第3章 サボり魔王子の忙しい1日⑤
「学園で忙しい中、よく役目を果たしてくれた。まずはそのことに関して礼を言う。ありがとう。」
「有難きお言葉です。私はショコライル殿下を支えるためなら、何なりと行いますよ。」
昼過ぎの国王の執務室。防音魔法を施したこの部屋で、視察の報告をするためにショコライルとハミルダ、アレンが代表で赴き、国王と共に報告を受けるのが宰相であるロンダである。
まずは感謝を述べるエクラに対し、ハミルダはいつもの笑顔でこたえる。そこにはショコライルに対する忠誠心が窺えた。
「ありがとう。ショコライルの時代が楽しみだよ。さて報告を聞こうか。」
「作物の不作は確かに起きていました。持ち帰ってきた土などを調べたいのですが、学園で調べると何を調べているのか怪しまれます。ですので、あの部屋をお借りできないでしょうか?」
「あれか……。ロンダどう思う?」
「国として大切な調査だと考えます。それに、ハミルダ殿でしたらあの部屋を使うことに問題はないですよ。」
「私もそう思う。許可しよう。何日必要か?」
「量が多いですので、1週間程お借りしたいです。」
「では明日から使えるように手配しておきます。」
「ショコライルも手伝いなさい。」
「もちろんです。ミルティアも同行できませんか?」
「何か理由があるのか?」
「確信はないのですが……。彼女はもしかしたらあの本が読めるかもしれないのです。」
「なっ……。わかった……ならば許可する。」
「よろしいのですか?あの部屋は……。」
「ロンダ。彼女なら問題ない、そうだろう?」
「そうですね……。」
「ありがとうございます。」
あの部屋の事はこの場にいる全員が知っていることであるが、あの本というのはショコライルとエクラ以外だと何を示しているのかさっぱり分からなかった。だが普通の仕事仲間で話すなら分からなければ聞けばいいだけなのだが、王族のみが知っていそうな話では、内容を窺うことは絶対にできない。ただの親子の会話かもしれないが、王族のみが知ることが許される国の重要な何かかもしれないからだ。
「それと今回の視察でいくつかわかった事があります。」
「なんだ、申してみよ。」
「まず、チースイ領で半年前から若者の失踪事件が起きてました。それはこちらの辺境伯からの報告書をご覧ください。」
「なんとそんなことが!」
エクラは差し出された報告書をロンダと共に目を通しながら聞き耳は立てていた。
「ここからが問題です……。最初の失踪はこの村。次はここです……」
ハミルダは広げたチースイ領の地図に失踪した日付を書いていく。
「そして今回視察でわかった不作が起こっている場所です。」
今度も同じように不作になりだした時期を記入していった。黙って地図を見ていたエクラとロンダは、全ての記入が終わった地図を見てあることに気が付いた。
「これは……!どういうことだ?失踪した場所で必ず不作になっている!」
そう、チースイ領で不作になった村や町は、必ず不作になる前に若者の失踪事件が起きていた。しかもどの場所も失踪してから必ず2週間後には不作になっていたのだ。
「偶然では考えられない……。何か人為的な何かが働いているとしか思えない……。」
「私もそう思ってます。」
「だがどうやって?いくら魔力が高い者が魔法で何かしようとしても、こんな長期的に不作になる魔法などあるのか?」
「私も考えてみたのですが、全員無事に戻っていることを考えると不可能かと。いくら魔法でやれたとしても、こんなに長期的に作用していたら魔力が枯渇します。彼らにそのような症状は認められませんし、彼らからその意思を感じる事はありませんでした。」
国を滅ぼそうと考えているなら、その悪意をハミルダなら読み取れるはずだ。だがそのような気は微塵も感じなかった。
「何から何までわからないことだらけだ……。何かわかったことはないのか?」
「それについては私が。」
今まで静かにハミルダの報告を聞いていたショコライルが、ついに口を割った。
「失踪した者と話ができました。失踪した当時の記憶はありませんでしたが、発見される前の微かな記憶が残っていました。彼が言うには、耳に何か着けている人に手を引かれていたと。その人物が発見場所近くまで連れて行ってくれたみたいです。」
「耳に何か……。」
「これは私の仮説です。その人物、ミルティアを襲撃したラナではないでしょうか?」
「なんだと?!」
エクラは思わず大きな声を出していた。まさかその名前が出るなど思っていなかった。ミルティアを襲撃した犯人ではあるが、何か事情がありそうな人物……。もし今回の件に彼が絡んでいるとしたらそれはまるで……。
「もしそうだとしたら、ラナは助けてくれたということになりませんか?」
ロンダが冷静に指摘した。話の流れでいくと、意識朦朧の若者を安全な場所まで連れて行ってくれた……そう解釈できるのだ。
「はい。そう思います。以前にもお伝えしましたが、あいつはわざとミルティアに接触しこの国の危機を伝えたと考えると、今回の行動と辻褄が合います。」
「なるほど……。」
「ラナの気配は間違いなく感じました。ショコライル殿下の仮説は間違いないかと思います。」
「そうか……。とすると、若者が消えた理由と作物の不作の原因を調べるしかないのか……。ハミルダ、何か掴めないのか?」
「申し訳ありません……。全く掴めないのです。ですが……だからこそおかしいのです。」
「おかしい?何がだ?」
「普通失踪事件は人攫いの犯人がいるはずです。その時に被害者が抵抗したり、感じた感情が残像となって必ずどこかに残るはずです……だが失踪場所どこにもそのようなものは何もなかった……。」
「以前お前が言ってた、お前の追跡魔法を躱す魔法が使われたということか?」
「おそらくそれは犯人にかけられてはいると思います。だが急に襲う被害者にその魔法をかけることも、空間全体にかけることも不可能かと思われます。不思議なことはまだあります。被害者の意識は失踪場所で突然消えるのです。」
「どういうことだ?」
「突然被害者の感情が消え、自らの足で進んでいくことはなんとか見えました。」
「自ら進む?ということは彼らは首謀者ということか?」
「でも感情が消え、自ら進むなどまるで……。」
「宰相様は気付かれましたか?」
「ああ……。だがそれはまるで……。」
「間違いなく禁忌です。」
ショコライルのはっきりとした言葉が部屋に響いた。誰もが想像していなかった最悪な結果を突きつけられ、部屋は静寂に包まれた。ショコライルもアレンも、ハミルダから朝方聞いた時同じように言葉がでなかった。ショコライルやエクラが予想していたよりはるかに最悪なことが、この国に起きていると嫌でも納得しなくてはいけない程状況は揃っていた。
「魅了魔法をおそらくかけています。」
魅了魔法は言葉の通り、人の心をその人の意思に関係なく操れることができる魔法である。その魔法にかかるとどんな人でも魔法をかけた人物の言いなりになるという、まるで操り人形のような魔法である。
一度魔法にかかると、かけた本人が解除しない限りかかった人物は思考を停止させられ、感情は消える。
犯罪を肩代わりしかねないその魔法は大変危険と判断され、禁忌となっており、とうの昔に廃れた今は誰も使うことのできない魔法であった。
「まさか……、魅了魔法が復活した……?」
あまりの衝撃にエクラは言葉が続かなかった。今はまだ被害は大した事はない。だがこれが練習だとして、いつか大勢の人物に魅了魔法をかけられたら……それは国中を戦火に巻き込む事態になりかねないのだ。
建国以来安泰だった国が、脅かされている事態……。歴代の王が守り抜いてきたこの国をエクラの代で途切れさすわけにはいかない。
「確定ではありませんが、その可能性があるということです。父上、王族の書庫の出入りをアレンとハミルダ先生、そして私に認めてください。何か分かるかもしれません。」
「自由に使うように。アレン、ショコライルが無理をしないよう見張ってくれ。」
「精一杯務めます。」
「ロンダ、すまないがそちらの書類上の手続きも頼む。先程の部屋の件と共に、くれぐれも内密な処理で。」
「心得ております。」
やるべき事ははっきりしてきた。焦っていては何も解決しない。一つずつ目の前の問題を解決していけばいずれ自ずと結果は出てくるはずだ。
それぞれが役割を充分理解し、何か分かればすぐに報告するようにということでこの話し合いは幕を閉じた。
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