第11章 サボり魔王子護衛になる②
急いで身支度を済ませたミルティアは、いつもより早足で執務室に向かった。扉を叩くとすぐに返事が来たため部屋に入ると2人を睨みつけた。
「あれはどういう意味ですか!!」
「ミルティア落ち着いて。ごめん全て話すから。」
予想以上にミルティアが膨れているので、ショコライルは慌てて椅子から立ち上がるとミルティアの側まで歩み寄り、手を取ってソファに座らせた。すぐにミルティアの大好きなお茶を淹れるとミルティアの正面に腰を下ろした。
「ごめんね。まだ怒ってる?」
「怒ってます!あんなに目立って……恥ずかしいです!!」
「ごめん。ああしないとちょっとうるさい連中を黙らせられなくて。」
「男爵令嬢がショコライル様やアレン様に近いのは確かにおかしいですからね。」
「おかしくはない。ミルティアが優秀なのは間違いないのだから。爵位で胡座をかいている奴らと比べ物にならないぐらいにね。」
「ありがとうございます。」
「でも嫌な気持ちにさせてごめん。配慮が足りなかった。」
先程の女性達の視線のことを言っているのだろう。でもあれはショコライルとアレンがはっきり伝えてくれたお陰で、女性達はバツが悪そうな顔をしていたので、今後同じ視線は向けられないはずだ。
「しっかり訂正していただいたので、嬉しかったです。ありがとうございます。」
ショコライルとアレンが申し訳なさそうな顔をしているため、ミルティアはもう気にしていないことをしっかり伝えた。だがショコライルにはミルティアが無理をしていることを見抜かれていた。
「強がらなくていい。もう2度とあんな目に晒すことはないと誓う。震えさせて悪かった。」
ショコライルはミルティアの両手を自分の手で包んで安心させた。剣を握っているからこそできる、タコがいくつもあるミルティアより大きな手。骨ばった手は温かく、恥ずかしいはずなのにミルティアの心を温めてくれた。
「ありがとうございます。」
ミルティアは再度お礼を伝えると、ショコライルは一瞬強く握りしめた後、名残惜しそうに手を離した。
「さて、本題に入るね。何故変装してたか聞きたいでしょ?」
ショコライルの問いかけにミルティアは大きく頷いた。
「ミルティアの魔法がはっきり分からない以上、急に制御ができなくなった場合など、なんらかの問題がおきるかもしれない。ハミルダ先生との研究をしているからこそ、魔法を今まで使わなかった分、急に使い出したことによる問題も出てくるかもしれない。そうなった時すぐに対処できるよう、私が側にいる方がいいということになった。」
「そんな理由で?」
「大切な理由だ。ハミルダ先生も言ったが、ミルティアの力はこの国を救うかもしれないのだ。ミルティアに何かあってはいけない。」
「申し訳ないです……。」
「父上も認めた立派な仕事だ!」
「国王陛下がご存知なのですか??」
エクラの名前が出てきたことで、話が大きくなっていることに初めて気付いた。国王すら動かす力が本当にあるのか、ミルティアは自分の力なのに疑うことしかできなかった。
「だからできるだけ側にいる。」
その言葉は先程までの強さと異なり、非常に優しい言い方だった。ショコライルとできるだけ一緒にいられるのは嬉しい。だからこそ、ミルティアは自然に笑顔になってしまった。
ミルティアのその顔を見てアレンは目を見張った。アニスから聞いていたが、まさかここまで幸せそうな顔を自然とするとは思わなかった。それだけミルティアの心の中でショコライルが占める割合が多いことをはっきりと示され、アレンはショコライルだけの一方通行な気持ちに、終わりが近づいていることを知った。
「それから、研究が終わるまでは、誰にもこの力のことを言わないでほしい。」
「わかりました。」
ミルティアが深く聞かず納得してくれたので、ショコライルは安堵した。嘘は言っていないが、本当は狙われる可能性があるため、護衛として側にいるのが1番の理由なのだが、それを伝えるとミルティアは怖がるだろう。だからこそ真実を全て伝えず、その代わり周りの者達で護ることを決めていた。
「それでその格好ということですか。」
「ああ……。騎士服と迷ったのだが、ミルティアが騎士に護られていては目立つからね。」
ショコライルは剣術も得意なため、騎士服も着慣れている。着慣れた騎士服の方が動きやすいのだが、目立つことを考えるとアレンと同じ格好が1番都合がよかった。
「騎士服……。」
「ミルティアは騎士服が好き?」
真っ赤な顔をして手で顔を覆うミルティアに、ショコライルは冗談そうに聞いてみた。
「すみません……。」
「えっ?どうして謝るの?」
「冗談はやめてください!」など言われると思ったのに、未だ顔を真っ赤にして動かないミルティア。ショコライルは何故謝られているのか心当たりがなかった。
ミルティアの反応に戸惑っているショコライルを横目にアレンは核心を突いてきた。
「ショコライル様の騎士服はかっこいいですよ。」
何をアレンは言い出すのかと怪訝な気持ちになりながらミルティアを見ると、ミルティアはさらに顔を真っ赤にしていた。これはもしや……流石のショコライルにも思い当たることが一つだけあった。
「もしかして、俺の騎士服姿見たい?」
自惚れているなどアレンにバカにされるかもしれないが、どうしても聞いてみたくなり恐る恐る尋ねると、顔を真っ赤にしたミルティアは静かに頷いた。
「ほっ本当に??」
まさか本当だったとは思っていなかったショコライルは、ミルティアと同じくらい顔を真っ赤にしていたが、顔はとにかく嬉しそうにニヤけていた。
「昔、いつか騎士服を見せるとお約束していただいて……。一度は拝見したいと思っておりました。」
ミルティアのその言葉にショコライルは昔のことを思い出した。
――――――――――
それはまだ幼い6歳頃のこと。ショコライルが剣術を習い出したと話したら、ミルティアは目を輝かせていつか剣術を見せてほしいと言ってきたことがあった。その時幼いショコライルは強くなったら騎士服を着て必ず見せると約束していたのだ。
まさかあの約束を覚えて楽しみにしていてくれたなんて……。ショコライルは嬉しい気持ちとその約束を忘れていた自分を殴りたかった。
どうしても緩んでしまう口元を隠しながらアレンを見ると、アレンは頷いて手帳を眺めた。
どうやら有能な側近は、ショコライルとミルティアの願いを叶えるべく、奔走してくれるようであった。
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