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サボり魔王子の家庭教師  作者: 梨乃あゆ
第二部 恋人編
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第5章 サボり魔王子のお茶会⑤

声の主はそのままミルティアとメランカの間に立ち塞がった。助けに来てくれた人物を見て、思わずミルティアは泣きそうになる。それは再会を約束したマティアであった。マティアはミルティア達に接していたような笑顔は一切なく、睨みつけるような厳しい目と低い声で、メランカ達を無言で威圧していた。


 だがそれに負けないのがメランカである。不愉快という態度をあからさまに顔に出して噛み付く。



 


「どちら様ですの?今女の話をしてますの。女性の話に入ってくるなんて失礼ではなくって。」

「これは失礼しました。確かに私はこちらにいる女性とは面識はありません。ですがあまりに聞くに耐えれませんでしたのでつい声を掛けてしまいました。私はマティア。辺境の地チースイの者です。」


 チースイという名で、先程までの険しい顔が一転して急に猫撫で声を出し、潤んだ瞳を向けてくる。


 


「まあ!あなた様が噂の次期チースイ辺境伯様でしたか。お初にお目にかかります、メランカ・サマドですわ。お会いできて光栄です。」


 


 どうやら立場と将来性を判断して対応を変えたらしい。あまりの変わりようにミルティアは驚きつつも、先程まで感じていた違和感の正体にようやく気が付いた。


 メランカは学園一の美貌と言われ淑女の鏡とすら言われていた。だがオシリス祭で見た姿と今目の前にいる姿は、確かに美しくはあるが、淑女の鏡かと言われれば疑問が残っていた。

 他人を貶める言動や行動は淑女としても、何よりも人としておかしい。だが先程マティアに見せた態度は淑やかで、美しい容姿が相まって確かに淑女の鏡と言われそうであった。



 学園ではその姿を見せていたのであろう。だからこそ学園一の美貌で淑女の鏡と言われているのだとミルティアは納得していた。




「メランカ嬢。私もお会いできて光栄ですよ。」

「まあ嬉しいですわ!」

「ええ……あなたのような裏表がある令嬢がいることを勉強させていただきました。婚約者選びは人伝ての話を鵜呑みにするのではなく、自分の目を信じるようにします。」

「なんですって!」



 マティアに褒められて喜んだのも束の間、あっという間に拒絶された言葉に、メランカはみるみる顔をこわばらせていく。怒りの矛先はやはりミルティアに向いた。



「おかしな事をおっしゃいますわね。あなたは彼女のことをご存知ないのでしょう?彼女は学園で男を(たぶら)かしていると言われているのですよ?見た目に騙されてはいけませんわ。わたくしは忠告を差し上げているのです。」



 もう3年も前の根も葉もない噂を再び蒸し返される。何故2つ上の学年であったメランカにそのことを蒸し返されるのか……偽りの話であるのに理不尽に掘り起こされ、ミルティアの心はぐちゃぐちゃにされた。立っているのも苦しく、呼吸が乱れる。周りには守ってくれる沢山の人がいることをわかっているのに、恐怖に支配されそうで怖くて仕方なかった。





 


「あなたは何をしたいのですか!」



 とても力強い怒りに満ちた声が響き渡る。下を向いていた顔を上げると、ミルティアの前、マティアの横にまた1人の男性が立っていた。

 マティアよりもあからさまに嫌悪感を丸出しにし、メランカを睨みつける男性は、ルースであった。




「ルース様?どうされたのですか?わたくしはこちらのマティア様に事実をお伝えしているだけですのに。」

「事実?どこに事実がある。あなたが言った言葉全てが偽りの塊だ。」

「なんですって?!」



 2人の男性に否定され、メランカの怒りは頂点に達しそうで怒りで顔が赤くなっている。手に持っていた扇子は今にも折れそうで、軋む音を立てるほど強く握りつぶしている。




「アレンから彼女の話はよく聞く。とても聡明で努力家。仕事は優秀で手放すのが惜しいとね。」

「そんなわけ……あるわけないわ!!!」

「何故言える?」

「彼女は男性の先生を惑わし、試験を融通させたのです。ショコライル殿下にお近づきになるため、同じクラスにしてもらったのですわ。」

「どこに証拠がある?」

「証拠など調べればすぐですわ。だっておかしいでしょう?男爵令嬢が上のクラスに来るなど!」

「なるほど……ではあなたは彼女より賢いと?」

「もっ……もちろんですわ!わたくしは6年間ずっと上のクラスでしたから!」

「なるほどね……。では……」



 ルースはその言葉を待っていたとばかりに、不適な笑みを浮かべるとメランカに向かって大声で話した。まるで会場にいる人全員に聞かせるように。



「ではサマド公爵令嬢、貴方が賢いなら右手を挙げなさい。」


 言われたメランカはただ瞬きするだけで何も動かない。まるで何を言われているのか理解していないような対応であった。周りの令嬢達はただメランカとルースを交互に見ながら怯えているようであった。



「なるほど、貴方は賢い方ですね!」



 ルースがやりたい事に気が付いたマティアは笑いながらルースに語りかける。だがやはりメランカは動かない。

 ルースは今度はミルティアの方を見ると同じように尋ねた。ミルティアは言われた通りおずおずとゆっくり右手を挙げる。だが「賢くはありません。」と付け加えることは忘れない。そんなミルティアの態度にマティアとルースは声を出して笑い「貴方は真の淑女ですよ。」と語りかけてくれる。



 そんな穏やかなやり取りが面白くないのは、蚊帳の外のメランカだ。



「何が面白いのですか!!訳が分からない言葉を話して!」



 そう、メランカが動かなかったのは何を言っていたのか分からなかったから。ルースはメランカに母国語ではなく、異国の言葉で語りかけていたのだ。



「分からない?私が話した言葉が??おかしいですね、私が話したのはフェリア国で使われているフェリア語。リンレッド王国と友好国であるフェリア語は、必須科目です。あなたは確かこの言語の試験は満点のはず。なのに話せない、聞き取れないなどおかしな話ではないですか?大変簡単な単語で話しただけですのに。ミルティア嬢はきちんと聞き取り、指示通り動いてくれた。あなたの後ろに突っ立ている令嬢達も、動かないあなたを驚いて見ていましたよ。」




 ルースのあまりの態度に、やはりアレンの兄なのだと納得してしまう。鋭い指摘、言い逃れできない状況を作るのはとても上手いと感心してしまった。



 言われた瞬間もの凄い剣幕で振り返り、擁護していた令嬢達を睨みつける。睨まれた彼女らは皆視線を逸らしてしまう。彼女達を繋ぎ止めているのは友情ではなく、地位だけの絆。だからこそ簡単に貶す事もできるし、裏切る事もできる脆い関係のようであった。




「ルース様、誤解ですわ。突然のことに驚いただけで。」

「ならもう一度話しましょうか?」

「いえ……ですがルース様!」

「先程から何度も私の名前を呼びますが、名を呼んでいいとは一言も言っておりませんよ()()()()()()()。」

「……わかりましたわ……。ではカルレッタ次期公爵様。貴方様はご存知でして?アレン様も誑か(たぶら)されていらっしゃるかもしれませんよ?」

「何をですか?それにあのアレンが誑か(たぶら)されるわけがないでしょう。」

「ミルティア様は、ショコライル様に気に入られようと必死です。その証拠に、ドレスの色は諦めてもショコライル様の瞳の色を身につけております。下級貴族などお側に行く事も畏れ多いことなのに。それなのにリリアージュ男爵に頼んで今やショコライル殿下の家庭教師なのですよ!!」




 その瞬間会場が静まり返った。マティアが来た辺りから異変に気付き始めた人達は、この騒動を見物しており今やお茶会どころではなくほとんどの人がミルティア達を見ていた。だからこそメランカの言葉に皆が驚き言葉を失った。それはミルティアの友人達もだ。


 ショコライルの家庭教師のことは、秘密であるためミルティアはアレンの事務補佐としか伝えられていない。それが王族と関係ないメランカによって晒されてしまったが、メランカの父親は魔法騎士の特別顧問であるため信憑性が高く皆信じてしまった。




 ミルティアを怪訝そうに見る目、好奇の目、様々な視線を向けてくる。バーナードはマティアやルースが援護してくれたお陰で静かに怒りを宿して聞いていたが、我慢はとうの昔に過ぎてきた。今にも殴りかかりそうなほど拳が震えている。



 アニスとエディルダはもう見ていられないというように、ミルティアの側に駆け寄ってくる。ルースは軽蔑するような目でメランカを見るし、マティアは驚きつつも、ルースと同じでメランカを睨みつけている。




 ミルティアはいよいよ怖くなってきた。家庭教師だということを大勢の前で知られてしまった。エクラからの達しを無視したこの行動の原動力になるほど自分がメランカに何をしたのかわからなかった。わからないからこそ、反省することもできず、ただ恨まれ、憎しみを持たれることが怖かったのだ。我慢していたのに身体はついに抑えが効かず震えが止まらない。立つこともままならないがここで倒れてはまた変な言いがかりをつけられるかもしれない。それだけは避けたい。だからこそなんとかこの場から逃げ出したかった。



 そんなミルティアを助けるように一筋の光がさした。




「そこまでだ!!」



 酷く低く怒りが最高潮の声。だけど怖くはなく安心できたのは、その声の主が大好きな大切な人だったから……。颯爽と現れた王太子の装いを纏ったショコライルは、ミルティアに軽く微笑むとすぐに鋭い目をしてメランカを睨みつけるのであった……。

お読みいただきありがとうございます



続きは明日の11時に更新予定です




引き続きよろしくお願い致します

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