第5章 サボり魔王子のお茶会②
お茶会は午後のお茶の時間に合わせて開催されることになっていたが、ミルティアは何故か朝から慌ただしく準備に追われていた。
いつものように目覚めたミルティアは、時間がまだあるため朝食後はのんびり読書でもしようと思っていたが、その考えはやる気にみなぎるアニスによって制止わされた。
朝食を普段通りショコライルとともに摂ると、アニスはあっという間にミルティアを浴室に連れて行ってしまった。起きてまだ1時間も経っていないのに入浴など必要ないのではという考えなど、言う隙を与えない勢いでミルティアの衣服をアニスは取ってしまった。
あっという間に湯船に入れられたミルティアはそこでようやく話す機会が得られた。
「アニス……何故こんな時間から??」
「ミルティア様、今日は女の闘いですよ。どのご令嬢もショコライル殿下のために着飾ってきます。もちろんミルティア様は何もしなくて美しいのですが、やはりよりその美しさを見せびらかすためには念入りな準備が必要なのです!」
「そこまでする必要は……」
「御座います!!」
ミルティアの言葉を遮るように勢いよく被せてくる。アニスの並々ならぬ闘志にミルティアは全てを委ねることにした。
確かにいくらショコライルの気持ちがあるとしても、綺麗な姿を見てもらいたい。それにやはり他の女性に負けたくない。ミルティアはほのかに湧き出して来た気持ちに無理に蓋をせず、やれるだけのことはしようと考えを改めていた。
いつもより長い時間をかけて、全身をピカピカにされる。王城に来た当初は、アニスが湯浴みの手伝いをしてくれるのが恥ずかしくて毎回手伝う・手伝わないの押し問答をしていたのが懐かしい。今ではすっかりその生活にも慣れて、湯浴みの手伝いをすんなり受け入れられる自分に少しだけ笑えてきてしまった。
そんなことを考えていると、全て支度が終わり湯浴みからようやく解放されるのであった。
湯浴みが終わってからもまた大変だった。濡れた髪を丁寧に乾かしてもらい、全身のマッサージ。マッサージは昨晩も念入りに行ってもらったが、今日もしっかり行うということで有り難く受け入れた。
食後で満たされたお腹、お風呂で温まった身体、気持ちの良いマッサージ、眠気を誘うには十分すぎるほどの材料に、ミルティアもついウトウトしてしまう。
アニスは何も言葉をかけずに、ただ集中してマッサージをすることで、ミルティアに今は休んでもらえるよう配慮を示していた。
マッサージが終わったと声が掛かり目覚めると、日はだいぶ昇っておりかなりの時間を湯浴みとマッサージに費やしていることが窺えた。
昼寝をしてしまったミルティアはすっきりしているが、1人で黙々と準備をしているアニスが疲れてないか心配になってきた。
「ありがとう、アニス。疲れてない?少し休んだら?」
「お気遣いありがとうございます。ですが、休む暇はありませんし、何より疲れてはおりませんよ。むしろ、楽しくて仕方ないです。」
「楽しいの?」
「それはそれは楽しいです。ミルティア様がどんどん可愛らしく、美しくなっていくのです。その姿を間近で見られるなどご褒美かと思うほどです。」
「ご褒美って……、アニスさすがにそれ言い過ぎじゃない?」
「いいえ全く。私はミルティア様のために何かしているのが1番幸せなのですよ。だから疲れるのではなく、むしろ元気になっております!」
「……ありがとう。」
普段のアニスと少し違う雰囲気にミルティアは圧倒されながら、アニスが楽しいならいいかとすら思えてきてしまった。普段は冷静なアニスが、目を輝かせて本当に楽しそうにしている。まさかミルティアを綺麗にすることが楽しいことだとは思わなかったが、アニスが楽しそうなので好きにさせることにした。
軽く薄化粧を施してもらうと、ようやく準備がひと段落したということで昼食を摂ることになった。
「ミルティアお疲れ様。」
ようやく戻ってきたミルティアをショコライルが迎えてくれる。ショコライルは朝食で会ったまま特に何も変わっていなかった。
「わたくしはなにも……。アニスが頑張ってくれました。」
「そうなんだ。ミルティア、朝よりなんか……艶があるね。」
ショコライルはミルティアの下ろしたままの髪を少し手に取って流した。髪の艶もさることながら、肌が輝いて見える。アニスが得意気な顔でこちらを見ているため、アニスの努力の賜物なのだろう。薄化粧のはずなのに美しいミルティア。アニスがここから本気の支度をしたらどうなるのか……楽しみが半分不安が半分であった。
不安はもちろん、男達がミルティアを目につけること。お茶会が始まる前までに、アニスやエディルダにはそのことも念押ししておこうと密かに決めるショコライルなのであった。
昼食後少し休憩を挟んだ後、本格的な支度に取り掛かることになった。その休憩中ショコライルはアレンに目配せするとアニスと共に一旦ショコライルの執務室に移動しすぐに戻ってきた。戻って来た際にはアレンもアニスも荷物を持っていた。アレンの方は隠しようがないため何を持っているのか一目で分かった。
「ミルティア、もしよければこれを着て欲しい。」
アレンが持って来た物はミルティアのお茶会で着るドレスであった。白に近いピンク色、胸元から肩、腕から手首まで少し透けるシフォン生地に同じ色の小花がところどころに散りばめられたレースが施されている。裾にも小花が刺繍されていたが、こちらの花は深い青色で刺繍されていたが小花のため控えめでさりげない。派手すぎず露出を抑えたデザインにミルティアは一瞬で心を奪われた。
「ありがとうございます。こんなに美しいドレス本当によろしいんでしょうか?」
「ミルティアを想って作ったものだよ。君以外に着せるつもりはないし、俺はミルティアが着ている姿を見たいな。」
「ありがとうございます。とても嬉しいです。」
「それからこれも……。」
そう言ってショコライルが差し出したのは、深い青色のレースのリボンであった。それは以前訪れたチースイ領で、ミルティアとナンシ村の中心地へ赴いた時に購入したレースのリボンであった。
「渡し忘れててごめん。もしよければ今日身につけて。」
「出た独占欲。」「あからさまですね。」と遠くでアニスとアレンの声が聞こえてきたが、本当のことであるので反論はしない。ショコライルの色を身につけるということは、ショコライルに気に入られたいという表れになり、同じく将来の妻を探しに来た令息を少しは牽制できるはずである。
声を大にして言えないが、少しだけショコライルの物という印を身に付けさせたかったのが本音だ。
「必ず身につけます。」
嬉しそうに微笑むミルティアに安堵すると、流石に準備があるためショコライルは部屋を後にした。
「アニス、1番綺麗にしてくれ。」という言葉を笑顔で投げかけながら、颯爽と転移魔法で消えていった。
「ではミルティア様、これからが勝負です!頑張りますよ!」
先程よりもより目にやる気の炎を宿したアニスは、ミルティアを再び寝室に連れて行くのであった。
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「ミルティア様いかがですか?」
自信がある声でアニスに言われ、ミルティアは全身が映る鏡で自分の姿を確認した。ベリーの香油を付けさらに艶が増した髪は、編み込みを施したアップスタイルとなった。ショコライルからプレゼントされたリボンを身につけ、とても可愛らしい仕上がりとなっていた。
ショコライルがプレゼントしてくれたドレスもまた、ミルティアの肌にとてもよく馴染み、可愛さの中に清廉された雰囲気もあるとても素敵なドレスであった。
王城に務めてすぐショコライルが用意してくれた深い青色の石がついたネックレスと、想いが通じてからプレゼントしてくれたブレスレットを着けても違和感は全くなく、全てがミルティアを輝かせてくれていた。
いつもより濃いお化粧は、派手すぎないのにミルティアの目鼻立ちをはっきりさせてくれる。
以前学園でしっかりお化粧をした時に、似合ってないなど言われた心の傷は消えておらず不安は消えていないが、ショコライルが選んだ物を身につけることで守ってもらっている気がしてくる。
いつもミルティアを支えてくれるアニスが施してくれたお化粧は、ミルティアの負けそうな気持ちを強くしてくれる。
沢山の人に守られている感覚に包まれているようで、ミルティアは気持ちが楽になっているのがよくわかった。
「ありがとうアニス。とても素敵よ。」
「喜んでいただけて何よりです。」
お茶会にはミルティアを支えてくれる人がいる。もしかしたらミルティアに嫌がらせをした人物がお茶会に参加しているのかもしれない。会うのは怖いが、もう1人で立ち向かわなくてもいい。
いろんな人が見えない場所で見守ってくれることを感じて、ミルティアはお茶会に挑むのであった。
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