第13章 近付く心①
ショコライルは王太子としての務めがあるため、ミルティアを救護室に送り届けるとそのまま王族席に戻って行った。
剣術大会は無事閉幕し、リンレッド王国の騎士が優勝した。興奮したリンレッド王国の貴族達が、バタバタと倒れることとなり、ミルティア達は試合後もしばらくは忙しく過ごした。
最後に倒れた貴族を迎えに来た従者に引き渡すと、辺りはもう真っ暗になっていた。さすがに丸一日動き疲れたので、挨拶もそこそこに帰路に着くことになった。
帰りも学園の馬車でハミルダに送ってもらった。揺れる馬車の中の会話は、やはり今日1日の出来事ばかりであった。
「ミルティアさん、疲れたよね?」
「流石に疲れましたね。でも先生を始め皆さんの方がお疲れかと思います。」
「そんなことないよ。君の水に何度救われたか。それに昼間に広場の水も冷たくしてくれたんでしょう?すごく評判がいいと聞きましたよ。」
「それはよかったです。」
ショコライルと更衣室での一件の後、救護室に帰る前に広場の水の温度を下げておいたのだ。暖かい春に、熱狂する試合となると皆喉が渇くはずである。少しでも冷たい水をと思って魔法を調整したが、それが好評だったというのは嬉しかった。
「明日はミルティアさんが忙しいと思うから頑張ってね。もちろんサポートはするからね。」
「ありがとうございます。」
明日の大会では、ミルティアが以前ハミルダに頼まれたもう一つの仕事が待っている。上手くできるか少し不安ではあるが、今日のように誰かのために頑張りたいと強く思っていた。
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大会2日目も綺麗な青空だった。昨日疲れたのか帰宅後湯浴みをしてすぐに眠ってしまったミルティアは、朝からスッキリしていた。
今日も朝からアニスが準備を手伝い、迎えに来た馬車に乗り込んで会場に向かった。
「おはようございます。」
馬車から降りると今日もエディルダが迎えてくれた。
「おはようございます。今日もよろしくお願い致します。」
「こちらこそ。さあ今日の仕事場に案内します。少し歩きますが大丈夫ですか?」
「もちろん大丈夫です。そのための靴も用意していただきましたので。」
普段のミルティアは、村で畑仕事をする時以外はヒールの靴を履いている。しかし今日はヒールが全くない靴を履いていた。これなら走ることも、長時間立つ事も苦労せずに済みそうである。
「分かりました、では案内します。」
エディルダの後ろを付いて歩いた先は、外に設置されたテントであった。今日はそこがミルティアの職場である。
「外なので暑いかもしれませんが、ご安心を。これを用意してますので。」
テントに入るとエディルダがあるの物を指差した。そこには大きな氷の塊が置かれていた。
「今日ミルティアさんと一緒にこのテントの中にいる者に氷魔法と風魔法の使い手がいます。これで暑さ対策は完璧ですよ!」
「なっなるほど……。」
昨日から思っているがこんなことに魔法騎士を動員していいのだろうか?貴族や王族ならまだしも、一介の男爵令嬢にやりすぎな気もする。だがどうせそれを伝えたところで返ってくる言葉は分かりきっているため、言葉は飲み込んだ。
よくテントの中を見渡すと、昨日会ったソイの姿があった。どうやら彼は空調管理の役割らしい。彼が氷の塊に風魔法を当てる事で、冷気がテント中に流れ涼しくなっていた。
「今日はよろしくお願い致します。」
一緒に働く人達に挨拶をすると、早速準備に取り掛かった。
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「ミルティアさん、そろそろ先頭が来ますよ!」
「分かりました!何人ぐらいですか?」
「ざっと20名です。」
「すぐに準備します!」
ミルティアは机に向かって手をかざすと、瞬時に並べられたコップに水を入れた。入れたというよりコップから湧いてきたという表現の方が正しいのかもしれない。もちろん全て適度に冷やしてある。
「すごい、この数を一瞬で。」
「上手くできるか不安でしたができてよかったです。」
「それでは運んできます!」
テントの中にミルティアとともに控えていたソイは、感嘆の声をあげた。ショコライルから話は聞いていたが、一瞬で大量の水を作るなど初めてみた。
今日もショコライルの配慮でミルティアのいるテントにはショコライルの部下以外はいない。しかもテントの中を覗かれてミルティアの魔法が見られないよう、テントの中に仕切りを作りミルティアを隠していた。
ミルティアの側には、アニス、ハミルダ、エディルダ、ソイが控えており、コップを並べたり、用意した水を彼らによって仕切りの外まで運んでくれていた。
ミルティアが水をコップに注いでしばらくすると、テントの外が騒がしくなってきた。近付く足音と声援、コップを取る音が入り乱れる。
その間もミルティアは追加の水をコップに注いでは、運んでもらうを繰り返した。
「ミルティアさん、疲れてない?」
一旦落ち着いたタイミングでハミルダが声をかけてきた。
忙しいがやはり魔力はさほど消費しないため疲れはあまりなかった。
「わたくしは大丈夫です。それより皆さんはお疲れではありませんか?運ぶの大変ですよね?」
「いいえ、去年までと比べるととても楽です。ミルティアさんのお陰ですよ。」
「お役に立ててよかったです!」
「本当に凄いことなんですよ!!例年俺らは水汲み場まで水を汲んで運んでいたんです。遠いし重たいし、何往復もするから騎士の訓練の中で上位のキツさなんですよ。それがこの短い距離を必要な数だけ運ぶだけで済むんです。助かってます!」
エディルダが力説してきたが、どうやらとても感謝されているらしい。アニスもソイも頷いていることから、本当にそうなのだろう。誰かの役に立てたのが嬉しかった。
「そういえば後何回ここを通るのですか?」
「長距離走なので、8回通ります。まだ1順目ですから1人後7回は通ります。」
「そんなに!皆さん大変ですね。」
ミルティアは選手を気遣ったが、他の人達は選手よりミルティアを気遣っていた。
「いや、彼らは走りたくて走ってますから。それより大変なのはこれを1人でやるミルティアさんですよ!」
「私なら大丈夫です!」
「でも疲れたらすぐに教えてくださいね。すぐに回復魔法をかけますから!」
王国一の魔導士であるハミルダまで、率先して回復魔法をかけると言ってくれる。昨日からショコライルやアレン、エディルダやアニス、そしてショコライルの部下、沢山の人がミルティアを気遣ってくれている。不安にさせないようショコライルの配慮なのだろうが、そんな彼らの優しさが嬉しくてミルティアは微笑んだ。
「また来ますよ!」
暫くするとまた水が必要だと声をかけられる。水を入れては運ぶ、これを何回も繰り返し、ミルティア達はこの長距離走大会を支えた……。そう、ミルティアの仕事は給水係であった……。
次は11時に更新予定です




