第12章 サボり魔王子の変わったお仕事⑤
連れて行かれた先はそんなに大きな部屋ではなかったが、置かれた調度品からそれなりに立派な部屋だということがわかった。
「お帰りなさいませ。」
「今戻った。」
ショコライルは上着を脱ぐと部屋に待機していたアレンに渡した。アレンがいること、ショコライルが寛いでいることから、ここがショコライルの控え室であることが分かった。
「どうしてここに?」
お昼ご飯を摂りにきたはずが、何故か控え室に連れてこられ、ミルティアは困惑するしかなかった。
「ああ、それはほらこれ。」
ショコライルが目線を向けた先を見ると、ダイニングテーブルの上に食事が用意されていた。
「ここで一緒に食べようと思ってね。」
「わたくしがいいのですか?」
「いいから連れてきたんだよ?」
確かにそうであるが、ミルティアの分を余分に準備したら怪しまれるのではないか……そんな考えをしていたのが顔に出ていたのか、ショコライルは笑いながらミルティアの疑問に答えてくれた。
「アレンと食事を摂ると言って用意してもらったんだ。だから気にしないで。」
「でしたらアレン様の分は?」
「それは安心して。アレンは変装して食堂に行くから。ほらみんなが匿ってくれるしね。」
なるほどと言っていいのか分からないが、どうやらミルティアが知らなかっただけで、みんなが協力してくれるらしい。上着を片付けに衣裳がある部屋に行っていたアレンが戻ってくると、ショコライルが言ったように騎士服は変わらず着ているが、メガネと深い青色の髪のお陰で別人に見えた。すっきりしているいつもの髪型と違い、少しボサボサで前髪が目にかかる髪型が新鮮で、ミルティアはつい笑ってしまった。
「似合いませんか?」
アレンは少しだけ恥ずかしそうであった。ショコライルはいろいろな変装をしているが、アレンはどうやら慣れていないみたいだった。
「いいえ、逆ですわ。その髪色はとてもお似合いです。メガネと前髪で顔を隠していても、お顔が見えてしまうとアレン様の格好良さは隠しきれておりませんね。」
思ったことを伝えたミルティアだったが、アレンは凍り付くような感覚に襲われていた。ショコライルの嫉妬が向き出しになり、アレンを睨みつけていたのだ。
「はは……。顔がバレないように気をつけます。では1時間後戻りますので失礼します。」
乾いた笑い声を出すと、そそくさとアレンは部屋を後にした。これ以上無自覚なミルティアによって、ショコライルを刺激しないために……。
「ショコライル様?」
アレンが部屋を出ても険しい顔をしていたショコライルに、ミルティアは何か問題が起きたのではないかと身構えた。だが名前を呼ばれたショコライルから発せられた言葉は想像と違っていた。
「アレンはかっこいいの?」
「はい?」
「いや、かっこいいっていうからどうなのかと思って。」
自分でも分かるぐらい膨れっ面で問いかけていた。心が狭いのは分かるし、堂々と大人の対応をしたいのに、かっこいいという一言を他の誰かに向けることが面白くなかった。
「アレン様はかっこいいと思いますよ。城内の女性も皆様かっこいいといっておりますし。それに……」
「それに?」
「わっ……わたくしはショコライル様もかっこいいと思いますよ!」
顔を真っ赤にして伝えてくれたミルティアは、恥ずかしさを誤魔化すように話題をテーブルに置かれた食事に変え、椅子に座ってしまった。
――「わたくしはいつでもどこでも、ショコライル様には本心でお伝えしております。」――
救護室でのミルティアの言葉を思い出したショコライルは、顔が熱くなるのがわかった。先程までくだらない嫉妬で心を乱していたのに、今はミルティアの言葉に心を乱されている。本心しか伝えないということは、ミルティアは自分のことをかっこいいと思ってくれている。言葉の意味を理解すると嬉しさと驚きで気持ちがいっぱいになっていた。
ミルティアが少しでも自分に気持ちを向けてくれているのではないか……。考えれば考える程、自分の都合がいい考えが頭を駆け巡り、ショコライルは顔がどうしてもにやけてしまっていた。
「ショコライル様!お食事が冷めてしまいますよ。食べましょう!!」
恥ずかしさを隠す為なのか、ミルティアは大きな声を出してショコライルを呼んだ。ショコライルは、にやける顔を誤魔化すために笑顔で頷き席についた。
お互い耳まで真っ赤になりながらも、楽しい時間は過ぎた。
気が動転し、アレンがかけてくれた防音魔法の上に、かなり協力な防音魔法をかけてしまったため、外からの声まで聞こえなくなってしまっていた。
そのためショコライルに入室していいか伺っていたアレンを廊下で待たせてしまい、痺れを切らせ転移魔法で移動してきたアレンにこっぴどく叱られるのは、この後1時間30分後の出来事であった……。
「全く、いい加減にしてくださいよ。」
「本当に悪かった。」
アレンのお説教は凄まじかった。ミルティアは座っているように言われたが、ショコライルは床に正座である。ミルティアも一緒に食事をしていたのに何もお咎めなしなのは忍びないが、アレンが「防音魔法を暴走させたのはショコライル様なので。」という、それはそれは恐ろしい般若のような顔で言われたら、黙っているしかできなかった。
アレンはアレンで、ミルティアをただ待たせるだけは申し訳ないと思ったのか、ちゃっかりミルティアのためにお茶菓子まで用意してある徹底ぶりだ。
「アレン、もう勘弁してくれ。そろそろ限界かも……。」
「ああ、そうでしたか。いいですか、ほどほどにですよ。少なくとも外の声が最低限聞こえる程度には留めてください!同じことをするなら、あなたの許可なしに今後も勝手に転移魔法を使い部屋に入りますので。」
「心得ておきます……。」
「では、早く衣裳に着替えてください。あなたのせいで時間がないですよ。」
「ちょっとだけ待ってくれ。頼む。」
ようやくアレンの説教は終わったが、長時間の正座に足が限界を迎えたショコライルは立つことができず、プルプルと震えていた。
「手伝いましょうか?」
痺れた足を触るという仕草をするアレンをショコライルは必死に止めていたが、アレンの顔が酷く楽しそうな顔をしていたため、ミルティアはやはりアレンは怖い人物だと再認識していた。
しばらくして起き上がれるようになったショコライルは衣裳部屋に移動してしまった。
「あの……。わたくしもそろそろ戻った方がよろしいですよね?」
ようやく話す機会が得られたミルティアは、休憩時間を大幅に越してしまっていることに焦っていた。仕事で来ているのに時間を守れないなど、最低なことである。
だがそれをアレンは問題ないというような顔をしていた。
「ハミルダ先生にはお伝えしてありますので大丈夫です。それにもしよろしかったら、もう少しこちらにいませんか?ショコライル様のお仕事が見えますよ?」
ショコライルの仕事が見えると言われたら、着いていきたいに決まっている。そう言えばチョコとして仕事があると以前ハミルダに頼まれていたことをミルティアは思い出していた。
「ご一緒させてください。」
ミルティアが返事をすると同じタイミングでショコライルが衣装部屋から出てきた。マントは付けていないが、王太子としての正装であった。
一緒に行きたいと言ったが、この格好だとは思っていなかった。てっきりチョコの姿として出てくるとばかり思っていたのに違っていた為、ミルティアは判断を間違えたことに気付いた。
「やっ……やっぱりご遠慮します。」
「なぜ?」
何故この格好のショコライルの側を、ただの男爵令嬢がいられるとアレンが思い至ったのか、逆にミルティアが聴きたかった。
「安心して、ミルティア。普段はチョコとして仕事するけど、今回は警戒してる関係で、この格好で仕事するんだ。」
ショコライルは正装姿ではあったが、腰には確かに剣を携えている。もしもに備えてなのだろう。動きづらくないのだろうかと思うが、普段鍛錬しているショコライルには問題ないし、服装で動きずらいなど言ってられないのが王族だ。
それに今日はアレンも騎士服で剣を携えているので、いざという時にアレンも戦える。万全の対策であった。
だからといってミルティアがいていい理由がわからない。きょとんとした納得できない顔をしてしまっていた。
「私が動くということは他国に警戒されてしまう。だから内密に動くのさ。私が行く場所は部下が人払いをしているから、誰も近付けない。だからミルティアがいても大丈夫ってわけだよ。王族専用通路を通るし、それ以外は人払いをしているから誰の目にも触れないってわけ。」
なるほど。王族専用の通路など通っていいか不安になるが、王太子がいいと言うのならもういいんだろう。特別待遇に慣れてきてしまっているミルティアは、すぐに納得してしまった。
「では行こうか。」
「はい、お願いします。」
当たり前のように差し出された手を取って、歩き出した。その姿をアレンは微笑ましく見守っていた。
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