第3章 サボり魔王子の忙しい1日②
会は夜遅くまで続き無礼講状態になっていった。流石にミルティアもショコライルもまだ成人ではないため、あまり夜遅くまで滞在するわけにもいかないため、部屋に戻ることにした。
何やら2人の関係に距離ができていると判断した部下達は、先に2人を部屋に戻すと、30分後に戻ると言ってまた会場に戻ってしまった。
部屋にはミルティアとショコライル2人っきりとなっていた。マティアの先程の話でどことなくぎこちなくなってしまい、しばらく静寂に包まれたが聞きたい事は山ほどある。有耶無耶にしたくもないミルティアは意を決したように言葉を紡いだ。
「ショコライル様、お聞きしたいことが!」
力強く言うミルティアに、ショコライルは観念したように話してくれた。
「黙ってて、隠しててごめん。出発前に父上から会食の際にそのような会が開催されると聞いたんだ。もちろんミルティとの関係は父上には報告してある。だが公に言えない以上、側近達の声を黙らせる為には会を開くしか選択肢がなかったらしい……。もちろんその場で婚約者など決めなくていいと言われているから、適当にやり過ごすつもりだ。ミルティのことは大切だ。だからこそまだ公にしたくない。なのに、俺が婚約者を探しているような会など開催されるだけで嫌気がさす。形だけなのに、ミルティを前にして堂々とミルティの彼氏だと宣言できないこと、他の令嬢が近づいてくることをミルティが見てるのに、笑顔で対応しなくてはいけないこと、全てが嫌になる。……ごめん、だから言い出せなかった……。」
申し訳なさそうに呟く言葉全てにショコライルの気持ちがこもっていた。わかっている。立場も環境も何もかも違うことを。国を治めること、世継ぎを作らなくてはいけないこと、様々な重圧がショコライル1人に押し寄せていること。その全てを受け止めてあげたいのに、今のミルティアには何もできないこと……。わかっているはずなのに、何もできない自分が悔しかった。
きっとショコライルも同じ気持ちなのだろう。何か言いたいのに言葉がうまく出てこなかった。
「ミルティ。俺はそれよりもその会場にミルティが参加するのが1番嫌だ。」
ショコライルがいろんな令嬢に囲まれるところを見られたくないのか?だったらミルティアは安心させるしかない。だってこれは王太子としての大切な執務の一つだから。
「大丈夫ですよ。わたくし、ショコライル様にどんなご令嬢が来ても、ショコライル様のお気持ちが変わらないと信じています。……ちっぽけな嫉妬をしてしまうかもしれませんが、それは許してくださいね。」
分かっていても、ショコライルが女性に囲まれるのを見ると少なからず嫉妬してしまう。ショコライルを信じているが、これは自分自身の気持ちの問題だ。少しだけ許してほしい。そう願っていたが、どうやらそんなことではなかったようだ。
ショコライルはミルティアを愛おしそうに優しく抱きしめると、縋るような消えそうな声でつぶやいた。
「ちっぽけな嫉妬はいくらでもして。ただ傷付けたらごめんね。必ず後で癒すから……。それより俺が心配なのは……」
そこまで言うとショコライルはさらにミルティアを抱きしめる力を強めた。まるで不安をかき消すようなそんな仕草であった。
「ミルティが他の男どもに言い寄られないか心配でならない。そんな姿を見たら冷静でいられるか自信がないんだ……。」
確かにこれは予想外過ぎた。まさか言い寄ってくる男性の心配をしてくるとは思っていなかった。社交辞令として挨拶はするかもしれない。それもいけないのだろうか。そんなことを考えながらショコライルの顔を覗くと、酷く不安そうな瞳と目が合った。
そんなに心配してくれているとは思わなかったミルティアは、そっとショコライルの頬に手を優しく置いた。
「わたくしの心は常にショコライル様です。言い寄ってくる男性などいるわけ……あっ……マティア様ぐらいですね。ですがマティア様ならうまくやれる自信があります。」
ミルティアは笑って答えたが、ショコライルはさらに不安そうにミルティアを抱きしめた。
「マティアはリリの人柄に惹かれていた。ミルティの人柄にもきっと惹かれてしまう。あいつだって婚約者を探すのに必死だ。一度恋をしたんだ。政略結婚などもう受け入れられないはずだ。だからこそミルティに会ったら死に物狂いで口説くかもしれない。」
「そうしたら、また心に決めた人がいるとはっきりお伝えします。ショコライル様これで安心してくれますか?」
ショコライルを上目遣いで見つめるミルティアを、さらに愛おしそうな目で見るとショコライルは小さく首を横に振った。
「ごめん、ミルティ。俺は君が思ってる以上に独占欲が強くて嫉妬深いんだ。ミルティが口説かれただけで心が掻き乱される……。」
どうしたらいいのか……。ミルティアは半ば呆れたように笑って、この愛おしすぎる恋人を優しく抱きしめた。きっと何を言っても彼の不安は消えない。だったら一緒にいられる時は精一杯の愛情表現をして安心させたい。
「わたくしだって、嫉妬深くて独占欲が強いんです。ショコライル様が言い寄られたら、わたくしも心が掻き乱されるのでその時は癒してくださいね。」
あまりに可愛すぎるお願いに、今まで不安で抱きしめていたのに、今は愛おしさでいっぱいで強く抱きしめていた。彼女には何年経ったって敵わない。そう強く自覚しながら、ミルティアの対策を考えていた。
「まずは、アレンとアニス、エディルダをミルティの周りで固めよう。そうだ、リリアージュ男爵にも協力を願いでようか……。いやそしたらまずは交際の報告をしなくてはいけない……そうしたら俺は生きて帰れるか?」
ショコライルは無自覚にも計画を独り言のように言葉に出してしまっていた。あまりに真剣な剣幕で必死に考えているショコライルがおもしろく、ミルティアは早く愛しい人が戻ってきてくれるように背伸びをすると頬に口付けを落とした。
ミルティアからの口付けに、すぐさま現実に戻されたショコライルは、ミルティアが触れたところを確認するように触りながら顔はみるみる赤くなっていった。
ミルティアの行動一つでショコライルの心を乱してしまう。なんだかとても幸せで、愛しい瞬間であった。
「父上にはまた2人で報告にいきましょう。ショコライル様お一人ではいかせません。」
一体どこまで俺の心を乱すのか。この可愛くてしょうがない愛おしい彼女はいつもショコライルの想像を超えてくる。バーナードは怖くてしょうがないが、ミルティアと一緒なら情けない姿は見せれない。近いうちに2人で報告しようそう決意したが、とりあえず今はこの可愛すぎる彼女を独り占めする時間を優先することにして、再びミルティアを抱きしめると、お返しとばかりに頬に口付けを落とした。
先程と逆で今度はミルティアが真っ赤な顔をして恥ずかしそうにしているのがまた可愛くて、ショコライルは再び抱きしめる力を強めているのであった……。
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「いろいろありがとうございました。また分かりましたらお伝えいただければと思います。今回のご恩は必ずお返ししますと陛下にお伝えください。」
辺境伯であるノバクはまだ何も解決していないが、今回の視察に感謝の気持ちを伝え深々と頭を下げてくれた。
「必ずお伝えします。お役に立てるよう研究しますのでしばらくお待ちください。」
ハミルダはそれに応えるように返事をし、2人は固い握手を交わしていた。
「お気を付けて。」
「ありがとう。また会えるのを楽しみにしている。」
「私も。こんなに気が合う友人は初めてだよ。必ず遊びに行く。」
ショコライルとマティアもまた握手を交わし再会を約束していた。
「リリちゃんもお元気で。チョコに連絡するから王都で会おう。もちろんこちらに遊びにくる時は連絡して。歓迎するよ。」
「ありがとうございます。またお会いできる日を楽しみにしてます。」
ミルティアもまたマティアと別れの挨拶をすると、一礼をした。
別れ難いが帰らなくてはいけない。
「みなさん、帰りますよ。」
辺境伯によって出現した魔法陣によって、ハミルダの声を合図にアレンとエディルダが先頭で帰路に着いた。
「じゃあまた、チョコ、リリちゃん。」
「ああ、またな。」
「さようなら。」
ショコライルとミルティアはもう一度マティアに別れの挨拶をすると、2人並んで魔法陣に乗り姿を消した。姿が消える瞬間、2人が手を繋いだのをマティアだけが気付き、それを優しそうに温かい目で見送っていた。
最後にハミルダとアニスが帰っていくと、途端に部屋は静かになった。役目を終えた魔法陣と、ノバク、マティアだけが残る部屋は先程の賑やかさが嘘のように静まり返っていた。
「行ってしまわれましたね。」
「ああ……。さぁ私達がやれることをするとしよう。」
「はい、父上。」
2人は名残惜しそうに部屋をもう一度見渡すと、やるべき課題を少しでも解決すべく部屋を後にしたのだった。
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