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サボり魔王子の家庭教師  作者: 梨乃あゆ
第二部 恋人編
96/183

第5章 サボり魔王子のお茶会⑥

話の関係でとても長くなっています。

最後までお読みいただけると嬉しいです

ショコライルは非常に怒っていた。怒っていたなど簡単な言葉では済まされない程、腑が煮えくり返し今にもメランカを斬るりつけそうであった。だがそれは流石に行わない。メランカを傷つけるのなど厭わないが、ミルティアの目の前で惨劇は見せられなかったからだ。

 今誰かが斬りかかっても咎めない。むしろ誰か斬りかかってくれとさえ願ってしまっていた。


 

 本当はメランカがミルティアに接触した時点で動きたかった。だがそれはアレンによって止められた。今動けば2人の仲を勘ぐられるかもしれない。

 幸いミルティアの周りには学友が守ってくれていたため見守ることにした。ローエ達が庇うのに一歩も引かずむしろさらに口撃を強めるメランカ。斬りかかっていいか何回も目配せしてくるアニスに、つい許可を出しそうになるのを我慢できたのは、エディルダが必死にアニスが剣に手をかけるのを押さえつけていたから。状況を冷静に判断し、今は時期ではないと見極める確かな目は、やはり護衛騎士隊長である。



 

 マティアが助太刀したのは予想外であったが、ルースがアレンのように詰め寄っても埒があかず、ついに我慢していたエディルダまで限界を迎えたことで、いよいよ自分の番だと思い動こうとした矢先、信じられない言葉にショコライルの僅かばかり残された、穏便に済ますという理性は崩壊した。



 


 ミルティアにはあまり聞かせたく声でメランカに詰め寄ると、ようやくメランカは大人しくなった。先程の威勢は何処へやら、無駄にしおらしい態度に嫌気がさす。




「ご機嫌よう、ショコライル様。お会いできて光栄です。」

「これはどういうつもりだ。サマド公爵令嬢。」

「才女と名高いミルティア様にご挨拶していただけですわ、ショコライル様。」

「……サマド公爵令嬢。まず初めに伝えることがある。」

「何でしょうか?」



 直々に伝えられる言葉が嬉しいのか瞳を輝かせるメランカ。周りは彼女の変わりように白々しい目さえ向けていることすら気付かず、ショコライルをただ嬉しそうに見つめている。ショコライルはその視線すら鬱陶しいというように、わざと聞こえるように大きなため息を付くと、大声で周りに聞こえるように伝えた。



「誰が気安く名を呼んでいいと言った?」

「えっ?!」



 あまりの口調と話し方に、さすがのメランカもショコライルから向けられる態度に気が付き始めた。父親のサマド公爵はようやくことの重大さに気付いたのだろう。真っ青な顔で息を切らして駆け寄ってきた。




「聞こえなかったか?私はこの国の王太子。公爵令嬢だからと言って許可無く愛称で呼ぶなど許されない。」

「も……申し訳ありません。」



 ショコライルから向けられる軽蔑したような目、きつい命令口調に、メランカはようやく謝ることをした。マティアやルースにも噛み付いた女がようやくだ。



 だがこんなことでショコライルの怒りが鎮まるわけはない。ショコライルは尚もメランカを追い詰めていく。ミルティアがやられた悔しさ、辛さ、怖さを思い知らせるように。




「もう一度聞く。リリアージュ男爵令嬢であるミルティア嬢を何故陥れるような態度を取った?」

「そんなことは……しておりません。」

「そうか?私にはそう見えたのだが……なあアレン?」

「ええ、私もそう見えました。」



 名前を呼ばれたアレンは、これまた酷く冷たく表情が全く読み取れない張り付いた笑顔で、メランカを見つめる。目は笑っておらず、酷く低い声。怒りで震えている声からも、アレンの怒りが相当な物であることが伝わってくる。



 メランカはアレンの圧に押されるように、ドレスの裾を手で掴み、微かに震えている。だがそんなことで容赦などしない。



「答えないなら聞くまでだ。カルレッタ公爵子息ルース殿、私の見間違えか?」

「見間違いなど決してありません。この者は、ミルティア嬢を傷付ける言葉ばかり並べ、あらぬ噂まで流しております。」


 

 名前を呼ばれたルースは、アレンと同じような顔をしながら首を横に振るとはっきりと宣言した。



「ああ……確か自分の方がミルティア嬢より賢いというやつか?」

「ええ……。ですが不思議なのですよ。フェリア語での会話が出来なかったのです。」

「それはおかしいな?あの言語は必修のはず……どういうことだ?」



 ショコライルに尋ねられてメランカは身体を強張らせる。突けばすぐにつらつら言葉を発していた人物と同一人物など、とても思えないほどであった。

 何も答えないのが全てを物語っていた。ショコライルは深いため息を吐いた後再び追求を開始する。




「先程ミルティア嬢に言った言い掛かり……男を誑かす、男性教師を誘惑し試験結果を融通させる……これは誰の事だろうね??当てはまる人物に先程思い当たったよ……まあそれは今度きちんと調べさせてもらおう。さて、話はまだ残っている。」




 メランカはもう何も言えず俯くことしかできなかった。だがそれすらショコライルは許さなかった。




  


「前を見ろ。自分が行った事の重大さを理解するんだ。」


 厳しい声に震えが止まらないメランカは、ゆっくり顔を上げると目に涙を浮かべていた。涙目のメランカは庇護欲をそそるのかもしれない。だがショコライルには全く効かずむしろ逆効果であった。



「何を泣いている?全て君が行ったことだ。今泣いていいのは理不尽に大勢の前で罵倒されたミルティア嬢ただ1人だけだ!」



 


 ミルティアはその言葉で、必死に押し殺していた気持ちが溢れそうであった。本当は怖くて悔しくて泣きたかった。だが泣いたら思う壺だと思って耐えていたのだ。ショコライルはそんなミルティアの気持ちを理解するように、ミルティアの心まで溶かしてくれる。だがまだ泣くことはできない。全て見届けなくてはいけなかったからだ。




「サマド公爵令嬢。あなたはとんでもない罪を犯した自覚はあるか?」

「……罪ですか?」

「ないのか……。よくそれで公爵令嬢が務まるものだ。君はミルティア嬢が私の家庭教師だと大勢の前で話した。それがどれだけ罪か理解しているか?」



 メランカに分かりやすいように伝えたはずだが、それでも伝わらない。痺れを切らしたショコライルは、全て細かく説明することにした。




「国王陛下は私の家庭教師になるミルティア嬢の名誉を守るため、私の家庭教師というのは公にしていない。これは国王陛下からの命令でだ。ごく一部の人間しか知らない情報を、ただの公爵家に産まれたというだけの君が簡単に公にした。これは陛下に対する不敬だということだ。そして私も陛下の考えに同調した。つまり王太子である私への不敬ともなる。」



 リンレッド王国の上に立つ2人に楯突いたということは、とんでもないことである。メランカは怒りのあまり喋り過ぎた。だが時は戻せない……ようやく自分の置かれた状況を理解できたメランカの唇は蒼白くなっていた。




「本来ならその場で不敬の罪で斬られるなり牢に入れられるなりしてもおかしくない。そうなっていないだけ感謝するべきだ。」



 そこまで言うと、ショコライルは今にも倒れそうなメランカを支えるサマド公爵に目をやった。





 


「今回の件は国王陛下に伝えた後、沙汰は追って報告する。それまで娘は自宅軟禁すること。……決して甘やかすな。」

「……仰せのままに。」

「サマド公爵、その間娘の再教育を。一度目でも伝えたはずだが改善していない。もう甘やかす時期は過ぎている。あなたは陛下が認めて今の地位があるはずです。娘のせいであなたがこれ以上活躍の場を奪われないことを願います。それができないのなら……3度目はないと心得てください。」

「心得ております。」

「では自宅軟禁したか確認のため、私の騎士が立ち会います。よろしいですね?」

「……もちろんです。」

「では先に公爵がお帰りください。部屋の支度もあるでしょう。2時間後に届けにいきます。」

「畏まりました。」



 サマド公爵はそう言うと慌てて会場を後にした。1人残されたメランカは不安そうに父親が立ち去った方向を見ている。だがそれを助けたり声を掛ける者は1人もいなかった。



「お前達、公爵令嬢を連れて行け!」



 ショコライルの言葉を待ってましたとばかりに、護衛騎士2人がメランカの両脇を抱えて連れて行く。「わたくしは公爵令嬢よ!」と喚いて連れて行かれる様から、反省は見受けられなかった。




 



 静まり返った会場で、ショコライルはまだやり残したことがあった。まずはメランカに同調してミルティアを愚弄した令嬢達を全員自宅軟禁にした。期限は後程告げることになったが、忌々しそうにショコライルを見ながら娘を連れて行く父親達は、メランカ同様反省していないのであろう。



 問題児がいなくなった会場で、今度はマティアに近づいていった。


 


「チースイ辺境伯子息マティア殿。よく勇気をもって対峙してくれた。彼女の代わりに礼を言う。」

「勿体無いお言葉です。」



 ショコライルはもう一度ミルティアを見つめて、優しく心配いらないと伝わるように微笑むと全員に聞こえるように話し出した。




「ミルティア嬢の名誉のために話す。彼女は父親に頼み込んで私の家庭教師となったのではない。どの家庭教師でも長続きしない私のために、国王陛下自らがリリアージュ男爵に頼み込んで来てもらっているのだ。彼女は非常に優秀だ。それは私と側近であるアレンが保証しよう。」



 アレンはそれに同調するように静かに頷く。



「今日見て聞いたこと全て他言無用で頼む。ここでの事が知れ渡った場合、漏らした者は先程の令嬢達のようになると心得よ。」



 ショコライルの立ち振る舞い、言葉遣い、態度から、噂されているサボり魔王子の片鱗は見受けられない。この場にいる全員が今目の前にいるショコライルこそが、真の王太子殿下としての姿であることを理解しつつあった。


 ショコライルから発せられる威厳はまさに王太子として相応しく、全ての者がショコライルの言葉を聞き入り肝に銘じるのであった。





「騒がせてしまい申し訳ない。せっかくの会だ、楽しんでいってくれ。アレン!」

「はい!」

「すまないが私は興が醒めた。これはお前に返す。」

「畏まりました。」



 ショコライルはアレンに胸ポケットに入れていた一輪の白い薔薇を渡した。この会ではこの薔薇はただの飾りではない。ショコライルがこの会の間に1人の令嬢にこの薔薇を渡した場合、それはショコライルがその令嬢を見初めたということになる。だがそれを令嬢にではなく側近に渡した場合は意味が変わってくる。

 側近に渡すということは、ここには見初めた令嬢はいないということを意味していた。つまりこの会の開催意義がなくなったことになり、会の終了を意味していた。




「カルレッタ公爵令息ルース。よくやってくれた。」


 ショコライルは立ち去る前にもう一度振り返ると感謝を伝えた。



「当然のことをしたまでです。」

「そうか……それからミルティア嬢の学友もよくやってくれた。君たちと同じ空間で学んでいる事を誇りに思う。」


 ショコライル直々に感謝を伝えられたミルティアの学友達は、嬉しそうに表情を緩ませていた。そんな子供達を親は自慢げに見つめている。とても温かい時間が過ぎようとしていた。



「それからミルティア嬢。」



 最後にショコライルはしっかりとミルティアを見て声をかけてきた。その目はしっかりしているが、不安で少しだけ揺れ動いているのがミルティアだけにはわかってしまった。



「はい。」

「此度の件、全て私の責任だ。あなたを傷付けて申し訳ない。リリアージュ男爵も申し訳ないことをした。陛下より今回の件で謝罪がしたいという旨を預かっている。陛下の応接間まで私の部下がご案内致しますので。」



 ショコライルは目配せすると、待機していた部下にバーナードを案内させた。すれ違いざまバーナードがショコライルに耳打ちするように「感謝します。」と言った気がしたが、誰も聞こえてないらしく正解はわからなかった。



「ミルティア嬢……今日は疲れただろう?アレン、彼女に部屋の用意を。それからアニス、エディルダ!彼女を部屋まで案内するように。……少しばかり休んでくれ。」



 そうミルティアに告げると颯爽とアレンと共に姿を消してしまった。残されたミルティアにアニスとエディルダが付き添い、部屋に案内すると言う。その前にミルティアはやり残したことがあったため、時間をもらうことにした。




「ローエ様、そして皆様本当にありがとうございました。」

「気になさらないで。それよりミルティア様お仕事は大変ではなくて?」

「ええ……とても楽しいです。」

「本当か?」


 ローエとの会話を遮ったのは、レイドだった。酷く悔しそうな顔は初めて見たが、ミルティアのことをこれほど自分のことのように悲しんでくれる人、心配してくれる人に囲まれていることを知り、ミルティアは改めていい仲間を得られたことを実感した。



「はい!ここはわたくしのことを爵位に関わらず認めてくれます。それは……とても嬉しいことです。」

「そうか……困ったらいつでも連絡するんだぞ。」

「あっわたくしもですわよ!!是非お茶をいたしましょう。だめかしら?」

「だめなんて……そんなことありませんわ!わたくしからご連絡致しますね。」

「ええ……必ずですわ。でも今はお休みくださいね。」

「はい、ありがとうございます。」


 ローエ達に感謝を述べると次はルースとマティアの元に向かった。

ミルティアが話す前にルースが何故か話し出した。


 


「怖かったね、ミルティア嬢。私はアレンからあなたのことは聞いていたので畏まらないで。ルースとあなたは呼んでいいからね。」



 先に話したのは普段通り呼んでもらうため。ルースの配慮と優しさにミルティアは感謝し自然と笑顔になる。



「本当にありがとうございました、ルース様。いつもアレン様には助けていただいてばかりで……ご迷惑をおかけすることもあるかとは思いますが、今後ともよろしくお願い致します。」

「こちらこそよろしくね。」



 

「それから……」



 

 ミルティアは最後にマティアに向き合った。マティアもまたルースと同じ対応を取ってくれた。




 


「どうぞあなたにはマティアと呼んでいただきたいです。」

「お気遣いありがとうございます……マティア様。見ず知らずのわたくしのためにありがとうございました。」

「とんでもありません。あなたの噂は父上から聞いておりました。噂通りの素敵な方でしたので、つい助けたまでです。それに……」

「それに?」

「……あなたは私の大切だった人に似ています。髪色がちょうど今の貴方が着ているドレスのような、貴方みたいな素敵な気遣いができる女性です。」

「そうなのですか……」

「はい。だからかもしれません。身体が勝手に動いていました。」

「……」

「彼女は私の大切な友人の大切な女性なのです。あの2人には幸せになってほしいと願っています。そんな彼女の面影に似た貴方も幸せになっていただきたいです。」

「ありがとうございます……。本当に助かりました。」



 マティアの言葉はミルティアの心に優しく沁み渡り泣きたくなる。こんなにも想われて、恋敵のショコライルとの幸せを願ってくれる。今だって面識がないはずのミルティアを守ってくれた。本当に素敵な方であり、マティアにも是非幸せになってほしいと願いながら、ミルティアは一礼するとアニスに続いて茶会の会場を後にするのであった……。

 

お読みいただきありがとうございます



続きは明日の11時に更新予定です




引き続きよろしくお願い致します

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