第12章 サボり魔王子の変わったお仕事②
「アレン、問題はないか?」
「ええ先程会場に着いて、救護班の場所にいるそうです。」
「そうか……。」
「ご安心を。ハミルダ先生もいらっしゃいます。それに守備も整っております。」
「ありがとう。……では今日の予定を。」
「畏まりました。本日は……」
今日の予定を上の空で聴いてしまうのは、いくら信頼できる部下や師匠がいるからと言っても、自分は側にいられないから。逐一情報は入るはずなのに、自分の視界に彼女がいないと不安になってしまう。早く側に行きたい、そんなことばかり考えてしまっていた。
「……以上です。また分からなければ聴いてください。」
「……ああ……すまない。」
ショコライルの考えていることなどアレンにはお見通しである。気心が知れて、仕事もできる、信頼できる者が側にいてくれるのは本当にありがたいことだと、口に出せない分、心で感謝を伝えた。
「ではそろそろ来賓がお見えになります。謁見室へのご移動をお願い致します。」
「分かった。」
そういうとショコライルは掛けてあった上着を着た。今日は王族としての出席であり、国外からも来賓が来るため、ショコライルは正装をしている。
普段の装いと似てはいるが、普段銀糸で刺繍されている場所は金糸に変わっており、アスコットタイにはショコライルの瞳と同じ色の宝石を取り囲むような金細工の宝飾を身につけ、より華やかさを増していた。
さらに深い青色のマントを付けていることで、ショコライルの凛々しさを際立たせ、ただでさえ眉目秀麗のショコライルをさらに好男子に上げていた。
「父上との手筈は?」
「もちろん終えております。ご安心ください。」
来賓は大会中迎賓館に宿泊してもらうが、ショコライル達リンレッド王国の王族には、競技場に王族専用の控室が用意されている。ショコライルは自分に用意された控え室から出ると、来賓を迎えるべく競技場に用意された謁見室に向かった。謁見室がある階には来賓と王族の観覧席が用意されており、招待されない者は入れない。唯一同じ階に入れるのは、貴族や王族のための救護室のスタッフだけだった。
「何も起きないといいのだが……。」
アレンにも聞こえない程小さな声で呟きながらショコライルは長い廊下を進んで行った。
……………………
「そろそろショコライル君が来ますよ。」
ミルティア達が待機する救護室は、王族席や来賓席と同じ階であったため、王族席がとてもよく見えた。
ハミルダの言葉が合図のように、管弦楽の音が会場に鳴り響いた。国王陛下が会場に入る合図である。騒がしかった会場は一瞬のうちに静まり返り、ここにいる全員の視線が王族の席に向かっていた。
やがて華やかな音楽とともに国王陛下と王妃が姿を表し、人々は歓声を上げた。普段リリアージュ邸に遊びに来るエクラと同一人物なのかと疑いたくなる程、ただそこにいるだけで全ての者を魅力した。一目見るだけで国王と分かる程、威厳に満ち溢れていた。
これが国王陛下なのだと考え事をしていると、急に黄色い歓声が沸き起こった。何事かと思い王族席を見ると、そこには正装姿のショコライルがいた。
正装姿を初めて見たミルティアは息を呑んだ。まるでお伽話の王子様が絵本から飛び出してきたのではないかと思った。式典に参列していた庶民も貴族令嬢も来賓として来日された令嬢も皆、ショコライルの正装姿に目を奪われていた。まだ成人ではないため人前にあまり出ないショコライルを一目見られるということで、女性達はショコライルを見ることに必死だった。
その瞬間、ミルティアの心になんとも言えない気持ちが湧いてきた。この落ち着かない気持ちが何なのか……そんなことを考えながら、ミルティアは式典を見守った。
式典は1時間ほどで終わった。
ミルティア達がいる場所は王族席から近く、楕円形の会場のお陰でショコライルの姿がよく見えた。ショコライルの後ろに控えている護衛騎士を今日はアレンが務めており、エディルダと同じ騎士服を着るアレンもまた凛々しく、会場中の女性達からは「あの騎士様は誰?」「どこの方かしら?」「王太子様と揃って本当に素敵」など色目きたっていた。
式典後はこの会場では騎士達の剣技大会が行われると言うことで、会場では準備が行われていた。しばし休憩となったのだが、休憩中王族席には国内の上級貴族達や来賓の挨拶が行われていた。
和やかな空気の中、この機会に国王とお近づきになれたり、異国との交流もできるため、彼らはこの時間を有効的に使っていたがミルティアはあることに気づいた。
国王陛下に人が集まるのはもちろんなのだが、ショコライルにも人が集まっていた。次期国王陛下であるショコライルに挨拶をするのは当然かもしれないが、どうもその集まっている人達がそういう目的には思えない。ショコライルの周りには貴族の当主に連れられて若い女性が沢山いたのだ。
彼らはこの機会に、ショコライルに娘を見初めてもらうのに必死だったのだ。さすがにこの距離では彼女達の細かい表情まではわからなかったが、仕草から好意が溢れているのだけは分かる。
皆ドレスで着飾り、可愛らしい髪型をしたりと素敵な女性ばかりである。
その様子を改めて見ると、いかに自分が場違いか分かる。ただの男爵令嬢はここまで華やかにできないし、可愛くもできない。何より彼女達の身分には敵わない。ショコライルと立場が違うということをはっきりと突き付けられている感じがした。
ショコライルの側には沢山の女性がいたが、中でも一際目立つ令嬢がいた。遠くからでもキラキラ光っているのが分かる、宝石を沢山縫い付けた華やかなドレスに身を包んだ令嬢だ。
「あれは、サマド公爵家のご息女、メランカ嬢だよ。」
一点を見つめるミルティアに気づいたハミルダは、そっとその女性の名前を呼んだ。
あれが噂の学園一の美貌の持ち主と言われた人……初めて見た彼女は、噂に違わず可憐で美しかった。遠くからでも分かる優雅な動きに、花が咲き誇るような笑顔は、男子問わず魅力するのも頷けた。途中から体調を崩し、卒園まで在宅で勉強しながら課題や試験を受けたと聞いていたが、すっかり元気になったようであった。
「本当にお綺麗な方ですね。お身体もお元気になられてよかったです。」
ミルティアは思ったことをただ口に出しただけなのに、周りの空気はよくなかった。
「来賓の方より目立つなど立場を理解されてませんね。」
「ミルティア様があそこにいらっしゃったら、どんな服を着ていたとしても負けませんわ。それに体調への気遣いは不用かと。」
「気合い入れすぎ……。」
辛辣すぎる言葉が飛び交いミルティアは目を見張ったが、この空間にいる他の人達も、ただ頷くだけで誰も否定をしなかった。
「あの……。みなさん何か彼女とあったのですか?」
あまりに重すぎる空気につい口を滑らせてしまった。聞かずに察するのが淑女としてあるべき姿かもしれないが、ハミルダやアニス、エディルダ以外にいる救護班のメンバーも全員ショコライルの部下だと紹介してもらっていたため、つい気が緩んでいた。
「ミルティア様は知らなくて結構ですよ。」
「公爵の娘でなかったら、こんな場にいないのに。」
「俺達はいつでもミルティアさんを護りますから!」
意味はよく分からなかったが、これ以上詮索してはいけないことは分かった。それにエディルダの護るという言葉に部屋にいる全員が勢いよく頷いてくれたため、なんだか面白くなってしまいどうでもよく思ってしまった。
「ふふっ……ありがとうございます。」
楽しそうに微笑むと、エディルダを始めとするショコライルの部下は皆一瞬たじろいだ。
「アニス、俺これ2日頑張るの?」
「頑張ってください。今回は見逃しますが次からは報告しますよ。」
「いや待て……、なぁお前ら頑張るぞ!」
「はい、隊長!!」
「天然ですから気をつけて。」
ミルティアに聞こえないようやり取りをする彼らは、何とかショコライルの機嫌を損なわせないよう精神面を保つのに必死だったため、いつもの任務以上に疲弊するのだった。
次は17時に更新予定です




