第4章 サボり魔王子と秘密の魔法陣②
転移魔法とは異なった魔法陣が突然現れたことで、ミルティアはただ唖然としてしまっていた。王族の魔力にのみ反応する魔法、姿を現す魔法陣……王城に来てから驚くような経験ばかりするミルティアだが、未だにこの驚きには慣れずにいた。
「ミルティア大丈夫?」
「大丈夫です。少し驚いただけです……。それよりこの魔法陣は?」
「これは成分分析ができる魔法陣。実は成分分析ができる魔道具には全てこの魔法陣が施されているんだよ。と言っても、施したらすぐに消えてしまうから、魔法陣の存在は王族と今は師匠しか知らないかな。」
そんな秘密を知らされて本当にいいのか疑いたくなるが、エクラからの許可も得られているとなると、ショコライルの独断でもなさそうであった。言いたいことは沢山あったが、言ったところで現状は変わらないため、ミルティアは言葉を飲み込む。
「ところでミルティア、この魔法陣を見て何か気付く?」
言われて魔法陣を確認するが、正直魔法陣を見慣れていないミルティアには何が正しくて、何がおかしいのかすら分からずにいた。
「ごめんなさい……何も分かりません。見たこともない文字ですし、わたくしは魔法陣は見慣れていませんので……」
ショコライルが先程見てほしいと言ってきたのはこの魔法陣のことかもしれないが、どうやらミルティアは何も感じないらしくショコライルの期待外れの結果になっていそうで申し訳なかった。
「謝らなくていいからね。さあ、調べるとしようか。」
話題を変えるようにショコライルが話を切り上げたため、これ以上この話はお終いとなった。
ミルティアが結果を紙に記入する係となったが、どのように記入していくのか分からなかったため、まずはショコライルに書き方を教えてもらうことになり、ハミルダが測定することになった。
ハミルダが魔法陣に浮かぶ透明な器に採取してきた水を入れると魔法陣が光輝いた。淡い優しい光は眩しいわけでもなく、不思議な明るさであった。
光が落ち着くと器の中身は空っぽになっており、その代わりに器の上空に成分の比率が書かれていた。その成分名と値、採取場所と検体の性質を用意された紙に記入するのがミルティアの役割だった。
記入する紙にはもうすでに採取場所と日付、成分名はあらかじめ書かれていたため、ミルティアの負担はだいぶ少なく済んだ。
検体の採取場所が書かれた紙を見つけ出し、ショコライルが読み上げる値を必死に書いていく。紙に書かれていない成分が出た場合は、ミルティアが追加で記入したがそれほど量は多くないため難しくはなかった。
書き上がると確認のため復唱し、問題なければ次の検体に進むという流れであった。
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「ミルティア少し休もうか?」
必死に記入していたミルティアは時間が経つことも忘れて集中していた。声をかけられるまで全く疲れていなかったが、集中力が切れてしまうと目と手と肩が疲れていることに気が付いたため、素直に休むことにした。
一度部屋から出ると、リビングに向かった。簡易的なキッチンがあるリビングにはお茶セットが用意されており、お湯さえ沸かせばお茶がいつでも飲めるようになっていた。
「ミルティアは休んでて。」
ショコライルはそう伝えると自らお茶を用意しだした。疲れているはずなのに嬉しそうにお茶を用意するショコライルに何も言うことはできず、素直に甘えることにした。
用意してくれたのはいつも飲む大好きなベリーの香りがするお茶であった。目の前に置かれただけでベリーの甘い香りが鼻をくすぐる。カップを持ち上げるとさらに香りは強くなり幸せな気持ちにしてくれる。ミルティアは嬉しそうに微笑むと一口含んだ。鼻から抜けるベリーの爽やかな香り、ほのかに後味として残るベリーの甘酸っぱさ……全てがミルティア好みで、一口飲んだだけで、途端にミルティアの疲れなど吹き飛んでしまうのではないかと錯覚してしまうほど、ミルティアを癒してくれるお茶であった。
蕩けているミルティアを目を細めて見つめていたショコライルは、自分が淹れたお茶を飲み、今日も上手く淹れることができたことに一安心していた。
2人の幸せそうな表情を眺めていたハミルダもようやく口に含むと、そのお茶の美味しさに思わず目を見張っていた。
休憩が終わるとまた仕事を再開し、一度昼食を挟むとまた仕事に取り掛かることにした。
昼食は屋敷の外までアレンが運んでくれるのを受け取ったが、改めてアレンですら入れない屋敷に入ってしまった、事の重大さを感じていた。
アレンからは大きなバスケットを受け取った。最初ミルティアが受け取ったが、すぐにショコライルに奪われてしまい、アレンと2人で苦笑いを浮かべることになったが、それでも重たい物を持たせないショコライルの気遣いが嬉しくてつい頬が緩んでしまう。
アレンにお礼を伝えて中に入りバスケットの中身を確認すると、沢山のサンドイッチが入っていた。ショコライルやアレンは「軽食でごめん」と謝ってきたが、野菜やハム、変わり種のフルーツまで様々な種類が用意されており、思わずミルティアは目を輝かせていた。
嬉しそうにバスケット一杯に敷き詰められたサンドイッチを眺めるミルティアに、2人は最初に好きな物を選ばせ、楽しい昼食となった。
どれを食べても美味しいと幸せそうに食べるミルティア。王城でのご飯はどれも幸せそうに食べてくれるが、このサンドイッチは特に気に入っているようであった。
「気に入ってくれた?」
「はい!とても美味しいです!」
「それはよかった。また料理長に作るように伝えておくよ。」
「ありがとうございます。……」
「どうしたの?」
何かを言いそうになるのをグッと我慢したように見えたショコライルは、すぐさま聞き返した。
「このサンドイッチを青空の下で食べたら、さらに美味しいかなと思いまして……。」
「それはいい考えだね。ミルティア、全て落ち着いたらその時は俺とピクニックしよう。」
「よろしいのですか?!」
途端に嬉しそうな表情を浮かべるミルティアに、先程言いたかったのはこのことであったのかとショコライルは納得していた。可愛すぎる願望などすぐに叶えてあげたい。そのためには早く様々な問題を解決しなくてはいけない。
ミルティアとのピクニックのためにも、俄然やる気が出るショコライルであった。
穏やかな昼食を挟んでまた仕事に取り掛かったが、採取した量が多いためにまだまだ沢山残りがあった。疲れも出てきたため最後の一つで今日の測定は終わることにした。
最後は、ミルティアが浄化を施したユヒア湖の水であった。綺麗に見えたのだが、間違いなく何かに汚染されていた水。ただの泥かもしれないが、測定する前から胸騒ぎがしていた。
測定結果が表示されたが、ショコライルは一向に読んでくれない。ミルティアは机から目を離すと、ショコライルの他にハミルダも同じ場所を見て、瞬きをすることも忘れ、微動だにせず立ち尽くしていた。
2人の雰囲気から、何か異常があることはわかった。成分のことなど詳しくはないが、今日は水ばかり測定したため、先程まで記入していたお陰で水に必ず含まれる物はなんとなくわかってきていた。
ミルティアは未だ動かないショコライルの横に近づき、浮かび上がった成分を見つめた。
本来水の成分である物の中に、今までの水には含まれていない、相応しくない物が混入していた。それが何を示すのかミルティアはわからなかったが、僅かではあるがこれが含まれていることはおかしい……本能がそう伝えていた。
「ショコライル様?」
ミルティアが恐る恐る言葉を発すると、我に返ったように笑顔を浮かべて何事もなかったかのように成分を読み上げてしまった。先程の反応について聞いてみたかったが、ショコライルもハミルダも話してくれない以上、聞くことは憚られた。
その日はこれで終わりとなり、また明日も来るということで簡単に片付けると帰宅の途についた。
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