第14章 静かな警告②
日が傾き出した頃、ミルティアはようやく目を覚ました。ぼんやり寝ぼけていると目の前にショコライルの顔が近づいてきたため、ミルティアは一瞬で目を覚ました。
「おはよう、よく眠れた?」
甘すぎる笑顔に呼吸が止まるかと思った。
「おっお陰様で。」
動揺してしまったが、目覚めてすぐにショコライルがいることが幸せすぎて、ミルティアは、はにかんでいた。
「よかった、しっかり休めて。」
そう言いながら少しだけ苦しそうな顔をしたショコライルを不思議に思ったが、すぐに穏やかな顔に戻ってしまったため、気のせいであったのかもしれない。
それよりミルティアが気になったのは愛おしそうにミルティアの手を繋ぎながら、撫でてくれていることだった。
「もしかして……ずっと繋いでいてくれたのですか?」
「もちろん!離すわけないよ。ようやく捕まえたんだから。」
とてつもない真顔で間髪入れず答えると、ミルティアの手に口付けを落としてきた。あまりにスマートすぎる動きにミルティアはタジタジになるだけだが、やはり本物の王子様は違うと変に納得していた。
実際は本物の王子全員がこんなことするのではない。少々愛が重い王太子がやる限定的な行動ではあるが、今のミルティアにそんなことはどうでもよかった。
ただショコライルに大切にされて愛されている、その事実を知れただけで嬉しくて仕方ないのだ。
「ありがとうございました。手疲れませんでしたか?」
そろそろ離そうとするミルティアの手を逃さないよう両手で掴むと、ショコライルはミルティアの耳に顔を近づけた。
「疲れるわけがない。なんなら毎日こうして寝たいぐらい。」
耳に直接響く、囁くようなショコライルの声は刺激が強すぎて、ミルティアは真っ赤になった。それに毎日眠るって……考えるだけで身体が熱くなるのが分かった。
いつかそんな日が来たらどれだけ嬉しいか。それはもちろんミルティアも望むことだ。だからこそ今は叶わない夢であることも知っていた……身分が違いすぎるのだ。
悲しい気持ちを抱いてしまうのを必死に隠すように、ミルティアは笑顔で誤魔化していた。
――トントン――――――
「入れ。」
一通りのやり取りが終わると、ちょうど扉を叩く音がしてきた。ショコライルが入室を促し入って来たのは、アレンとエディルダであった。
「休まれましたか?」
アレンはミルティアを気遣ってくれた。
「ありがとうございます。」
ミルティアはアレンにお礼を伝えながら、アレンの斜め後ろで気まずそうに立っているエディルダを見た。
ミルティアと目線が合ったエディルダは意を決して一歩前に足を踏み出した。
「ミルティアさん、本当に申し訳ありませんでした。」
とんでもないスピードで頭を下げたエディルダの頭をあげさせると、ミルティアは落ち着いた声でエディルダに感謝した。
「エディルダさんがいなかったら、きっとわたくしはこの場にいられなかったです。エディルダさんのお陰です、本当にありがとうございます。あの……お怪我は大丈夫ですか?」
まさか責めることをせず逆に感謝してくれ、自分のことまで心配してくれるなんて思わなかった。護るはずが傷付けられてしまい役に立てなかったのに……エディルダは目を丸くしながらミルティアの優しさが体に沁みてくるのを感じた。少しずつ心が落ち着いていくのを肌で感じながら、ミルティアのことを次こそしっかり護りたいと決意を固くした。
「怪我はしておりません。今後は警護を見直してお護り致します。」
「いえ、それはショコライル様に……。」
横にいるショコライルを伺うように見ると、ショコライルはミルティアの言葉に首を横に振った。
「あいつの狙いは俺ではなくミルティアだった。また接触してくる可能性はある。それに……俺の大切な人なんだからね?」
大切な人という言葉を堂々と言うショコライルであったが、ミルティアはまだ慣れてなく顔を真っ赤にして何か言いたいのか口をただパクパクと動かすだけで固まっていた。
そんな2人のやり取りをアレンは珍しく微笑んでいるのに対し、事情を知らなかったエディルダは2人を交互に見比べて、ようやくこの状況を理解し、とんでもない大声を出してしまっていた。
「えーーー!いつの間に!!」
「エディルダ、声!」
ショコライルは一応窘めるが、全然怒っていなかった。まだ他の人に知られるわけにはいかないが、ここには信頼できる部下しかいないし、なにより防音魔法で会話は聞かれない。それに堂々とミルティアとの仲を示せることは嬉しかった。
「すみませんでした。でもほんっとうによかったですね!!ショコライル様。いやー13年の想いがついに……」
「エディルダ!」
先程とは打って変わって慌てたようにエディルダを制止するショコライル。だが無情にも言葉は出てしまった後で、ミルティアに聞かれてしまっていた。
「えっ?!俺まずかったですか?」
「隠してたと思うよ、流石に……。」
見たことないほど動揺しているショコライルを目の当たりにして、エディルダは自分の失敗を理解した。ショコライルの部下なら誰でも知っていることなので、嬉しくてつい言ってしまったが、拗らせすぎてる年月を知られるのは確かに自分なら恥ずかしい。
エディルダは気まずそうに目線を逸らし、職を失う覚悟をすることにした。だがエディルダの心配は無用に終わりそうだった。
「13年……。ショコライル様、そんなに思ってくれていたのですか?」
ミルティアは引くどころか少し目を輝かせていた。あまりに綺麗な瞳にショコライルは全てを白状することにした。
「初めて会った日に、俺はもう君を好きになっていた。ずっと君のことが好きだったんだ。……変な男が近づいて欲しくなくて、リリアージュ男爵に頼んで縁談話を断ってもらってたんだ。だけどそれで君は傷ついたんだよね。本当にごめん。……重たいよね?」
自分でも重たいと分かる。自分がミルティアの立場だったら引く自信はある。だからこそミルティアから拒絶されたら受け入れる覚悟はできている……離すことはできないが。
恐る恐るミルティアに向き合うのと同じタイミングで、ミルティアがショコライルに抱きついてきた。
咄嗟のことに反応できずショコライルは状況が理解できなかった。拒絶の言葉ばかり考えていたのに、まるで正反対の対応に動揺すらしていた。
「嬉しいです。」
「えっ?嫌じゃないの?」
予想外すぎるミルティアの反応に思わずショコライルは聞き返してしまった。
「嬉しすぎます。だって、そのおかげでわたくしは誰とも婚約せずにすみました。」
婚約者がいないことに悩んでいたはずなのに、今はそれがとても嬉しかった。誰かと婚約していたら今この場にいないと思うと、恐ろしく感じた。
ショコライルからこんなに思われて、愛されていることが幸せすぎて、その幸せを噛み締めるようにショコライルにさらに強く抱きしめた。
このままずっとこうしていたい気持ちもあるが、どうしてもミルティアに伝えなくてはいけないこともあったため、ショコライルは軽く抱きしめると大切なことを伝えた。
「ありがとう、ミルティア。だけどその……みんながいるの気付いてる?」
そう、部屋の中にはまだアレンとエディルダがいたのだ。すっかり2人の存在を忘れてしまい、ショコライルへの愛情表現を爆発させてしまったことが恥ずかしすぎた。
声にならない叫び声をあげてから、ショコライルの上着を頭まですっぽり被るとミルティアはしばらくそこから出て来なくなってしまった。
羞恥心に襲われ、なかなか顔を上げれなかったミルティアには、他の人がどんな反応をしているかは分からなかったが、微かにエディルダの声で「恋人がほしい……」と聞こえた気がした。
お読みいただきありがとうございます。
14章の続きは明日の8時、11時、17時に更新予定です
どうぞよろしくお願い致します




