第14章 静かな警告③
5分程で落ち着いたミルティアだったが、すぐさまショコライルに横抱きされ、自分の置かれた状況を理解する前に、転移魔法で王城のミルティアの私室まで、連れてこられてしまった。
そのまま、またソファに寝かされたミルティアは、流石に起きあがろうとしたが、ショコライルがそれを許してくれなかった。抵抗しても無駄だと悟ると、大人しくソファで横になった。
「アニスを呼ぶね。」
アニスを呼ぶベルに、手を伸ばそうとしたショコライルの服の袖を引っ張り、まだ呼ばないで欲しいと態度で示した。
「どうしたの?」
可愛らしいミルティアの動きとは反対に、ミルティアの表情は暗かった。
「大切なことをお伝えするのを忘れていたんです。」
落ち着いたはずなのに、また不安そうに揺れる瞳。ショコライルは安心させるようにミルティアの手を握り、ミルティアのタイミングで話せるよう、話を促すことはせず、ただ静かに待った。
やがて落ち着いたミルティアから出て来た言葉は、ショコライルの当初の考えを見直すきっかけとなった。
全ての話を聞き終わったショコライルは、起き上がっていたミルティアを軽く抱きしめておでこに口付けを落とした。
「話してくれてありがとう。これから父上と話してくる。その間アニスが部屋にいてもらうから安心して休んでね。それから、心配だから部屋に俺の護衛を置いてもいいかな?」
未だ慣れないショコライルとの触れ合いに、ミルティアは顔を赤くしながら小さく頷いた。申し訳ない気もしたが、不安なのも事実なので甘んじて受け入れることにした。
「ありがとう。ミルティア、必ず戻ってくるからそれから一緒に夜ご飯を食べよう。そういえば昼食も食べていなかったよね?軽めの食事を用意しとくから……待っていてくれる?」
「お待ちしております。」
離れがたいが行かなくてはいけない。後ろ髪を引かれる気持ちをぐっと我慢して、ミルティアをソファに横にさせるとすぐにアニスと護衛のための騎士を呼び寄せた。
アニスはミルティアを見るなり今にも溢れそうなほど目に涙を浮かべていたが、すぐに元に戻ると自分の仕事にとりかかってしまった。
軽食の手配と夕食のことをアニスに伝えると、ショコライルはミルティアの頭を軽く撫でて転移魔法で移動していった。
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「ミルティアの調子は?」
約束の時間にエクラの執務室に向かうと、部屋に入るなりエクラは立ち上がり食い気味に聞いてきた。アレンからミルティアは大丈夫であると聞いているはずなのに、やはりまだ不安なのだろう。ショコライルは再度大丈夫であることを伝えると、ようやくエクラは安心した表情を浮かべた。
立ち話もいけないので、ソファに座ることにした。国王の部屋だけあって執務室のソファも大きいため、人数が多くても余裕で座ることができた。
ショコライルはいつもの防音魔法を2重にかける念の入れようだ。それだけこの問題は最重要な機密情報なのである。
部屋の中には、エクラ、ロンダ、ハミルダ、ショコライル、アレン、エディルダが集まっていた。ロンダはアレンの父親としてではなく、国の宰相としての出席である。
どことなく重たい空気になり始めた時、エクラが問いかける形で話し合いは始まった。
「状況はアレンからだいたい聞いた。皆よくミルティアを護ってくれた。礼を言う。……何か今のところで分かったことはあるのか?」
「スーピナ国から来たと言うことはわかっております。またラナと名乗りましたので、今その人物について探っております。」
「なぜスーピナ国だとわかった?」
「それが不思議なんです。あいつはスーピナの選手の服装をしていました。迷子と言い逃れするための変装とも考えられたのですが、だとしてもあからさまな服装は、わざとスーピナだと言っているようなものです。普通隠したいはずなのに……。」
「他国の者がスーピナに疑いの目を向けるために動いている可能性は?」
「もちろん考えられます。ですからハミルダ先生にお願いして追跡魔法をかけてもらいました。」
ミルティア達がラナと対峙していた時、ハミルダもすぐに駆けつけて物陰から様子を窺っていた。ラナが逃げる際、動向を探るために追跡魔法をかけてくれていたのだ。これ以上好き勝手させないために、可愛い教え子達が傷付けられた怒りを鎮めるように、強力な追跡魔法を施した。
「なるほど。で、そのラナは今どこに?」
「間違いなくスーピナに向かっております。途中進路を変える可能性もあるため注視します。だいたいここからですど、5日程で国境には入りますので、まずはきちんと国境に入った際はご連絡差し上げます。」
「助かる。」
「彼に魔力はありません。追跡魔法も今のところ気付かれておりませんので、最後まで追えると思います。」
ラナに魔力は感じなかったが、王族専用の場所に現れたとなると誰か手引きした者がいるはずだ。それに厄介な物まで持っていた……。その者に気付かれないためにも、あえて簡単に見つからない強力は追跡魔法にしておいた。
「エディルダ、お前は対峙した時何か気付いたことは?」
「武器を使用してこないため、私達を殺すつもりはなかったのではないかと考えています。不思議な体術でしたので戦いにくくはありましたが……。」
「不思議な体術?」
「それについては私が。この国では見たことがない不思議な身のこなしです。武器も何も持っていないのに、相手の懐に潜り込み、足や手で直接攻撃してきます。身のこなしも軽やかですし、何より動きが早い……。あんな体術、スーピナにも存在しないはずです。」
「動きが早く、直接的な攻撃……。」
ショコライルの言葉にエクラは何か心当たりがあるかのように、考え込んでしまった。
「父上、何かご存知なのですか?」
「その体術、昔見たものに似ている気がしてな。少し私とロンダにこの件は調べさせてくれないか?」
「よろしくお願いします。」
何か手掛かりが得られるならなんでも構わない。ショコライルはエクラが昔見たという情報から、ラナに結びつく何かが出ることを願わざるおえなかった。
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