これらは直接手は出していないが、娘達の責任を取るという形で、罰金が言い渡された。罰金は全額寄付の扱いとし、後ほど国中の孤児院に分配されることとなった。



 続いてはサマド公爵だ。こちらも父親に責任はないが、以前別の問題を娘が起こし処罰を与え再教育を言い渡したはずが、再び問題を起こしたためにさらに処分が重くなった。罰金は1番高く設定され、さらに領地の一つを国へ返すことになった。公爵領ともなると一つの領地ではなく、いくらか領地のがあるため、一つくらい取られてもさほど痛くないかもしれない。だが、今回は王太子主催の茶会で問題を起こし処分されるということで、書面にも残されるものである。醜聞が悪くなるのは目に見えていた。

 さらに取り上げる予定の領地では農業が盛んな場所であるため、サマド公爵家にとっては収入の一部も担っていた。そこを取られたことで多少収入面を減らすことにし、財政面も痛手を負うことになった。




 最後は諸悪の根源、メランカだ。王太子のお茶会で暴言、虚言、言い掛かりを行い茶会の席を台無しにしたこと、国王自らが緘口令を敷いた話を他人に無闇に話したこと、また2度目の王太子からの注意ということで罪は重かった。


 反逆罪にもなりそうな罪であるが、ショコライルの希望で極刑は免れた。だがショコライルの前に2度と現れないことの条件をのませるため、2度とリンレッド王国の地を踏まないよう、隣国に住む親戚の家に向かうことになった。修道院に送らなかったのは、未婚の女性でありショコライルがいない異国の地で縁談を結べば、静かに暮らしてくれると踏んだから。

 メランカは異様にショコライルに執着している。だが簡単には行けない隣国へ向かえば、物理的な距離で諦め自分の幸せを見つめてくれると期待したからだ。


 手緩いかもしれないが、ショコライルの前に2度と現れないなら正直言ってどうなってもよかった。もうあの女に会わなくていいことに、ショコライル自身が安心していた。




「いかがですか?」


 一通り説明が終わったアレンがショコライルに確認してくる。静かに聞いているショコライルの反応が気になったのだろう、納得しているのか心配そうにこちらを見ている。




「問題ない。あの女をこの国から追い出すのは賛成だ。」


 そう言いながらショコライルはミルティアの方に視線を移す。ミルティアに最も害となる存在を遠ざけるだけでも、彼女の憂い(うれ)は少しは晴れるはずだ。

 傷付けたくないのに側にいるだけで傷付けてしまう……もう今回が最後にしてほしい……そう願わざるおえなかった……。




 ――――――――――――



 ミルティアは目覚めた後も食欲が湧かず、心配する皆に礼だけ伝え、そのまま身支度を整えて眠って休んでしまった。



 ショコライルも久しぶりに疲れが出ているため、早めに休もうと思ったがアレンより急な来客があるということで、服を着替えると急いで執務室へ戻った。



 応接間には、サマド公爵、バヒロ公爵、アマナ伯爵が揃い皆神妙な面持ちで控えていた。



 ショコライルが入室すると一気に姿勢を正し立ち上がる。着席するよう伝えても座らず、彼らはそのままとても深いお辞儀をし謝罪の気持ちを表した。


 ショコライルが再び顔を上げ着席するよう伝えると、各々がゆっくり顔を上げ座っていく。サマド公爵はひどく疲れた顔で怯えており、バヒロ公爵は反対に悔しさを滲ませている。アマナ伯爵に至っては態度だけ反省をしているが、内心納得できていないのが顔に表れていた。


 何をしに来たのかと特に後ろの2人に至っては思うが、そんなこと話してもどうしようもない。形だけでも話を聞き、これ以上事を荒立てないよう取り繕うことにする。



 話の中で、メランカの出発が1ヶ月後だということが伝えられた。思いの外早い手筈に驚いたが、それが国王と王太子への忠誠の印だとサマド公爵なりの誠意のようであった。




「……アレン、どう思う?」



 公爵達が退室した後、防音魔法をかけアレンの意見を聞く。



「少なくとも、サマド公爵以外は反省していませんね……。」

「……だよな……。」

「それにしても何故サマド公爵もあのような娘を育て上げたのか?もう少しまともに育ってもよいものを。」

「……だな。サマド公爵も娘を溺愛している。だがリリアージュ男爵と異なるのは、甘やかし方だな。」

「甘やかし方?」

「あの苛烈な性格だ。欲しい物はなんでも与えていたのだろう。努力を怠っても見て見ぬふり……。その違いだろうな。」

「なるほど……。」

「…………とりあえず俺はさすがに疲れた。今日は休む。」

「お疲れ様です。後は私が行っておきます。」

「助かる。お前も早めに休めよ。」



 ショコライルはアレンを気遣うと、そのまま執務室からミルティアの部屋まで移動し、早めに休むのであった。




 ―――――――――



 翌朝、昨日酷く泣いたはずのミルティアだがアニスが目を眠る前に冷やしてくれたお陰で、そんなに腫れずに済んだ。アニスに感謝を伝えながら、身支度を行ってもらう。いつも通りの穏やかな日常を過ごせるのは、アニスが普段通り接してくれるおかげである。昨日の出来事を気にして腫れ物に触るような扱いをせず、ただ気遣い普段通りでいてくれるアニスに、ミルティアは安心感を覚えていた。



 寝室から居間に移動しても、それは変わらない。護衛の騎士やアレン、そしてショコライルもアニスと同じように接してくれる。それだけでミルティアはこの幸せな日常が、ミルティアの居場所であることを思い出させてくれる。

 傷ついた心はすぐには癒せない。だが、その傷を癒してくれる人達が沢山いること、この場所にいることは間違いではないと思えるだけで、少しずつミルティアの心の傷は癒されていく。



 今日はショコライルが1日ずっと側にいてくれると食事中伝えられ、ミルティアは嬉しくてしかたなかった。ショコライルと離れると不安に苛まれそうであったからだ。食事を摂るテーブルの上には一輪の白い薔薇が花瓶に入れられ食卓に花を持たせる。


 昨日ショコライルから貰った薔薇を見るだけで、ショコライルから伝えられた気持ちが思い出され、ミルティアは途端に幸せな気持ちに包まれる。たった一輪の花でも、ミルティアにとってはかけがえのない大切な花となっていた。


 ミルティアが嬉しそうに薔薇を見つめているのを、ショコライルは優しく見守る。穏やかな顔のショコライルなど、ミルティアが王城に来るまで見たことがなかった部下達は、想い合う2人を優しく見守る。



 穏やかで温かい時間は、まだ始業前の時間だというのに扉を叩く音で終わりを告げるのであった……。

 

お読みいただきありがとうございます

第6章始まりました


さらに物語は進んでいきます



続きは明日の11時に更新予定です




引き続きよろしくお願い致します

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