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サボり魔王子の家庭教師  作者: 梨乃あゆ
第一部 出会編
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第14章 静かな警告①

暫くすると部屋の扉を叩く音が聞こえてきた。入室を促すと入ってきたのはアレンであった。


 アレンは入室してすぐ、ソファに眠るミルティアと床に跪いているショコライル、そして繋がれた手に気がついた。

 ショコライルの思いがようやく通じた事実を目の当たりにして嬉しかったが、優秀な側近は一旦退室してすぐに手に小さな椅子を持って再び現れた。


 

 

 部屋の外で警護しているエディルダが、椅子を抱えて帰ってきたアレンを見て、「ソファありますよね?!」と驚いた声で尋ねている。

 

 アレンは「床に座っている。」という主語も何もない返しをするために、ミルティアがショコライルに怒って正座させているという、盛大な誤解を生じるやり取りをしているのをショコライルは聞こえてしまっていた。


 

 ミルティアの名誉のためにも、きちんと後でエディルダに説明しようと考えていると、アレンが持ってきた椅子をショコライルの側に置いてくれた。

 


「こちらにお座りください。」

「助かる、ありがとう。」


 ソファより少しだけ低い椅子は、座るとちょうどミルティアの目の高さと同じになっていた。それを分かった上で用意したアレンはやはり流石だと感心しながら、これで目を覚ましたミルティアに、1番に顔を見せれることができる喜びにも浸っていた。



「この姿勢でいいか?」

 本来なら姿勢を正し、ミルティアの手を離すのが正しいだろう。だがどうしても今日だけはミルティアから離れたくなかった。

 アレンもショコライルの気持ちは十分理解できているため、もちろん了承した。



「陛下にはミルティアさんが狙われたこと、警護をすり抜けられたことなどお伝えしておきました。今後の対策も含めて話をしたいそうなので、夜に陛下の応接間に集合となりました。表向きはオシリス祭の反省会です。父も参加します。」

「ありがとう。エディルダにも伝えてくれ。」

「畏まりました。」

「それから……アニスはどうだ?」

「部屋で休ませてます。」

「よく休ませれたな。」

「ミルティアさんのためにと説得しました。」

「助かるよ。……アニスのあんな表情初めてみたな。」

「ええ……。彼女もあんな表情をするのかと驚きました。」



 

 ショコライルとアレンは、ミルティアを助けた後のアニスの顔を思い出していた。ミルティアを護れなかったことが堪えたのか、それともミルティアが傷付いたのが信じられなかったのか……とにかくアニスの顔は蒼白く今にも倒れてしまいそうであった。ミルティアが無事だと分かると、途端に今にも泣きそうな顔に変わっていたが、こんなにもアニスが表情を変えることに2人は驚いていた。






 

 アニスは昔から魔導士として優秀で、剣の腕も女性なのに筋がよかった。どうしても体格差や力の差で正面から戦うと負けてしまう。それを攻撃魔法や防御魔法を同時に使うことで力の差をカバーしたり、浮遊魔法を自分にかけるという高度魔法を習得し強さを磨いていた。


 きつい訓練にも決して弱音を吐かず、仕事中は弱いところを見せないように表情はあまり崩さないアニスが、動揺し感情を露わにしていた。あんな蒼白い顔は初めて見た。それだけ彼女の中で今回の出来事が衝撃的だったんだろう。

 

 アニスはミルティアのことを本当に大切にしていた。それは使命感だと思っていたが、心からミルティアを想い仕えていた。そして彼女が傷付くのを目の当たりにして初めて、強い恐怖を覚えたんだろう……今にも倒れそうであった。



 

 アニスの異変にいち早く気付いたショコライルは、すぐにアレンに指示を出した。言葉にしなくても、アニスの表情でショコライルが言いたいことを即座に理解したアレンは、少々強引に休ませたのだった。




「ミルティアのことは絶対護る。だがそれだけではダメだな。彼女に何かあれば傷付くのは俺だけではなかった。そのことを痛感したよ……。アレン、これから大変だと思うがついてきてくれるか?」


 いつも堂々と王太子としての風格を保っているショコライルは今目の前にはいなかった。ミルティアが狙われたことがよほど堪えたんだろう。酷く傷付き少し弱気になっている背中なんて初めてみた。だが目の力だけはいつも以上に強く宿っていることにアレンは気付いていた。



 

 この人は自分のことより、周りを優先する本当に心が優しい人。王太子という鎧を纏い強くあろうと努力するが、本当は誰よりも傷付きやすい人。

 

 そんな人間味あふれるショコライルのことを、アレンは昔から友人として、部下として大切に思っていた。その気持ちは今だって揺るいでいない。それよりもショコライルがこれ以上傷付かないよう、ミルティアをさらに護ると心に誓ったばかりだ。

 

 だがそれだけでは不十分であることにアレンは気付いた。アレン自身が傷付いてはいけないのだ。アレンが傷付けばまたショコライルは今回のような表情をしてしまうだろう。


 


「当然です。だってあなたは私がいないと駄目でしょう?」



 少しだけ意地悪ぽくこたえたのは、内に秘めた気持ちを悟られたくなかったから。そしてショコライルに笑って欲しかったから……。


 アレンの読みは的中した。


「そうだな。お前がいないと困る。」


 ショコライルは笑いながらこたえてくれた。いつもの堂々とした決意を込めた表情が目の前にあった。




 


「夕方に迎えに参ります。エディルダにもあなたが休んでいることは伝えておきます。少し休まれては?」

「そうだな。そうするよ。」

「……。」

「なんだ?」


 いつもなら言いたいことも遠慮なく言うアレンが、何か言いたげに見てくるだけで不気味に思ったショコライルは、疑いの目を向けながら尋ねた。



「いや……よかったなと思いまして。」

 穏やかな顔をしているアレンは本当に嬉しそうであった。


「ああ……ようやくだ。」

「長かったですね……。」

「お前にも苦労かけた。」

「本当ですよ。いいですか、ようやくここまで来れたんです。何が何でも護りますよ。」

「当然だ。」

「それにあちらの方も動かなくては……。」

「それなんだが、この一連の騒動を利用しようと思う。かなり厄介だとは思うが。」

「この問題は解決しなくてはいけませんからね。全力で潰しましょう。」

「ああ。私に喧嘩を売ったんだ。覚悟してもらう。」


 何やら2人で今後の作戦を立てているが、最後のショコライルの言葉は怒気を含んでいた。もう野放しにはしない覚悟の表れだった。




「アレン、悪いが師匠に父上との話し合いの場に来てもらえないか連絡をとっておいてくれないか?私は少し休む。」

「畏まりました。では後程。」



 2人っきりになりたいショコライルの雰囲気を察した有能な側近は、一礼すると部屋を出た。

 

 きっと主は休まない。あのままずっと椅子に座ってミルティアを見つめることだろう。だが、それこそがきっとショコライルの最大級の心の癒しにもなっていることは想像できた。




 

 これから立ち向かうべき問題は予想以上に大きすぎるかもしれない。少しでもショコライルの心が落ち着けるなら、その機会は今後いつでも時間を調整しようと思った。




 

 だからショコライルからあんな提案が来るとは、今のアレンには全く想像できていなかった……。



 

次は17時に更新予定です

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