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サボり魔王子の家庭教師  作者: 梨乃あゆ
第二部 恋人編
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第1章 サボり魔王子の小さな嫉妬①

「父上、お待たせしました。」

「いや待っていないよ。」



 国王専用の食堂へ行くと、既にエクラが席についていた。料理は全て運び込まれており、給仕もいない。完全に人払いされた空間に、エクラとショコライルの2人だけがいた。



 

 今朝方急にエクラより呼び出された今回の会食。何の話をするのかは分からなかったが、念のため防音魔法と食卓の周りに防御魔法をかけ、ショコライルも席についた。




 

 2人だけで食卓を囲むことは初めてであったし、母親を交えた親子での食事も最近はしてなかったので、実に久しぶりの親子水入らずの食事だった。







 

「急にすまなかったな。ミルティアは変わりないか?」

「いえ……ミルティアも落ち着いております。」

「そうか……それはよかった。彼女には、もう何ヶ月も部屋に閉じ込めてしまっているので申し訳ないことをしている。お前から私のお詫びを伝えておいてくれ。」

「かしこまりました。」




 

 まだ食事に手をつけず、2人は会話を続けた。




 

「今日呼び出したのは、その後の進捗を聞こうと思ってな。」



 

 ミルティアの襲撃事件に関しては、定期的にアレンを通して報告はあげていた。だから改まって聞いてくる意図が掴めずにいた。



 


「アレンからもお伝えしていると思いますが、申し訳ありません……なかなか掴めずにいます。」

「やはりそうなのか……。いや疑うわけではないが、何か掴んでるのに独自で動いて無茶をしないか気になってな……。親心ってやつだよ。」




 

 エクラは少し恥ずかしそうにはにかんでいた。エクラとショコライルは普通の親子とは違う。父親であり、仕えるべき国王なのである。エクラからは充分愛情は注がれているのはよくわかっている。だがどうしても遠慮して、幼い頃からあまり甘えられなかった。

 だからなのかここ最近、エクラは国王としてより父親としての面を見せてくれる。不器用な2人の、親子としての交流は始まったばかりであった。




 


「もう無茶はしません。きちんと報告しますよ。」

「それは安心した。ところで、一つお前に頼みたい仕事がある。」

「私に仕事ですか?」




 

 ショコライルは目を丸くした。エクラから直接仕事の依頼など今までなかったからだ。信頼されていると受け取っていいのか……。ショコライルははやる気持ちを抑えながら、エクラの顔を真っ直ぐ見つめた。





 

「そうだ。実はチースイ辺境伯より、バーナードを通じて依頼が来た。以前お前が指摘したことについてだ。」




 

 ショコライルが指摘したこと……。それはチースイ領で起きている作物の不作についてだった。ただの作物の不作だけなら、わがわざショコライルが出向くことではない。農作物の専門家が行くべきだ。だが、チースイ領はミルティアを襲撃したスーピナ国に隣接しているため話は別である。視察の名目で他も調べられる絶好の機会であった。




 


「是非行かせてください。」

「頼む。人選はお前に任せる。……それとミルティアは連れていけ。」

「よろしいのですか?」




 

 ミルティアをどうしようか聞こうと思っていたのに、まさか先に伝えられるとは思わず、大きな声を出してしまった。ミルティアを警護の関係上、なるべく日中も部屋にいるように指示したのは、他ならぬエクラである。だからこそ連れ出すのは嫌がると思っていたので、予想外の言葉に動揺したのだ。




 


「部屋から出ず、お前達で護るのが1番安全なのはわかっている。だがお前が動く以上、アレンや他の部下も連れて行くことになるだろう?王城に内通者がいる以上、他の騎士団から騎士を派遣することは危険である。その手薄の時期を狙われたら、ミルティアに危険が及ぶのは目に見えている。ならば多少危険でも、お前の側にいた方がいいと思う……。」

「ありがとうございます。」




 

 エクラの言葉はショコライルが不安に思っていたことだった。だからこそ、言葉に出して伝えてくれたことが嬉しかった。





 

「バーナードにも許可は得ているから安心しなさい。」



 

 バーナードという名前に肩をピクリと動かした。


 ミルティアが襲撃された後、一度バーナードはエクラと共に部屋にやって来た。来たことも驚いたが、何より去り際に、ミルティアに聞こえないよう小声で「順番を間違えて手を出したら……わかっているな。」ととてつもない怖い顔で言われた時は、息が止まるかと思った。



 

 エクラが気を利かせて、根回ししてくれたのはありがたかったが、そういえばミルティアとの関係が進んだことは伝えたほうがいいのではないか……そんな考えが浮かんだ瞬間、背筋が凍る感覚を覚えた。

 逃げてばかりではいられない。早めにこの問題を解決したほうが自分のためにもいいような気がしてきた。



 

「身分が気付かれないよう、お前はファラフィラ村で行動している時の姿でいきなさい。念のためアレンもミルティアも行く者達は全員変装させること。お前達は国からの指示で来た農業の専門家とする。」

「わかりました。」

「準備ができたら知らせなさい。向こうへの連絡はこちらから入れる。」

「移動手段は?転移魔法が使えない騎士もいますので、やはり馬車ですか?」



 

 馬車となると最低でも4日はかかる。その間の宿の手配や警護など問題は山積みであった。

 しかしその悩みは杞憂に終わった。




 

 

「チースイ領は我が国で最重要な防衛拠点だ。だからこそ、有事の際にすぐに我が国の騎士を派遣できるよう、城と領主館を転移魔法陣で繋いでいる。」

「そうなのですか?!」



 


 この国のことは全て知っていると思っていたが、ショコライルも知らなかった事実だった。




 

「知らなくて当然だ。このことを知っているのは歴代の国王とチースイ領の領主だけだ。国の防衛に関する最重要機密だから、ロンダですら知らない。」

「なぜそれを私に?」



 

 宰相すら知らないことを何故?疑問はつきなかった。





 


「今回の派遣は、有事に値すると判断した。下手に動いてスーピナに気付かれて、こちらから争いの種を蒔いたと思われたくない。そしてお前の部下ならば裏切らないと確信している。だから使用を許可する。」

「ありがとうございます。」

「それに……私はお前はもう既に、次の国王に相応しいと思っている。だから伝えた。」



 

 嬉しすぎる言葉だった。ずっと憧れて追いかけている背中に、少しでも近づけた気がした。



 


「ありがとうございます。」


 

 認められた嬉しさで声が少し弾んでしまったが、部屋にいるのはエクラだけ。王太子の仮面は捨て、1人の息子として、父親に認められた気持ちを噛み締めていた。




 


 その後穏やかに食事が始まった。久しぶりに2人っきりで沢山話し、充実した時間を過ごした。





 

「今回の訪問、ひと月で帰ってきてくれ。」

「そんなに長くかからないと思いますよ?」


 何故そんなことを?まるで後に何かが控えているような言い方に、ショコライルは気がついた。


 


「ちょっとな……王太子としての大切な務めがあるんだ。」




 少しだけ言いづらそうに言葉を選ぶエクラに、ショコライルは嫌な予感すらしてきた。その予感は的中し、エクラの話がまたもショコライルの悩みの種となるのであった……。

お読みいただきありがとうございます


第1章②は明日の11時に更新予定です

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