第13章 近付く心②
長距離走が終わると、この場にいる全員で片付けを始めた。大会2日目は長距離走が終わると全ての競技が終了となり、あと残すは閉会式だけとなっていた。
時刻は昼をだいぶ過ぎていたが、全て片付けてから落ち着いてみんなでご飯を食べることになったため、手分けして片付けを行うこととなった。
男性陣が主に力仕事のテントの片付けを行なってくれていたので、ミルティアとアニス、そして数名のショコライルの部下の女性と力仕事が苦手なハミルダで、使い終わったコップを洗うこととなった。
ここでもミルティアの力は役立った。大きな木の桶に水を張ることで洗い場まで行かずとも洗うことができたのだった。
洗い終わると次はハミルダの出番だ。ハミルダもショコライルと同様風魔法が得意らしく、洗い終わったコップを風魔法で浮かせながら、風をかけて乾かしてくれていた。
乾いたコップはアニスによって纏められているが、なぜか空中で纏めていた。何故空中で纏めるのか疑問だったが、すぐにその理由は分かった。全てのコップを纏めると、アニスはそのままコップを空中に浮かせたまま片付けの場所まで移動させていた。魔法で浮かせて運ぶことで、手では持てない量を移動させることができたのだった。
アニスは本来ミルティアと同じ水魔法の使い手で攻撃を得意としている。しかし父親が魔法騎士である影響で、他の魔法も習得しているため、物を浮かせて移動させることもできていた。
協力して洗ったためあっという間に終わってしまった。テントの片付けはまだ終わっておらず、あまりに洗い物が早かったためにエディルダに、魔法はずるいと言われてしまうぐらいであった。
テントが片付け終わるのを待っていると、閉会式を行っている会場から溢れんばかりの声が聞えてきた。どうやら総合優勝が発表されたらしい。オシリス神の加護が1年間もらえる国はどこなのか、結果を知らないミルティアはそんなことを考えていた。
閉会式も終わり、人がゾロゾロと会場から出てくる姿が見られるようになった頃、ようやくテントの片付けが終わった。閉会式が終わったということはショコライルの王太子としての仕事も終わったということだ。そういえば今日はまだ会えていなかった。これから会えるのか淡い期待を抱いてしまったが、きっと来賓達との最後の挨拶など控えているはずである。忙しいショコライルに毎日会えるのが当たり前と思っている自分の考えを消すべく、ミルティアは頭を左右に振った。
そんなミルティアの動きをアニスは気付いていた。ハミルダに何かを小声で伝えると、ハミルダは頷き目を閉じた。すぐに目を開いたハミルダは微笑んで、アニスに向かって指で小さな丸を作った。
アニスはそれに頷くと、今度はエディルダにまた小声で何かを伝え、今度はエディルダが軽く頷いた。
準備が整ったアニスはミルティアに声をかけた。
「ミルティア様、会いに行きましょう?」
「えっ?でも……。」
「大丈夫ですよ。アレン様から許可はいただいております。」
ハミルダが頷いたため、ハミルダが通信魔法でアレンと連絡をとったのであろう。まさか自分の気持ちがここまでいろんな人に見透かされているとは思っていなかったが、協力してくれるのは嬉しかった。
「本当にお邪魔じゃないかしら?」
「いえ、むしろ行かない方が悲しまれると思いますよ?」
「そうなの??」
ミルティアの問いかけに言葉ではなく満面の笑みでアニスはこたえてくれた。その笑顔の中に絶対に行くようにと言われているような錯覚すら覚えてしまう。
会いたかった気持ちは嘘ではないため、ミルティアは有り難くその誘いを受け入れることにした。
「ここからですと、人目につかずショコライル様の控え室まで行くことができます。案内しますね。」
エディルダの案内でアニスも付き添う形で一緒についてきてくれた。
今現在片付けや来賓と貴族達の馬車止めまでの誘導などに忙しく、ほとんどの人手が駆り出されていた。国王陛下と王妃は1番に帰るため、王族専用の控え室がある階にはもうショコライルとショコライルの部下の護衛騎士しかいないらしい。
王族専用の隠し通路を通ったお陰で、本当に誰にも会わずに控え室がある階まで来ることができた。
階段を登りきると、王族専用の控え室に繋がる廊下が目の前に現れた。会場が楕円のため廊下も曲がっておりミルティア達がいるところからはショコライルがいる部屋を確認することは出来なかったが、この廊下を真っ直ぐ進めばショコライルに会えることだけはわかった。
廊下の入り口には2人の騎士が門番のように見張っていた。
「変わりはないか?」
「少し前に窓に何かが当たる音はありましたが、それ以外は問題ありません。」
「音?」
「はい。強い風が吹いた時に鳴るような音でした。念のため左右の窓をすぐさま確認したのですが、どこも割れておりませんし、誰もおりませんでした。風が吹いたものと思われます。」
「そうか……。その件ショコライル様達は?」
「報告してあります。」
「ならば大丈夫か。」
普段のエディルダからは想像するのは難しいが、こうやって騎士達と話すエディルダには隊長としての風格があった。先程まで冗談を言ったり笑ったりしながら、ミルティアと一緒に仕事していたのが嘘のように、騎士としての凛々しい顔つきは頼もしさまで感じていた。
「では、案内しますね。」
凛々しい顔つきから穏やかな顔つきに変わったエディルダが、ミルティアをショコライルの部屋まで案内するべく歩き出した。緩やかに廊下を曲がりしばらく歩くと、急にエディルダが立ち止まり腰に下げていた剣に手をかけた。
ミルティアは何が起こったのか分からなかったが、大人しくすることが今は1番大切なことだということだけは察した。
「アニス。ミルティアさんの側に。」
低い声で小さく呟くエディルダに、すぐさまミルティアの後ろにいたアニスがミルティアの前に出た。それと同時にゆっくりとエディルダだけが前に進み出した。
ミルティアはアニスの背後から少しだけ顔を覗かせると、こちらに気付かず廊下をキョロキョロしている人が見えた。
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