表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サボり魔王子の家庭教師  作者: 梨乃あゆ
第一部 出会編
55/183

第12章 サボり魔王子の変わったお仕事⑥

ショコライルが言ったように人払いされていたためか、誰にも会わずに目的地に着いた。目的地の入り口には2人の騎士服を着た男性が立っており、首元のネクタイからショコライルの部下だということがわかった。



 

「どうだ?ソイ、ステファ?」

「今回はなかなか強敵ですね。」

「俺たちだともう限界ですね。アレン様かショコライル様じゃないと難しいかと。」

「そうか……。お前達で難しいとなると今年は手強いのか……。」




 

 一体どんな敵が待ち構えているのか?そもそもたった2人の騎士で相手をし、他の応援を呼ばずに王太子であるショコライルに助けを求めるなどどういうことなのか、ミルティアはわからないことでいっぱいだった。




 

「ミルティア、君はここで待った方がいいかもしれない……。苦しむ君を見たくないんだ。」



 苦虫を噛み潰したような、苦悶の顔を浮かべるショコライル。ミルティアは益々どんな敵が待ち構えているのか、不安になったが、ショコライルの側を離れたくない気もしてしまっていた。


「ショコライル様のお仕事を拝見するためにここまで来ましたので……そのお邪魔にならないのでしたら、一緒に連れて行ってください。」

 ショコライルの足手纏いにだけはなりたくない。それだけは確認したかった。



 


「邪魔には決してならない。ただ無理なら遠慮なく外に出てもらって本当にいいからね。」

「わかりました……。」

「俺たちも側におりますので。」

「ご安心を。ショコライル様とアレン様ならすぐに終わりますから。」


 ソイとステファと呼ばれた2人はミルティアを安心させようとしてくれるのか、やたら必死だった。


 


「では行くぞ!」

 ショコライルの合図に全員頷き、ステファを先頭に部屋に入っていった。





 

 

 部屋の中に何かいるのだと思っていたが、誰もいない。部屋の中にはいくつもの棚とベンチが置かれているだけだった。



 

「これは……なかなかだな。」

 ショコライルにつられてアレンも頷くが、ミルティアは何も見えないため、2人が何を言っているのかわからない。ただ険しい顔をしているため、すでにその敵と対峙していることだけは理解できた。



 

「ミルティア、大丈夫?」

 心配そうに聞いてくれるが、見えないものは見えない。ここははっきり伝えなくては迷惑になってしまう……ミルティアは素直に伝えることにした。



 

「すみません……。あの、わたくしにはその敵が見えないのです……。」

 

 申し訳なく言うミルティアとは対照的にミルティア以外の者達は呆気にとられていた。



 


「あの……、もしかして何故ここにいるかご存知ないのですか?」

 恐る恐る声を出したのは、ソイと呼ばれる青年であった。


 

「はい。ただ着いてきただけでして。申し訳ありません。」

「決して責めるつもりはありません。ショコライル様、アレン様、お伝えせずに連れてきたのはまずかったのでは?」



 

 ソイの言葉に同調するようにステファは激しく頷いていた。

 名指しされたショコライルとアレンはお互いの顔を見合わすと、ミルティアに何も言わずに連れてきてしまったことにようやく気づいた。




 

「ごめん、ミルティア。きちんと伝えていなかった。」

「申し訳ございません。私がついていながら。」

 2人が必死に謝ってくれているが、慌てふためく上司達にソイとステファは笑いを堪えるのに必死だった。



 

 


「とっとにかく、まずはショコライル様どうにかしてください!話は後です!!」


 いろいろ我慢の限界を迎えたステファが叫んだため、一旦問題を片付けることにした。






 

 ショコライルはすぐに右手を天井に向けるように上げた。その瞬間心地よい風が吹き出した。窓は空いていないし部屋のドアも閉まっている。風が入り込める場所がないため、この風はショコライルが生み出していた。


 心地よい風が肌を掠めるにつれ、部屋の空気が新鮮になり、まるで森にいるかのように澄んだ空気が部屋の中でいっぱいになった。やがてショコライルが右手を下ろすと同時に風が止んだ。


 


「さすがです、ショコライル様。お陰で助かりました。」

「いや、今年は大変だったな……後は試合後だな。この分ならまた私がやりに来るよ。」



 

 ショコライルは笑いながら2人に伝えると、警護を任せて部屋に戻ることにした。




 


 部屋に戻る道中も未だ訳がわからないミルティアはいろいろ考えてしまったために、あっという間に部屋に着いてしまっていた。

 考え過ぎてどうやって歩いてきたかも覚えてない。よく戻ってこれたと思ったが、知らない間にショコライルに手を繋がれていたということを、本人は気がついていなかった。



 


 部屋に戻るとショコライルがお茶を淹れてくれた。普段飲むベリーの香りがするお茶ではないが、紅茶の香りが強く砂糖を入れていないのにほんのり甘さを感じられる、飲んだことがない紅茶であった。

 きっとショコライルのために用意された高級茶葉なのであろう。普段高級茶葉など飲めないミルティアにとって、またとない機会のため、じっくり味わうことにした。


 


「ミルティア落ち着いた?」

「はい、お陰様で。それで先程のは?」

「うん、きちんと伝えてなくてごめんね。まず訂正すると敵ははっきりとした実体ではないし、ミルティアや俺や国にとって害は絶対ないからね。」


 ミルティアの目の前のソファに腰掛けると、ミルティアをまっすぐ見つめてくれていた。深い青色の中に薄い青色もある海のような綺麗な瞳が、嘘ではないと物語っていた。



「そうなのですね。ショコライル様は何をされたのですか?」

「風魔法を使って空気の流れを生み出した。」

「えっと……、どう言う意味ですか?」


 ミルティアは説明してくれているはずなのに、全く内容が理解できずにいた。そもそもあの場所がどこなのかすら分かっていなかった。



 

「ごめん、順を追って説明するよ。まず、先程いた部屋は……その更衣室だ。」

「こっ更衣室?!」

 予想外すぎる場所にミルティアは大声を出してしまったが、確かに部屋にある棚には衣服が置かれていた。しかも男物である。つまりミルティアは男子更衣室に入ってしまっていたのだ。


 


「もっ申し訳ありません。なんてはしたないことを。」

 

 いくら着替えている人がいないとは言っても、男性が着替える部屋を覗いてしまったことには変わらない。ミルティアはなぜすぐに気がつかなかったのか……穴があったら入りたいくらい恥ずかしかった。



 

「連れて行ったのは俺だから気にしないで。事前に説明しなくてごめん。嫌だったよね?ミルティアが俺の仕事が見たいって言ってくれたのが嬉しくて、許可も取らず連れて行ってごめん。」


 


 普段堂々としているショコライルはミルティアのこととなると動揺をみせたり、慌てたり、とにかくポンコツぶりを発揮する。ミルティアの言葉が嬉しくて、男子更衣室に連れて行くなど、アニスに知られたら叱られそうである。その時は一緒に連れて行ったアレンも同罪にしておこう。




 

「私が行きたいといいましたので、気になさらないでください。少しだけ場所に驚いただけです。」

「ごめんね。それで説明に戻るね。窓はあるんだけどどうしても換気がうまくできなくて、その……血気盛んな男の香りと、それを消すために皆が使用する様々な香水の香りが混ざり合って……おかしな香りとなるんだ。選手達には快適に過ごしてもらうために、風魔法を使える魔法騎士達が換気をしているんだ。」

「なるほど……。」


 選手のためというのは素晴らしいことだと思うが、まさかそこに貴重な魔法騎士を動員しているとは驚いた。ショコライルの話から察するに、ソイとステファも風魔法を使える魔法騎士であることが窺えた。



 

「普段は魔法騎士だけで対処するんだが、何故か剣技大会の騎士達の更衣室はなかなか手強くて……。私は風を生み出す他にも、空気を綺麗にすることができる。香りを消せると言う訳だ。だから、毎年私があの場所を綺麗にしているんだ。」


 現代でいう空気清浄機である。まさかショコライルの魔法をそのように使うなど誰が予想できたであろうか?

 試合後また来るというのも、試合後にまた更衣室を使われるため、明日に響かないように綺麗にするということであった。



 


 手強い、敵、という単語は言葉だけ取ると確かに恐ろしい。まさかそれが血気盛んな男性の香りと香水の香りのことだとは誰も思わないだろう。

 だが意味がわかると、敵と表現したい気持ちも分かるし、匂いに悪戦苦闘している魔法騎士達を想像すると失礼だがちょっぴり笑えてきてしまった。いろんな人の支えによってこの大会は運営されていたのだ。



 

 何故か楽しそうに微笑んでいるミルティアをショコライルは不思議に思った。

 

「どうしたの?」

「すみません、とても手強い敵なのかと想像していましたのに、王太子であるショコライル様が臭い消しなんて……。なんだか力の無駄遣いだと思ったら笑えてしまって。」

「確かに!幼い頃からやっていたから疑問なんて感じなかったけど、多少の臭いなら我慢してもらえればいいのにね。でも、この国が好きだから、この国のために使えるならどんな仕事でもやっちゃうかな。」


 


 呆気らかんと答えるショコライルにミルティアはまた笑ってしまった。自分の魔法を当たり前のように使うこの人はなんていう人なのだろう。


 

 しばらく2人で笑い合った後、ミルティアはショコライルをこのまま引き止めていいのか急に不安になってきた。忙しいはずなのにこんな談笑ばかりしていいはずないのだ。



 

「お仕事は当分ないのですか?」

「試合後にまた行かなくては行けないけど、他は……まあ呼ばれたらかな?」

「呼ばれたら?」

「香りはいろんな場所で籠るからね。困ったら呼ばれるんだよ。」



 

「それに王太子としても戻らないといけないし、ちょっと忙しいね」と頬っぺたを掻きながらショコライルは笑っていた。

 はっきり言ってくれなかったが、いろんな場所で魔法騎士が活躍し、困ったら最終的にショコライルに相談が行くんだろう。



 

 一国の王太子が入らないような場所まできっと仕事の依頼があるはず……自分の立場に驕らず、常に国のことを考えどんな仕事もやり抜くこの王太子は、きっと素敵な国王になるとミルティアは確信した。

 

第12章お読みいただきありがとうございます。

少し長かったため2日に分けさせていただきました。



第13章も少し長いため2日に分けさせて投稿させていただきます。


明日は8時、11時、17時に更新予定です



引き続きよろしくお願い致します

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ