第5章 サボり魔王子とお茶会③
お茶会は王城にある広い庭園で開催された。お茶会であるので美味しそうなケーキやお菓子の他に、軽食も用意されていた。
庭園にはいくつか円卓は用意されていたが、立食形式であり、自由に過ごせるためそれほど肩肘を張る必要はなさそうであった。
お茶会の参加者を見て気が付いたことは、ほとんどの令嬢が深い青色のドレスを身に纏っていることであった。それ以外の色はちらほら見受けられるが、圧倒的に深い青色が占めており、ドレスコードでもあるのではないかと錯覚してしまう。それほどここに参加した令嬢はショコライル目当てであるということが嫌でもわかる。
「大丈夫か?」
横でミルティアをエスコートするバーナードが心配そうに見つめるため、ミルティアは心配させないように微笑んでみせた。だが娘のことなどお見通しなのが父親である。
「安心しなさい。彼の心はいつだってお前にある。そこは信じなさい。」
「悔しいが」と小さく付け加えてはいたが、バーナードの気遣いは有り難い。俯きそうな顔を戻しもう一度周りに目をやると、アニスとエディルダが目に入って来た。
護衛として参加のため、アニスも騎士服を身に纏っている。女性なのに凛々しい姿に思わずかっこいいと言いながらアニスに駆け寄りたい気持ちをグッと我慢して、微笑んでみる。2人とも周りに目を配りながらもミルティアのことは常に見てくれているため、すぐに微笑み返してくれるだけで、心強くなれた。
ミルティアとバーナードはなるべく後ろの方に控えることにした。前の方には上流貴族が陣取っており、父親も国王陛下の重役が多いため、皆自信にみなぎっている。ドレスの色は深い青色で同じであるが、煌びやかな宝石やふんだんに使用したレースで他者と差をつけている。誰が見てもそこにとんどもない額が費やされたことは明白であった。そんな大金を積むのも厭わないほど、王太子妃というのは魅力的なのだろう。
中でも1番目立っていたのは、サマド公爵令嬢であるメランカであった。オシリス祭でも他国の来賓よりも華やかなドレスを身に纏っていたが、今回はさらにすごくドレスいっぱいにふんだんに使用されたフリルのお陰で、ドレスのボリュームも人一倍多かった。
ドレスに負けないよう濃いめの化粧でも、メランカの顔は負けずむしろ魅力を引き出しているようであった。
そんなことを考えていたら、黄色い声が大きくなった。次々と令嬢達が前に向かって歩みを進めていく。
「来ましたわ。」と言いながら父親を引っ張っていくため、ショコライルが登場したことが分かった。
前列はショコライルとなんとしても近付きたい令嬢で溢れており、ミルティアがいる場所に令嬢はほとんど残っていなかった。残っている令嬢は男爵家令嬢ばかりで、そのことからも男爵家では身分が不釣り合いだと突きつけられている気持ちになった。
ミルティアの友人は婚約者がいる者ばかりのため、この会にはほとんど参加していない。唯一侯爵家令嬢の友人がいるはずなのだが見つけられずにいたが、この騒動で多くの令嬢がいなくなったお陰で、動かずにその場に留まっている令嬢の中に友人を見つけたため、ミルティアはバーナードを伴って彼女の側に向かった。
「ローエ様お久しぶりです。」
「まぁミルティア様。いらしていたんですね。」
ローエと呼ばれた女性は声がした方を振り向くと、嬉しそうに微笑んでくれた。ローエはミルティアの王立学園の友人であり、身分で人を判断することをしない芯がしっかりとした女性であった。ミルティアとは2年次より同じクラスとなったが、ミルティアの努力を純粋に褒めてくれ、身分が下のミルティアに勉強を教えてほしいと頼み、よく一緒に勉強した仲であった。
ミルティアが嫌がらせを受けた際は、上流貴族の令嬢達に立ち向かいミルティアの盾となってくれた恩人の1人でもあった。
ローエの親は自由恋愛をさせたいということで、ローエに婚約者は用意していなかった。ローエは凛とした大人っぽい雰囲気の女性で、知性も兼ね揃えた美人であったため学園で人気があったが、彼女は同じクラスの侯爵家令息と恋仲であったため皆諦めていた。ここにローエがいるということはまだ婚約はしていないと言うことだが、婚約は時間の問題だと思われた。
2人が久しぶりの再会に会話を弾ませていると、1人の令息が近づいて来た。
「お久しぶりです、ミルティア嬢。」
「お久しぶりです、イリック様。」
イリックはローエの恋人である。2人が仲良く見つめ合っている姿から、2人の関係は変わらずむしろ強くなっていることが窺えた。
「仲がよろしくて。」
ミルティアが少し揶揄ったように言うと、2人は少しだけ頬を赤くして微笑む。
「実は来月婚約するの。」
「まあ、おめでとうございます。ようやくですわね。」
「ありがとうございます。ようやく受け入れてもらえました。」
「まあ、ご冗談を。お2人ならいつでもできましたでしょう?」
「本当は先月する予定だったのですが、彼女が来月がいいと言いまして。」
「あら、どうして?」
「だって婚約したらこの場に来られないでしょう?そうしたらミルティア様をお守りできないと思いまして延しました。」
まさか自分のために人生一度きりの婚約を延期するとは思っていなかった。あまりのことに言葉が続かないミルティアに代わって、イリックが補足してくれた。
「君は何も気にしなくていいよ。これは僕と彼女が好きで行っていることなんだ。僕らは君に沢山助けてもらった。その恩返しをしたいんだ。」
「わたくしは何も助けておりませんよ?」
「そんなことはございません。ミルティア様はいつもわたくしたちに勉強を教えてくださいました。ミルティア様の教え方は本当にわかりやすくて、何度救われたことか……。あなたのお陰でクラスの成績が上がったと言われているぐらいなのですよ?」
さすがに大袈裟だとは思うが、ローエと行っていた勉強はいつしかクラスの噂となり、気付けば多くのクラスメイトがミルティアに勉強を教えてもらっていた。テスト前などは、ミルティアが教室を借りて特に難しい所を教えたこともあり、ミルティアは教師よりも頼りにされていた。
ミルティアとしては自分の勉強もなるため特別なことを行ったつもりはないが、これがきっかけで教員を目指すことになったし、勉強が分かった時に嬉しそうな顔や感謝されることは自分を認められた気分で嬉しかった。
「わたくしこそ皆さんと過ごせて楽しかったです。お役に立てて嬉しいですわ。」
「もう、ミルティア様。可愛すぎますわ!」
嬉しそうに微笑むミルティアにローエは手を掴むと、ぶんぶん手振って喜びを表していた。
ローエは可愛いものが大好きで、それは物でも動物でも、人でも可愛ければなんでも当てはまる。ローエにとってミルティアは小動物のように可愛らしく、いつでも構いたい存在なのだ。
ローエが楽しそうにしているのを、イリックは穏やかな顔で見つめる。ローエがミルティアのことが大好きなことはよく理解しているため、またいつものが始まったと感じていた。
イリックはその隙に周りを見渡して誰かに手を振った。イリックのその仕草が合図であったかのように、イリックの周りに人が集まってきた。その事に気が付いたミルティアは集まって来た顔ぶれを見て懐かしさを覚えた。
「ミルティア嬢、お久しぶりです。」
口々にミルティアに声を掛けてきた彼らは全員、ミルティアの王立学園の同級生だった。公爵家から男爵家まで幅広くいるが、身分の壁を取り払った関係を築いていた。彼らもまたミルティアから勉強を教えてもらい、共に勉学に励んだ者達だ。
ローエやイリックと同様に、ミルティアに変な噂が流された時はその噂を消すことに尽力してくれたし、励ましてくれた心強い仲間達であった。
「ミルティア!」
心細かったお茶会が急に頼もしい仲間に囲まれて、自然と笑顔も増えたミルティアに、1人の青年が声を掛けてきた。
「ご機嫌よう、レイド様。お久しぶりです。」
「久しぶりだね。そう言えば王城で勤めていると聞いたけど元気?」
「もちろん、この通り。」
「ならよかった……。あのさ、ミルティア。お義父上から何か聞いてる?」
「……いえ……何も?」
思い当たる節がないミルティアは、首を傾げて答えた。レイドは少し残念そうな顔をして「そっか……。」とミルティアに聞こえない程小さな声で呟いた。
レイドは子爵家の次男で、ミルティアとは一年次から同じクラスだった。初対面から気さくに話しかけてくれるレイドは、誰とでも打ち解けられ、人懐っこく魅力溢れる青年であった。
ショコライルと疎遠になった時、男性に苦手意識を持ちそうだったミルティアが持ち直せたのは、会う度に声を掛けてくれ、気遣ってくれたレイドのお陰であった。
久しぶりの再会に自然と会話は弾み、笑顔が溢れる。
女同士の殺気みなぎるショコライル争奪戦と同じ場所には到底思えない程、穏やかで温かい時間が流れていた。
そんな場所を睨みつけている人物が2人いることに、ミルティアはまだ気づいていなかった。
お読みいただきありがとうございます
この章では登場人物が新たに多く出てきます
次話以降も新たに出てきますのでよろしくお願いいたします
続きは明日の11時に更新予定です
引き続きよろしくお願い致します




