エピローグ
朝目覚めて、アニスに朝の挨拶をし、身支度をしてもらう。この王城に来てからの変わらない朝の日常であるが、少しだけ変わったこともある。
身支度が整い隣の部屋へ移動すると、満面の笑みで朝の挨拶をするショコライルが迎えてくれる。
朝日を浴びて、ミルティアにはより一層王子様のようにキラキラ眩しく見える。大好きな人からの破壊力抜群の笑顔に、ときめきすぎて倒れないよう耐えるのが、ミルティアの毎朝の日常に最近は加わった。
そして幸せそうな2人を、毎日温かい気持ちで見守るのが、ショコライルの部下の朝の日課にもなっていた。
ラナの襲撃からかれこれひと月は経とうとしていた。ショコライル達がいろいろ探っているようだが、なかなか尻尾が捕まえられないらしい。少しだけ教えてくれたのは、ラナはやはりスーピナ国に帰ったということだった。
ミルティアは一度狙われてしまったため、24時間ショコライル達の警護で護られている。王城にも内通者がいる可能性があるため、なるべく部屋から出ないように言われてしまい食堂や中庭には行けなくなってしまった。
部屋に籠ることで周囲に怪しまれないか心配していたが、ミルティアは客室を使っているため食事を運び込むことは不自然ではないし、仕事で部屋に篭っていると伝えれば疑う者などいなかった。
使用人と同じ扱いであれば難しかった問題も、客人として最初から呼ばれていたことで、うまく誤魔化すことができており、エクラのお陰だとショコライルは感謝していた。
寝る時以外はショコライルとずっと一緒にいれるため、正直嬉しかったが、護られてばかりで何もできない自分に悔しい気持ちを抱くこともあった。
だが、余計な行動をして、またいろんな人を傷つけることの方が怖いことをミルティアは理解しているため、素直に受け入れ部屋に篭っていた。
部屋に籠るばかりのミルティアを心配して、アレンやエディルダなどいろんな人が話しかけたりしてくれる。
それに一度国王陛下がお忍びで訪れた時は驚いた。しかもバーナードを伴って。エクラはミルティアに謝罪をしてくれたし、バーナードはミルティアを酷く心配してくれた。
バーナードの姿を見たショコライルは、信じられないものを見るような目で固まっていたのは驚いたし、帰り際バーナードに何か囁かれた時は、顔色を悪くしたのが気にはなったが、いろんな人が気にかけてくれることは嬉しかった。
部屋に閉じこもってばかりだが、唯一ファラフィラ村だけは行くのが許された。しかし決して家の敷地から出ないという約束付きだ。
ファラフィラ村にも大勢の騎士が、農作業の手伝いという程で護衛に当たってくれた。
ショコライルも念のため、家の周辺に防御魔法を張るという徹底ぶりだ。
迷惑をかけていないか心配になったが、農作業に人手は必要だし、ショコライルもこの場所には来たいから気にしないでと言われたため、遠慮するのは辞めた。
ここに来て、野菜を収穫したり美味しい空気を吸ったり、風を感じることは、王城で私室に篭っているミルティアにとって落ち着ける場所となっていた。
普段我慢をさせているミルティアが楽しそうにしている姿を見ると、ショコライルも安堵の表情を浮かべていた。
今日もまたショコライルと何人かの護衛とともに、ファラフィラ村に来ていた。今日はこの後収穫した野菜でみんなでご飯を食べるので、ミルティアは張り切って収穫に勤しんでいた。もちろんすぐそばにはチョコに扮したショコライルが、収穫籠を持って付いてくれている。
「ショコライル様こちらも収穫してもよろしいですか?」
「もちろん!立派に育ったね。」
王城での常に気を張る生活とは異なり、ここでは少しだけ心が穏やかになれる。ショコライルもミルティアも自然と笑いながら、この時間を楽しんでいた。
この村で作られた野菜や果物などは、一括してカルレッタ公爵家が経営する商社が買い取ってくれており、それがこの村に住む人の収入源の一つとなっている。この家も例外ではなく、収穫した野菜などは食べる分を残して、後程ルースに買い取ってもらい税金や研究費に充てていた。
今の時期沢山の野菜や果物が育ち、収穫が追いつかないため、護衛の騎士やアニス、エディルダ、ルース、みんなで協力して収穫していた。まだまだ収穫は終わらなそうだったが、日もだいぶ上ったためお昼の時間が近づいていたため、ショコライルは一旦収穫を終わらせ、ミルティアと共に家の中に入ることにした。
今日の昼食はショコライルの担当であったのだ。ミルティアは少しだけお手伝いすることになっている。
「今日は何を作りますか?」
手についた汚れを落としながら、ミルティアは楽しそうに尋ねた。
「何にしようかな?」
ショコライルも楽しそうに野菜を見比べ、今日の献立を練っているようであった。
「ショコライル様のご飯はどれも美味しいので、楽しみです!」
嬉しそうに、楽しそうに笑う彼女の姿が堪らなく愛しくて、ショコライルはミルティアを後ろから抱きしめた。
「どっどうしたのですか?」
未だ慣れないショコライルとの触れ合いに、ミルティアは耳を真っ赤にしていた。その仕草がまた可愛くて、ショコライルは頬に口付けを落とす。
「なかなか2人っきりになれなくて……ミルティア不足だから補充させて。」
毎日一緒にいるのに不足するのかと疑問に思ったが、確かに一緒にいる時間は長くなったのに、必ず誰か護衛がいるため2人っきりになれる時間はほとんど無くなってしまっていた。ミルティアも少しばかり寂しかったので、ショコライルに身体を預けるように少しだけ後ろにもたれ掛かると
「わたくしも少し寂しかったです……。」
そう小さくて呟いた。
「あーーー、もうーー!」
ショコライルが急に大きな声を出して、ミルティアの肩に顎を乗せると先程よりも強く抱きしめてきた。
「なんでこんなに可愛いの!」
どうやら先程の雄叫びは、ミルティアが可愛すぎるための悶絶した声であったようだ。ミルティアは、ショコライルの真っ直ぐすぎる愛情表現に少し照れながらも、自分の気持ちも忘れずに伝えた。
「ショコライル様は格好良すぎます。」
今度は本格的に悶絶したのか、無言で強く抱きしめられた。どんな顔をしているのか見てみたかったが、後ろから抱きしめられているため見えない。そこだけが少しだけ残念であったが、こうしてショコライルに抱きしめられると、愛される喜びと安心感を強く感じ、とても幸せであった。
そんなことを考えているため、ショコライルが何やらゴソゴソ動いていることに、声を掛けられるまで気が付かなかった。
「ミルティア、左手を見てみて。」
言われて左手を見ると、手首に何か着いていた。よく見えるように目の高さまで上げると、それは細い金色のチェーンの間に、所々小さな深い青色の石がついたとても綺麗なブレスレットであった。
「綺麗……。」
「気に入ってくれた?」
思わず呟くミルティアに、ショコライルの声は嬉しそうに弾んでいた。
「もちろんです!この石、以前制服として支給されたドレスの、付属品のネックレスに付いてた物と同じでとても綺麗です。」
あれから毎日身につけているネックレスを触りながら、ミルティアは嬉しそうに手首に付いたブレスレットをいろんな角度で眺めていた。そしてあることに気付き、つい微笑んでしまった。
そんなミルティアの変化にショコライルはいち早く気付いた。
「どうしたの?」
「この石も、ネックレスの石も、見る角度によって色が少し変わるんです。淡い水色から深い青色に……。まるでわたくしが着る青色のドレスみたいに……。」
「うん、あれはとても似合ってる。」
「ありがとうございます。わたくしあのドレスを着るといつもその……ショコライル様を思い浮かべてしまうのです。ショコライル様の瞳の色と同じですから。ですからその瞳と同じで、見る角度によって変わるこの石の付いたネックレスやブレスレットは、常にショコライル様を感じられるようで嬉しいんです。」
ミルティアがそこまでいうとクルッと身体を回転させられて、気づけばショコライルの胸に顔を埋める形となっていた。
何が起きたか理解できないミルティアは、ゆっくり顔を上げると、嬉しそうに微笑むショコライルと目が合った。
「ありがとう。」
「お礼を言うのはわたくしですよ?」
「いや、俺だよ。そんなことを思ってくれていたんだと思うと嬉しくて……。」
「当たり前です!だっ……大好きなのですから。」
ミルティアの至近距離からの不意打ちの大好きに、ショコライルは堪らず強く抱きしめた。
「俺の方が大好き。実はあのドレスもネックレスも、俺が見立てた君へのプレゼントなんだ。」
「そうなのですか??」
ミルティアは驚いて顔を上げた。ショコライルはとても甘い顔でミルティアを愛おしそうに見つめていた。恥ずかしいはずなのに、その目に囚われると目を逸らすことができなかった。見る角度によって淡い水色から深い青色に揺れ動く瞳は、この素敵な輝きを持つ石にも負けないほど、とても綺麗で吸い込まれるようであった。
「黙っていてごめんね。ミルティアに似合うと思って選んだんだ。淡い色が好みだし、似合うことは知っていたけど、どうしても俺の色を身につけてほしくて……。アレン達には独占欲丸出しドレスと馬鹿にされたよ。」
思い出したかのように苦笑いを浮かべるショコライルに、ミルティアは強く抱きついた。
「わたくしには最高のプレゼントです。ショコライル様の色を纏えるなんて幸せすぎます。」
「想いを伝える前だったのに?」
ショコライルは少々自虐的に笑っていた。あの時は必死だったが、今思えばミルティアの気持ちを確認しないまま自分の色を送るなど、気持ちが焦りすぎていて笑えてきた。だがミルティアは笑うことはなかった。むしろ幸せそうな目でショコライルを見つめてくれていた。
「わたくしもあのドレスを着た時、ショコライル様のこと思い浮かべ、どんな反応をされるのか……そればかり考えてしまっていたので……同じです。」
気持ちを伝える前から、2人とも気持ちはお互いを向いていた。その事実が嬉しく、何より今想いが伝わり合えている幸せを噛み締めるように、2人はお互いを愛おしそうに見つめていた。
やがてショコライルはミルティアの左手を優しく持ち上げると口付けを落とした。
「今はまだ様々な問題が解決していないから、きちんとした俺の物という証は渡せないけど……必ず解決したら用意する。だからそれまではこれで我慢してね。」
言われた言葉を理解して、ミルティアは顔をこれ以上赤くできない程真っ赤にしていた。
だってさっきショコライルが口付けをしたのは、左の薬指だったから……。俺の物という証……さすがのミルティアでも、その意味は十分理解できている。
スーピナ国の問題の他にも、2人には乗り越えなければならない問題がある。それを乗り越えることはかなり難しい……だがショコライルならいつか乗り越えてくれるかもしれない。
ミルティアはこれ以上この顔を見せないようにショコライルに抱きつくと
「いつまでもお待ちしております。」
そう返事を返した。
「安心して、そんなに長く待たせないから。」
ショコライルはミルティアを横抱きに抱き上げるとおでこに口付けを落とした。
窓から降り注ぐ日差しが部屋を優しく温めているように、2人の心も幸せの気持ちで満たされ、温まっていた。
部屋の中の穏やかで幸せそうな様子を、窓からショコライルの部下達が優しく見守っていた。覗くつもりはなく、昼食ができたのかの確認をしたかっただけだった。
また王城に戻れば2人は気が休まらない日々が続く。だからこそ心が落ち着くこの時間を、少しでも長く2人には過ごして欲しかった。
「昼食は今日はいつもより遅くなりますね。」
「腹減ったが、まぁ収穫しますか。」
「アレン、見れなかったことを悔しがりますね。」
そんな会話をしながら、それぞれまた収穫を始めた。
しばらくするとキッチンではショコライルとミルティアが楽しそうに料理を始めた。やがて美味しそうな匂いが煙突を伝って畑に流れた。
幸せいっぱいの2人が作った、美味しそうな昼食の時間まではあと少し……。家から2人の「ご飯ですよ。」という声が聞こえてくるのを皆楽しみに待つ、穏やかな昼下がりはこうして過ぎていった。
エピローグお読みいただきありがとうございました
いいねをいただけてとても嬉しく励みになりました。
ありがとうございました。
これにて
第一部 出会編
を終わらせていただきます。
まだまだスーピナ国、ラナ、など謎は残っております。
これらの謎は
第二部 恋人編
で書いていく予定です。
明日からは第二部を更新していく予定です。
執筆が遅れている関係で、毎日一話ずつの更新とさせていただきます。
毎日 11時
に更新予定です
引き続き
サボリ魔王子をよろしくお願い致します。




