第3章 サボり魔王子の忙しい1日①
視察はその後も順調に進み、畑の他にも川や湧き水など様々な場所に出向き、当初の予定通り1か月で視察を終えることができた。
いよいよ明日王都へ帰るという日の夜、辺境伯邸でささやかながらお別れ会を開催してくれた。最初こそ警戒していたが、辺境伯の人達は皆優しく協力的で、1ヶ月の滞在ですっかり打ち解け合えていた。ショコライルとマティアもそのうちの1人で、ミルティアを巡って対立していたが、ミルティアがはっきりと態度で示したことでその蟠りが解けたことで、きちんとお互いを見ることができ、距離が縮まっていったようであった。元から国や領地のことを第一に考え行動していた2人である。こうなることは必然であったし、未来を担う2人が今後もよい関係を築け、さらに国をよくしてくれることを、ハミルダやアレンは確信していた。
「楽しんでる?」
お酒が入ったこともあってか、マティアはいつもよりリラックスして楽しそうであった。
「ええ、楽しんでますよ。このような素敵な会を開いてくださりありがとうございます。」
「そんなに畏まらないで。チョコ、僕たちは歳も身分も違うかもしれないが友人だよ。僕はこれからも君と仲良くしていきたい。だから友人として普通に接してほしいよ。」
友人……ショコライルは今偽りの姿ではあるが、中身までは偽っていない。そんな彼の人となりを見て友人と言ってくれることが、どれだけありがたい存在なのかショコライルが1番理解していた。王太子としてではなく、一人の人間として見てくれる人がまた一人増えた。いつか正体を明かしたとしてもきっと彼なら、事情を理解し離れる事はないだろう。
かけがえのない存在がまた一人増えたことが純粋に嬉しく、ショコライルはつい笑顔になってしまった。
「いい笑顔するじゃん。」
「そりゃあ友人の前だと気も緩むよ……マティア。」
初めて聞いたチョコの親しみやすい話し方に、マティアは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに名前を呼ばれたこと、友人と言われたことが嬉しくて、彼も嬉しそうに微笑んでいた。
「そうだ、チョコ。君に一つ言いたいことがある!」
マティアはショコライルを手招きして近付くよう合図を送った。ショコライルがマティアに近づくと、マティアはショコライルの耳元に顔を近づけてショコライルにしか聞こえない声で話した。
「リリちゃんを絶対幸せにしてよ。後結婚式には絶対呼んで!」
「当然!」
まだ何も決まっていないのに、全てを受け入れる返事にマティアはまた笑っていた。ショコライルにしてみれば手放すつもりはないため当然の結果である。
ミルティアは彼らのやり取りがわからずただ黙って不思議そうにこちらを見ている。一度は好きになった女性。今は大切な友人の彼女。そんなミルティアの幸せを願ってマティアはミルティアに笑顔を向けた。
「リリちゃん。来月王城に行くんだ。その時時間が合えば会えないかな?」
「王城に来られるのですか?」
辺境伯の人間はなかなか王城に来ない。遠いということもあるが、領地を空けることをしないためだ。いくら次期辺境伯だと言っても、マティアが王城に来ることも珍しい。確かに王城が職場ではあるが、ショコライルに変身魔法をかけてもらわないといけないため、簡単に返事ができない。
ミルティアはショコライルを見たが、先程まで笑顔だったショコライルが急に暗い顔になっていたので驚いた。また2人で会うことを嫌がるのかと思ったが、あれだけ仲良さそうな2人ならもう嫉妬などしなさそうである。だからこそこの顔の意味がわからなかった。
「王城など珍しいですね。」
反応をしてくれないショコライルに諦めると、少しだけ話題を変えてみた。
「実は今度、王城でお茶会が開催されるのです。若い貴族令息や令嬢が呼ばれていて、王族主催なので参加しないといけないのです。……あなたは貴族ではないのでしらないのですね。」
確かに知らない。だがミルティアは本来男爵位ではあるが貴族令嬢である。知らないはずがないのに知らなかった……。ショコライルなど絶対知っていそうなのに教えてくれなかった。なぜ教えてくれなかったのか、そのお茶会がどのようなものなのか全く想像できずにいた。
「そのようなお茶会があるなんて知りませんでした。」
「そうでしょうね。毎年あるわけではなく、何十年ぶりかの開催ですので。」
「何十年ぶり?」
「はい。前回開催されたのは、今の国王陛下が王太子だった時と聞いています。」
「そんな昔ですか……。」
益々お茶会の意味がわからない。ショコライルはあれから一言も発してくれない。ミルティアは自分で真実を聞くしか方法がなかった。
「参加条件は、未婚や婚約者がいない貴族令息と令嬢です。というか条件を満たす者は絶対参加なんです。」
「強制的にということですか?」
「そうなんです。このお茶会、来年成人を迎えるショコライル殿下のお見合いパーティーなんです。」
「えっ?!」
「未だ婚約者がいない王太子に、婚約者を見初めてもらうためのお茶会です。殿下は次期国王。だからこそ殿下の結婚は国家の最重要課題の一つです。現国王陛下も婚約者がいなかったため、このお茶会で今の王妃を見初めたと言われています。国の大切な行事ですね。」
「でも何故マティア様も参加が必要なのですか?ご令嬢だけでよさそうですのに。」
「ショコライル殿下を今後支えるのは、私達のような次期跡取りです。私達もまた領地を治めるためには結婚が必要不可欠です。ショコライル殿下のお見合いと合わせて、私達貴族令息や令嬢のお見合いも兼ねているんですよ。国が開催する大規模なお見合いパーティーということですね。」
ようやく理解できた。だがどこかスッキリしないのは、そのことをショコライルに隠されていたから。誰かに教えてもらうより直接ショコライルの口から聞きたかった。
ショコライルは少しだけ下唇を噛んで手は硬く握られている。ショコライルにも何か思う事はありそうであった。
「素敵な出会いがあるといいですね。」
「ありがとうございます。父上からはリリアージュ男爵のご令嬢を落とせと言われていますので、少しでも話せるように頑張ってみます。」
まさかのここで自分の名が登場してしまい、ミルティアは驚いて声を出しそうになるのをグッと我慢した。知らなかったとはいえ、きっとミルティアも参加必須なのだろう。リリとしてマティアは躱せたが、今度はミルティアとしてマティアと対峙しなければいけなくなっていた。
「がっ……頑張ってください。」
考えればまた頭が痛くなりそうなので、ミルティアはただ微笑んでマティアの幸せを願うしかなかった。王城に帰ってからまた一波乱ありそうな……そんな気配が漂い出していた……。
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