第12章 サボり魔王子の変わったお仕事①
オシリス祭の前日は、カルレッタ公爵邸の馬車にショコライル、アレン、ミルティアが乗り込みオシリス祭の会場でハミルダと落ち合うと、水が流れていない噴水に向かってミルティアは魔力を送った。すぐに噴水からは水が勢いよく流れ、ミルティアの魔法を初めて見たアレンは驚いていた。
少しばかり明日の打ち合わせを行った後、ハミルダに別れを告げ3人はまた馬車に乗り城へ戻っていった。
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いよいよオシリス祭当日となった。
今日はショコライルは王太子として来賓を迎えなくてはいけないため、アレンと共に別行動となっていた。ミルティアは用意された大会運営用の制服である、薄い水色のワンピースに身を包んだ。動きやすいよう裾はくるぶし丈、シンプルなデザインなのだが、腰の部分にワンピースより少し濃い青色の布が縫い付けられており背中側で大きなリボン結びをするという控えめながら可愛らしいデザインであった。
髪はアニスにより編み込みを交えたアップスタイルとし、可愛らしく濃い青色のリボンを巻き付けた。
首元にはショコライルを初めて教えた日に身につけた、深い青色の石がついたネックレスを付けた。
初めてつけた日以降アニスが勧めたこともあるが、肌身離さず身につけている。ショコライルもミルティアがそれを身につけているととても嬉しそうだし、今日も必ず付けてくるように言われたため身に付けた。
「今日は私もご一緒します。ハミルダ様がお見えになる時間ですので、そろそろ外で待ちましょうか?」
アニスもミルティアと同じ制服に身を包み、2人でハミルダが迎えに来る使用人用の玄関まで歩き出した。
「おはようございます、ミルティアさん、アニスさん。」
程なくして迎えにきた馬車に乗り込み挨拶を交わした。どうやら学園の馬車を利用したらしい。
「いつも制服姿ばかりで見慣れませんが、やはりあなたは青色が似合いますね。」
着ている服と色は違うが、青色はショコライルの瞳の色である。その色が似合うと言われるとつい嬉しくなってしまう。緩んでしまう口元を隠すように少し俯いたが、横に座るアニスにはバレバレだった。
「ええ、ミルティア様は本当にお似合いなんです!」
話を切り替えたいのにアニスが話を盛り上げてしまったため、しばらく2人の会話が落ち着くのを待つ事にした。
「……さん?……ミルティアさん?」
名前を呼ばれてハッと顔を上げると、心配そうなハミルダの顔が目に入ってきた。アニスも心配そうにしている。
「ごめんなさい。少し考えごとをしていました。」
「顔色が悪いよ?ショコライル君から聞いた話のことを考えていたのかな?」
初めはアニスとハミルダの会話が落ち着くのを待つだけだった。だが下を向いていると、どうしても昨夜ショコライルから聞いた話を思い出してしまっていた。
自分の魔法の事は驚いたが、ショコライルの役に立てるという嬉しさが優っていた。昨日倒れそうになったのは、魔力の使い方に慣れていなかったためで、そのうち慣れて倒れなくなるとも聞いた。そこは何の問題もないが、自分の魔法が狙われる可能性があるかもしれないから気をつけてと言われたことが問題だった。
ショコライルは「万が一ね」と念押ししてくれたし、ミルティアの魔法のことは知られていないから大丈夫なはずだと伝えてくれたけど、不安は拭えなかった。本当に問題ないなら、ミルティアを不安がらせることをショコライルは絶対言ってこないはず。それをミルティアに言うということは、可能性はゼロではないと言っていることと同じであった。
「不安な気持ちにさせてごめんね。君の魔法は珍しいからね。でも今日はずっと私もいるしアニスさんもいる。ショコライル君はいないけど護るから安心してね。」
まるでミルティアの不安な気持ちを読んだかのような言葉に、ミルティアは安心できた。実際ハミルダはミルティアの魔力の揺らぎから不安な気持ちに気付き、申し訳ないと思いつつ、ミルティアの感情を読み取った。彼女を安心させるために彼女の悩みに合う言葉を投げかけていた。
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
ミルティアはハミルダとアニスがいるだけで心強かった。本人は言わないが、今までショコライルが側にいてくれたのはきっとミルティアのためなんだろう。ずっと一緒にいたショコライルがいない不安は付きまとうが、弱気になる必要はない。
窓の外を見るとまだ人がまばらな会場が目に入ってきた。これからここに大勢の人が訪れる。どうか何事もなく終わるように、この2日間を祈ることしかできなかった。
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「おはようございます、ミルティアさん。」
着いた先で馬車から降りると聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「おはようございます、エディルダさん。どうしてここに?」
目の前にはエディルダがいた。ファラフィラ村でしか会ったことがないため騎士服姿を初めて見た。村にいる姿は話しやすい気さくな青年という感じだが、やはり騎士服に身を包むと凛々しく逞しく感じる。ショコライルが身につけたらこんな感じなのかなと考えてしまうとつい顔が赤くなってしまった。
「今日は救護班の護衛なんです。」
「ではご一緒なのですね!」
「はい。ちなみに明日はミルティアさんの職場の警護です。」
いたずらそうに笑うその顔で、ミルティアは全てを察した。アニスやハミルダと一緒で、エディルダも自分の護衛として来てくれたんだと。今日ミルティアの仕事はない。だが城にいるのも不安だということで、ハミルダの仕事場に同行し補佐をすることになった。ハミルダは高度魔法の治癒魔法が使えるため、今日は救護班で仕事をすることになっていた。
「ありがとうございます。でもショコライル様のお側にいなくてよろしいのですか?」
「ああ、それならアレン様がいるので大丈夫です。あの方は護衛として強すぎますから。魔法も使うので私など足元にも及びません。それにショコライル様なら護衛など必要ありませんよ。」
エディルダは笑いながら頭をかいた。困った上司達なんですと楽しそうに話している。アニスやハミルダもそれに同調するように頷いている。
ショコライルは部下からとても信頼されている。そのことが彼らの行動にも現れていた。
しばらく楽しそうに話すエディルダを見ているとある事に気がついた。
「エディルダさんの制服は、他の騎士様と少し違うのですね?」
騎士の制服は白い上着と黒色のズボンですっきりとしている。有事の際は上下黒の制服となるが、リンレッド王国は魔法と、根気よく隣国と話し合いを行ったおかげで、もう何十年と争いを行っていない。決して汚れることのない白い制服は平和の象徴として国民に根付いている。
エディルダも騎士服を身につけ、一見他の騎士と変わりないように見える。ミルティアが気付いたのはほんの些細な違いだった。
「よく分かりましたね。これはショコライル様直属の騎士団の証なのです。」
エディルダは自慢そうにネクタイを指さした。騎士のネクタイはミルティアが今着ている服と同じ淡い水色である。これは現国王であるエクラの瞳の色を表し、王に忠誠を誓う意味も込められている。だがエディルダのネクタイは深い青色であった。
「あっ……ショコライル様の瞳の色?」
「はい。この色のネクタイを締めている者が、ショコライル様直属の部下になります。俺ら……あっいや私達は国王様に忠誠はもちろん誓いますが、1番はショコライル様に忠誠を誓ってます。ショコライル様の指示が最優先なので他の騎士団と違って自由なのですよ。」
ということは、王命より王太子の命令を最優先するということだ。エディルダの今日、明日の仕事はショコライルの命令で動いているということがはっきりした。
「ふふっ……、エディルダさん、どうぞわたくしのことはお気になさらず普段通りで結構ですよ。」
言葉遣いをわざわざ訂正するエディルダは、どうやらとても真面目らしい。ミルティアは自分に気を遣わず自然体で接してほしかった。
「ありがとうございます。では俺でいきますね。」
少し照れたように笑うエディルダは、ファラフィラ村で会ういつものエディルダに戻っていた。
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