第2章 サボり魔王子困惑する④
「ではミルティアさん。このようなスケジュールでまずは1週間お願いします。」
食堂で食事を終えた3人はそのままミルティアの部屋に戻り、今後について話し合っていた。最初からしっかり勉強する時間を設けては、ショコライルのやる気を削ぐかもしれないということで、まずは1週間3日に1回、1時間でやることに決まった。
「お願いします。内容は本当にお任せで大丈夫なのですか?」
アレンは打ち合わせの際、ミルティアにお願いしてきたのは、勉強する時間や場所のことだけで、内容については全てミルティアに一任すると言ってくれた。内容については1番注文されるところだと思っていた。任せられるとなると何を教えるべきかしっかり考えなくてはいけないため、ミルティアは悩んでいた。
ミルティアに構えることなく、好きなようにやってもらおうと思っていたアレンだったが、自分の提案は真面目なミルティアには逆効果だったかもしれないと、ミルティアの対応を見てアレンは感じていた。
そこでミルティアの負担にならないよう、少しだけアレンは助言することにした。
「ショコライル様はミルティアさんもご存知だとは思いますが、入学前までには王太子教育で一般的な教養は身についておりました。ですがその後サボりにサボっておりますので、忘れていることも多いかと思います。まずは基本から始められるのがよいのではないでしょうか?」
アレンはショコライルと実際に接してミルティアに考えてもらおうと思った。噂ではなく、本人としっかり向き合うことで、ショコライルのことを理解してもらえると考えたのだ。
「分かりました。最初は簡単でもいいんですね。それなら少しは楽になります。お気遣いありがとうございます、アレン様!」
自分が悩んでいたことをアレンがお見通しというようにアドバイスしてくれたお陰で、ミルティアは勉強の方針を決めることができた。
「……それではミルティアさん。私はこれで失礼します。3日後お待ちしております。必ず連れて来ますので!!」
最後のセリフにやたら力を入れてアレンは部屋を後にした。アレンの意地でも連れてくるという覚悟が伝わってきた。アレンがどんな手段でショコライルを連れてくるのかミルティアは想像して、ショコライルが少し不憫に思い苦笑いを浮かべることしかできなかった。
――――――――――――――
「そうなりましたのでお願いします。」
アレンはミルティアの部屋を出たその足で急いでショコライルの執務室まで向かい、ショコライルに今後の方針を伝えた。
「分かった……。ただ、3日に1回でも毎回ミルティアとの勉強を行うと、さすがにサボり魔が改心したと思われてしまうから……。にげ……」
「逃げないでくださいよ?」
ショコライルが逃げると言う前にアレンが釘を刺した。
「だが……。」
「だからこそ、ミルティアさんのお部屋で行うのです。」
「どういうことだ?」
ミルティアの部屋で勉強する意味が分からず、ショコライルは尋ねた。
アレンはショコライルに今回の計画を伝えた。あまりに考え込まれた作戦にやはりアレンは頼りになるとショコライルは感心していた。
「お分かりいただけましたか?」
「よく分かった。」
一通り説明され、納得したようにショコライルは頷いた。
「あなたのことだから大丈夫だとは思いますが、くれぐれも寝室などに転移などしないでくださいね!まぁあなたほどでしたら、位置を間違えるわけありませんよね。」
アレンはショコライルに最後に釘を刺すように冷たく笑った。
「あっ当たり前だろう!」
ミルティアの寝室と言われ変に意識してしまったショコライルは顔を真っ赤にして否定した。
「やはり……っははっあなたはミルティアさんのことになると本当にポンコツですね。」
アレンは冗談だというように大笑いしていた。大笑いするアレンを
(こんなに笑うやつだったか??)
とショコライルは不思議そうに少し不貞腐れながら見ていた。
――――――――――――――
アレンがいなくなった部屋では早速ミルティアが今後について考えていた。真剣な顔で本と睨めっこしているミルティアだが、その姿勢をもう2時間も続けて行っているため、流石にアニスは心配になり声をかけることにした。
「ミルティア様、そろそろ休憩なさいませんか?」
アニスの声でようやくミルティアは顔を上げた。
「ごめんなさい。アニス。心配させてしまって。」
「いいえ。ミルティア様は集中すると時間を忘れるとは伺っておりましたので。まだ夜ではないため声を掛けさせていただきました。」
アニスはミルティアがお願いした夜は声を掛けないが、日中は声をかけるという気遣いがミルティアは嬉しかった。
「ありがとう。アニス。気にかけてくれて。アニスが声を掛けてくれなかったら夜ご飯も忘れていたかも。」
これからも声を掛けて欲しいと伝わるようにミルティアは微笑んだ。
「お茶をご用意しますね。デザートもいかがですか?」
「わたくしなんかがお茶なんてしていいのかしら?ここの職員なのに。」
ミルティアが申し訳なさそうな顔をしているため、アニスは優しい嘘をつくことに決めた。
「大丈夫ですよ。アレン様もお茶してますから。」
客室を用意した時に吐いた嘘が上手くいったとアレンから聞いていたアニスは、アレンの名前を出すことでミルティアは納得するのではないかと考えていた。
「そうなのね。ではお願いします。もちろんアニスのもね!」
アニスの予想通り納得してくれたミルティアは、アニスと絶対お茶をしたいという顔を向けて来た。
アニスはミルティアの素直で可愛らしい姿につい口元を緩ませてしまったが、お茶の準備はテキパキと行った。
勉強机からソファがある場所まで移動すると、美味しそうなお菓子と温かいお茶が2つづつ用意されていた。
ミルティアがソファに座ると机を挟んだ反対側のソファにアニスが向かい合って座った。
「本日はケーキをご用意しました。」
フルーツたっぷりの美味しそうなケーキにミルティアは目を輝かせた。早く食べたい気持ちを隠すことができずソワソワしてしまっていた。
「いただきましょう!」
元気いっぱいに言うと、アニスは微笑んでくれた。
ミルティアはまずはお茶を一口飲んだ。その味にミルティアは驚いてしまった。先程までケーキにワクワクしてたのに、今は驚いた顔をしているミルティアをアニスは心配した。
「ミルティア様。お茶がお口に合いませんでしたか?」
アニスの言葉にミルティアは自分が困らせる態度をとっていることに気付いたミルティアは、アニスを困らせないよう首を横に振った。
「違うの。心配させてごめんなさい。このお茶の味が懐かしくて。」
「懐かしいのですか?」
アニスはミルティアの言葉に驚いた。
「昔ね、ショコライル殿下が我が家に来た時によく淹れてくれた味に似ているの。」
「そうだったんですね。よくお茶を淹れてくれたのですか?」
懐かしそうに嬉しそうに話してくれるミルティアに、アニスはもう少し話が聞きたいと思い会話を続けた。
「ええ。お茶の時間は毎回淹れてくれたのよ。いつもお互いお菓子を用意してね、2人で食べたのよ。」
ミルティアはショコライルとお茶をした時のことを思い出し、ある物がないか机の上を探した。
「何かお探しですか?」
キョロキョロと机の上を探しているミルティアにアニスが声を掛けた。
「チョコレートがあるのかなと思ったの。」
「申し訳ございません。本日は用意できておりません。お好きなのですか?」
「用意してほしいとかそういう意味じゃないの。ただ、いつも殿下は手土産にチョコレートを持って来てくださってて。だからお城では毎日チョコでも食べているのかなと思っていただけよ。」
ミルティアはお茶を一口飲んだ。ほのかにベリーの香りが鼻から抜けるこのお茶がミルティアは大好きだった。
「このお茶、いろんなお店で探したのにどこも売ってなくて……。ベリーの香りがするお茶をいくつも試したのだけど、どれも違っていたの。王室の専用のお茶だったのね!」
ミルティアが懐かしそうにまた一口お茶を飲む姿を、お茶とチョコレートの話が繋がったアニスはいつかお話できればいいなと思いながら見つめていた。
次が第2章の最後です
19時に更新します