第4章 サボり魔王子と秘密の魔法陣①
慌しかった1日が終わると、ミルティアとショコライルは疲れ切ってしまい、視察の疲れも出たのかいつもよりだいぶ早い時間に就寝してしまった。
翌朝たっぷりの睡眠を取ったミルティアは、日が昇り始める前に目覚めてしまった。寝台の上で何もせず横になるのも辛い為、アニスを起こさないよう羽織だけ羽織ると、ゆっくり寝室を出た。寝室から繋がる部屋は、ミルティアが普段生活する部屋である。勉強机やソファが置かれた部屋は、今は護衛騎士達が24時間警護してくれているため、この部屋にいると話し相手にもなってくれている。今日は誰がいるのかそんな事を考えながら部屋に入るとすぐに声をかけられた。
「おはようミルティア、今朝は早いんだね?」
思いがけない声にミルティアは朝から驚きを隠せなかった。だって目の前には眩しい笑顔で挨拶をしてくれるショコライルがいたからだ。
「おはようございます、ショコライル様こそお早いんですね?」
こんな朝早くから会えると思っていなかったので、ミルティアは嬉しくて仕方なかった。笑顔で迎えてくれたショコライルだったが、みるみるうちに顔が険しくなっていくことにミルティアは気づいた。
「ショコライル様?あの……」
ミルティアが声を掛けるのと同じタイミングでもの凄い勢いでショコライルは席を立つと、ショコライルの寝泊まりする部屋に入ってしまった。何かしてしまったのか?そんなことを考えようとしていたが、考えるよりも早くまたショコライルが部屋からもの凄い勢いで帰ってきた。手には何かを抱えて……。ショコライルはそのまま無言で近付いてくると、素早くミルティアに手に持っていた物を巻きつけた。あまりの一瞬の出来事にミルティアは何が起きたか分からず、ゆっくりと自分自身を確認すると、布団に包まれていることに気がついた。
「あの……何故こうなっているのでしょうか?」
ミルティアの質問に、ショコライルは困ったように眉毛を少しだけ下げて耳元で囁いた。
「夜着を俺以外に見せちゃダメ。」
いくら羽織を纏っていたとしても、夜着の姿だと言うのはわかってしまう。羽織を羽織ったとしても夜着の姿を見せるなど確かにあまりよくないし、はしたないと思えてきた。
「申し訳ありません……、すぐに着替えてきます……。」
「俺には見せてくれてもいいんだけどね……。」
ショコライルはミルティアの耳に囁くと、部屋で護衛をしている騎士達を睨みつけた。絶対に見るなよと無言の圧が強すぎる。騎士達は慌てて目線を逸らすのであった。
そんなやり取りをしていると寝室から勢いよくアニスが飛び出してきた。服を着替えるだけで、化粧もしておらず髪も縛っていない姿だけでも、アニスの慌てようがわかった。ミルティアの姿を見つけると安堵の表情を浮かべるため、起きてミルティアが不在だったのを心配しているようであった。
ショコライルは布団に包んだままのミルティアをアニスに渡すと、アニスはミルティアをものすごい勢いで寝室へ戻した。
いつものように身支度を行なってもらうが、今日はアニスの小言を聞かされながらの支度である。必ずアニスを起こすこと、部屋から出る際は夜着は禁止と口酸っぱく言われるため、ミルティアは肝に銘じるのであった。
朝からどっと疲れが出てしまったが、ミルティアは今日ショコライルに付き合うよう言われていた。ショコライルは先に転移魔法で執務室に戻ったが、ミルティアは珍しく部屋を出て廊下を歩いて目的の場所まで向かった。襲撃事件が起きてからは転移魔法での移動ばかりだったので、自らの足で進むことは新鮮だった。アニスが付き添わなかったのは、部屋を出てすぐハミルダと落ち合ったためだ。ハミルダは昨夜からミルティアの横の客室で寝泊まりしている。
ハミルダさえいれば護衛は務まるし、大人数での行動は注目を浴びてしまう為、このような形となった。
ミルティアは行き先を聞いていなかった。ハミルダについていくだけだが、いくつかあるうちの一つの庭まで来ていた。庭についてもさらに奥へ進むハミルダ。やがて庭の奥に小さな屋敷が現れた。その屋敷の前には先程別れたはずのショコライルが待っていた。
「とりあえず入りましょう。」
ショコライルは扉のノブに手を掛けず、手を翳すと少しだけ魔力を送った。すぐに手を翳すのをやめ、ドアノブに手をかけると扉を開けて部屋に入るように促した。
言われるがまま入ったミルティアだが、この屋敷のことも、先程の扉のことも分からず呆然としていた。そんなミルティアの姿に気がついたショコライルはとりあえず説明することにして、椅子に座った。
「いろいろ聞きたいよね?」
「お聞きしてよろしいのですか?」
「ミルティアなら大丈夫。」
「では……この場所は?」
「ここは国の研究所とも言えるかな。」
「王立研究所なら別の場所ですよね?」
「流石、鋭いね。ミルティアは成分分析はどうやって行なっているか知ってる?」
「詳しくは存じません。特殊な魔道具で測定することしか。」
飲み物や食べ物、水質など様々な成分を分析し、安全性を保証する。特殊な魔道具で測定するため、この国では王立研究所が行っている検査の一つであった。
「そう、その魔道具は少し特殊でね。誰でも簡単に作れる物ではないんだ。」
「存じています。そして完成した魔道具は王族の承認が必要であるんですよね?」
これは学園で習ったことだ。魔道具を作る部署も王立研究所にあるが、特殊な魔道具なのは完成したら必ず王族の承認が必要と言われている。承認の印がない特殊な魔道具は使用することも販売することも禁止されている。魔道具はこの国では生活の至る所に溢れているが、特殊な魔道具は研究所などにしか置かれてないため、実際にどのような印なのか、どのような機械なのかはミルティアは知る由もなかった。
「よく知っているね。ここは特殊な魔道具の承認を王族がする場所なんだ。」
「そのような場所に王族以外の者が入っていいのですか?」
ミルティアはハミルダを横目に見ながら、とんでもない場所にいることに慌てていた。
「この場所に入れるのは、王族、後は……国1番の魔導士と決まっている。」
「でしたらわたくしはいてはいけないではないですか!」
慌てて立ち上がり屋敷から出ようとするミルティアを、ショコライルは手首を掴んで引き留めた。
「ミルティアに見てほしいものがあったんだ。父上にも許可は取ってある。ここで見たことは他言無用でお願いしたいんだけど、もし何か気付いたことがあったら教えてくれないかな?」
その言い方は妙に力強く、ミルティアに何かを確認したいことを目的としているようであった。いつものショコライルの彼女としての特別とは違う何かを感じたミルティアは、素直に頷くと再び椅子に腰掛けた。
「ありがとう。ではさっそくやってみよう。」
何をやるのか聞いていなかったが、目で見た方が早そうだったためミルティアはショコライルの後ろについて歩き出した。そんなに広くない平屋の屋敷のため、すぐに目的の部屋の扉の前まで到着した。
先程と同じようにドアノブに触れず扉に手を翳すショコライル。しばらくしてドアノブに手をかけるとゆっくりと扉を開いた。
どうやらこの屋敷全体は、以前チースイ領に向かう際使用した魔法陣がある部屋と同じように、王族のみ扉を開けられる造りとなっているようであった。
「さあ、入って。」
促されるまま部屋に入ると、部屋の隅に机が2つ用意され、そのうち1つには椅子が用意されていた。椅子が置かれてない方の机の上には、視察で採取した土や水が置かれており、ミルティアはこの屋敷に成分を分析するために来た事をようやく理解した。
ただ肝心の魔道具らしい物が見当たらない。部屋を見渡しても、机と椅子しか用意されていないのだ。不思議そうに部屋を見渡すミルティアに気付いたショコライルは、ミルティアの肩を抱き寄せると右手を前に出して何もない空間に魔力を送り込んだ。
しばらくすると、何もなかった床が光だし魔法陣が浮かび上がった。魔法陣の上空にはミルティアの胸の高さ辺りに透明な器が浮かび上がり、なんとも不思議な光景を作り出していた……。
お読みいただきありがとうございます
第4章が始まりました
続きは明日の11時に更新予定です
引き続きよろしくお願い致します




