第3章 サボり魔王子の忙しい1日④
「申し訳ありません。陛下自らがおいで下さいましたのに、眠っていたためにお待たせする結果となり大変失礼致しました。」
到着してすぐ、これ以上曲がらないのではと思うほど深くお辞儀をし謝罪の姿勢をとるミルティア。すぐにエクラが姿勢を戻すよう言われて顔を上げると、ほとんど素顔ではないかと思うほどいつもより薄化粧のミルティアが顔を上げた。
エクラが待っているからと慌てたのだろう。寝癖だけ軽く直しただけのハーフアップも何もしてない髪型、最低限の化粧、荒い息。エクラに会うには少しばかり不足していそうな身だしなみではあるが、国王陛下を待たせる方が余程問題であるため、ミルティアの対応は間違ってなどいなかった。
むしろ失礼なのはこんな早朝に何の連絡もなしに訪れたエクラである。エクラもその自覚があるらしく、ミルティアの謝罪を受け入れないというように首を横に振った。
「約束もせず突然早朝に押しかけた私が全面的に悪いから、ミルティアはなにも悪くない。それに今日は君に謝りに来たんだ。」
そう言うとエクラは深く頭を下げた。
「申し訳ない。私の力では煩い貴族を黙らせることができず、ミルティアの気持ちを踏みにじるようなお茶会を開く事を許してほしい。ショコライルからミルティアのことは聞いた。素直に嬉しかった……。だが申し訳ない。公にできない以上こうするしか方法はなかった……。」
「どうか頭を上げてください。仕方のないことなのです。わたくしは男爵位です……。ショコライル様と釣り合うはずがないのです……。」
エクラが謝ることでも誰が悪いわけではない。これはどうすることもできない問題なのだ。
「ミルティア、そんなこと言わないで。」
無意識に震えていた指先を優しく包むように、気付けばショコライルが隣に立って手を握ってくれていた。酷く悲しく辛そうな顔をしているショコライル。そんな顔をさせてしまったことがミルティアにとっては申し訳ない気持ちに駆られていた。
「ミルティア。私は君を歓迎している。それは決して嘘ではないから信じて欲しい。王家としての体裁を守るために君1人を犠牲にしてしまうことは本当に忍びない。だからこそ、嫌なことがあればすぐに伝えなさい。必ず君のために最善を尽くす。絶対に隠してはいけないよ。それからミルティアの周りもしっかり固めるから安心して。」
「お気遣いありがとうございます。」
十分すぎる配慮にただ恐縮することしか出来なかった。断ることはそれこそ失礼に当たる。素直に有り難く受け取ることにした。
「お茶会について話したいことはあるが……それはまたバーナードが来てからにしよう。」
「えっ……お父様が来るのですか?」
ショコライルは先程聞いたが、ミルティアは初耳のため驚いていた。バーナードとどんな態度で接したらいいのか……あからさまな動揺を見せるミルティアにエクラは優しく語りかけた。
「驚かせて悪いね。私が呼んだんだよ。バーナードには私から君たちのことは事前に伝えてある。安心しなさい。怒られるなら息子だけだ。」
息子が怒られるかもしれないのに笑っているのはどうかと思うが、少なからずエクラも同席するならバーナードは少しは大人の対応をしてくれるはずである。顔が蒼くなっているショコライルには申し訳ないので、ミルティアもショコライルに任せきりではなく、自分の気持ちを伝えるよう今から考えるのであった。
エクラは「また後で!」と言うと颯爽と帰って行ってしまった。ショコライルやミルティア以外にも、急なエクラの訪問に気を張り詰めていた騎士達もが、エクラが帰ると息を吐いて落ち着きを取り戻して行った。騎士達の疲れとは別の疲れがミルティアとショコライルには襲っていた。と言っても2人はこれからが勝負である。とりあえず朝食を摂ることにしたが、味など全く感じなかった。
このままではいけないとショコライルは気持ちを切り替えることにした。
「ミルティア、なんだかその髪型新鮮だね。」
ショコライルに言われてそこで初めて寝癖を簡単に直した髪型のままであることに気が付いたミルティアは、慌てるように両手を顔の前に当てて顔を隠した。
「何で隠すの?」
少し面白そうにショコライルが聞いてくるが、それどころではない。
「だって……髪もお化粧も適当だったのを思い出して……。」
恥ずかしさを必死に隠しているが、穴があるなら本当に入りたい気分だった。お化粧は濃い方ではない。学園に通ってた時はしっかりとお化粧をすると馬鹿にされた過去があったため、どちらかというと薄めの化粧をしており、今とあまり変わらないかもしれない。
だが王城に来てからはアニスが綺麗にしてくれる。派手ではないが、今まで自分がやっていたお化粧と雲泥の差ほど仕上がりが違うため、素顔を晒すのが恥ずかしくなっていた。
「ミルティアならどんなミルティアでも可愛いのに……。」
未だ顔を上げないミルティアに痺れを切らすと、ショコライルはゆっくりとミルティアに近づいて行った。
足音がゆっくりと近づいてくる。そう思ったのも束の間、ミルティアは急に両手を掴まれて顔から離されてしまった。犯人はもちろんショコライルである。
顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしているミルティアに、ショコライルは顔を近づけると、満面の笑みを溢した。
「やっぱり可愛い。素顔だとさらに可愛らしい雰囲気になるんだね。今日のドレスのお花みたいな可愛さだよ。」
ミルティアは今日、小花の刺繍が施された可憐なドレスを着ていた。もちろんこれもショコライルが選んだ物だ。
このドレスのように可愛いと言われている。信じられない気持ちと嬉しい気持ちそして恥ずかしさ……様々な感情が入り乱れて忙しかった。
「髪はボサボサなのに?」
「綺麗な髪だよ。下ろしてるのが新鮮で……その……その姿も好きだな。」
最後の言葉だけ耳元で言うのはわざとであろう。何度言われても慣れない言葉であるが、恥ずかしいだけで嫌ではない。ミルティアを幸せな気持ちにさせてくれる魔法の言葉である。
「では……たまにしてもいいですか?」
「大歓迎。」
ショコライルは愛おしそうに頭に口付けを落とした。ミルティアの髪も大好きと伝えるように。
食事を済ませるとショコライルはミルティアの部屋を後にし、自分の執務室に向かった。今日はチースイ領の報告やまさかのバーナードとの話し合いなど、久しぶりに1日ずっと予定が詰まっており、襲撃事件から初めてミルティアと離れる時間が長い1日の予定である。
エクラとの話し合いは昼過ぎからであったが、その前にハミルダと視察をまとめるための話し合いを午前中にすることになっていた。
「おはようショコライル君。」
「おはようございます。眠れましたか?」
「お陰様でぐっすり。時間を遅くしてくれてありがとう。」
「当然です。私も久しぶりに遅い時間に目覚めたので、遅くしておいてよかったです。」
たわいもない会話をしながら、ソファに着くとさっそく本題に移ることにした。
「何か分かりましたか?」
「ショコライル君が以前教えてくれた広場に行った際、やはり君の思った通り彼の気配は感じた。」
「やはりそうでしたか……。」
「だが消えた若者がどこにいて何をしていたのかは掴めない。」
「手がかりはなしということですか……。」
悔しそうに呟くショコライルにハミルダは首を横に振ってこたえた。
「ショコライル君。逆に手がかりなしなのがおかしいと思う。」
「どういうことですか?」
ハミルダが導き出した答え……それはショコライル達の想像していたことよりはるかによくないことを物語っていた。
「父上に相談して決めましょう……。」
1人で抱えるには大きすぎる問題。ショコライルはハミルダという心強い師匠がいることに感謝し、目の前の大きすぎる問題にどう対処していくべきか……流石のショコライルも不安に押し潰されそうな気持ちを必死に奮い立たせることしかできなかった……。
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