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サボり魔王子の家庭教師  作者: 梨乃あゆ
第二部 恋人編
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第2章 サボり魔王子番犬になる①

翌日から本格的な視察という名の調査が始まった。領内全てを回りながら、その土地の土や水を採取しながら、作物の状態を確認していった。表向きはハミルダの指示であるが、実際はこの分野が得意なショコライルの指示で動いていた。


 ハミルダは表向きは現場を指揮する立場のため、土の採取などは行わずその土地の村長や生産者と話し、情報収集に勤しみつつ、スーピナ国の痕跡がないか探っていた。




 夜は決まってその日の報告をハミルダとエディルダの部屋で行うのが、恒例となっていた。




 2日目に早々とマティアがミルティアの部屋を訪問し、夜ご飯の誘いをしてきたため、ショコライルはミルティアとアニスの部屋でやりたいと言い出したが、流石に女性の部屋であることと、見習いであるミルティアの部屋に集まる事は不自然であり、詮索されかねないため、ショコライルを説得し視察のリーダーであるハミルダの部屋に集まることとなった。

 




 

「何か分かりましたか?」


 チースイ領の地図に、情報を書き込みながらショコライルが尋ねると、ハミルダはただ黙って首を横に振ってこたえた。



「そうですか……。」

「隣接しているのに一つも痕跡がないのは、逆に不自然だね。もしかしたら……」


 ハミルダはそこで言葉を切ると、部屋の出入り口である扉を見つめた。何回か見たこの光景に、全員これから何が起こるのか理解し、ただ静かに扉を見つめた。





 

 ほどなくして扉が2回叩かれた。


「どちら様ですか?」

 すぐにアレンが対応すると、予想していた通りの声が聞こえてきた。



「マティアです。リリさんと少しお話ししたいのですが?」



 いくらミルティアに近づいてこないようショコライル達が予防線を張っても、諦めが悪いマティアは何回もミルティアの部屋に突撃してきた。ミルティアが不在と分かると最初は諦めてくれていたが、偶然ミルティア達がハミルダの部屋から出てくるところを目撃されてからは、ミルティアが部屋に不在と分かると、ハミルダの部屋に来るようになっていた。






 

 ミルティアは恐る恐るショコライルの顔を見つめると、誰が見てもわかるほど怒りに満ち溢れた顔をしていたため、ミルティアは深いため息を吐いてから、これ以上ショコライルを刺激しないよう応対することにした。




「申し訳ございません。本日もまだ仕事中の身でして。」

「お忙しい時に申し訳ありません。」



 いつもならここで帰ってくれるはずであったが、今日は違っていた。



「本当に少しだけでいいのです。どうかお願いします。」



 あまりの必死の頼み込みに、ミルティアが周りを確認すると、ショコライル以外の全員が静かに頷いていたため覚悟を決めた。

 ショコライルはいつの間にかミルティアに手を重ね、行くなと態度で示してきたが、その手からゆっくり逃れると扉の前まで進んで行った。





「扉を開けたらその場での会話でもよろしいですか?」


 マティアなら無理矢理嫌がるようなことはしないと確信があったが、念のため確認したのは、これ以上ショコライルに嫌な気持ちをさせたくなかったから。もちろんまた連れ去られたりしたら迷惑を皆にかけてしまうため、勝手な行動をしないという意思表示でもあった。




「構いません。扉を開けていただけますか?」



 ミルティアは意を決して扉を開いた。

 扉を開けてすぐ、目の前にはマティアが立っていた。ミルティアの顔を見ると嬉しそうに微笑んだ後、後ろに控えているショコライル達に気付き軽く会釈をした。




「お仕事中申し訳ありません。」

「いえ……、あの話とは?」

「明日は私も同行させてもらいます。そのことをお伝えしたくて。」

「わざわざ次期辺境伯様がですか?」

「はい。驚かれると思いましたので事前にお伝えしておこうかと思いまして。」




 確かに驚いた。ただの視察にわざわざ辺境伯の人物、しかも次期辺境伯となるマティアが同行するとは、流石に仰々しいのではないかとすら思てしまう。それよりもミルティアには気になることがあった。




「あの……、何故私に?そのようなお話は、ミイダさんにお伝えするべきでは?」



 この視察のリーダーはハミルダである。ミルティアはショコライルと同じでただの見習い扱いである。1番下の立場の人間にわざわざ伝える話とは思えなかった。





「そうですね……。その質問はごもっともだと思います。本当にお伝えしたいのはこの話ではありません。少し聞かれたくない内容です。ミイダ様にカヌア様もいます。中に入って少しお話を聞いていただけないでしょうか?」




 マティアは最初こそミルティアを見ていたが、次第に視線を後ろにいるハミルダとアレンに向けており、2人に許可を得ようとしていた。


 


 今回の視察でハミルダはリーダーであるが、アレンはカヌアとなり、サブリーダーとして現場で指揮する役割を担っていた。




 視察団の責任者の2人に話があるということは、何かありそうである。ハミルダは静かに頷くと入室を促した。






 マティアは感謝を述べた後、一礼をして部屋に入ってきた。






「それで、どんなお話しですか?」

「このようなお話をあなた方にするべきではないのかもしれないのですが……明日行く場所のことを隠さずお伝えしようと思いまして……。」



 歯切れが悪そうに、言葉を選びながらマティアは話し出した。ハミルダはマティアのいつもとは違う雰囲気を察して、続きの言葉を促した。




「どのようなことでしょうか?」

「明日行く場所なのですが、不作になる少し前から若者が姿を消してしまうということが起こっていまして……。」

「そのような話、陛下から聞いていませんが?」



 ショコライルも初耳だというように、目を見開いて話を聞いていた。出立の際にもエクラからそんな話誰も聞いていなかった。姿を眩ますなど普通ではない。だからこそ、何故隠していたのか理解できず、ハミルダも無意識のうちに声を低くしてしまっていた。




「申し訳ありません。行方知れずならすぐにご報告致してました。だが全員、2〜3日で無事に戻ってきているのです。辺境伯領で事件が起きていると公になると、隣国に隙を見せてしまうため、内々に対処できないかと模索している途中でした。」




 この地だからこそ、報告が遅れたというわけだった。確かに王城の騎士達がこの地に調査のために押し寄せたら、少なからず混乱が生じたかもしれない。その混乱に乗じてスーピナ国が何か仕掛けるかもしれないと危機感を持つことは、常に緊張を強いられている辺境伯ならではかもしれない。



 



「なるほど……。それで何故、リリさんのところに?」





 わざわざ部屋まで来た理由はわかったが、それでもハミルダに話せばいいような内容である。若者ならミルティア以外にもいるのに、何故ミルティアに話をしに来たのか釈然としなかった。





「リリちゃん、あなた魔力は高いほうだよね?」

「えっ?!」



 予想外の質問にミルティアだけでなく、この部屋にいる全てのものが息を呑んだ。

 これから何を話されるのか、ミルティアの魔力を聞く理由は何なのか……皆様々な考えが頭に浮かび焦る気持ちを抑えるように、ただ静かにマティアを見つめて続く言葉を待つのであった。



 

 

お読みいただきありがとうございます。



続きは明日の11時に更新予定です



引き続きよろしくお願い致します

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