第11章 サボり魔王子護衛になる①
ハミルダに呼び出された日以降、ショコライルがミルティアと一緒にいる時間は格段に増えた。ご飯や夜以外はほとんど一緒に過ごし、ファラフィラ村に出かけたり、ハミルダの研究室に向かったりとして過ごした。
嬉しい反面、こんなにそばに居て仕事など大丈夫か心配になったが、本人に聞いても問題ないの一点張りなのでもう聞くことはやめた。
そしてついに今日、ショコライルはさらに一緒にいるべく新たな作戦を決行してきた。
「ミルティアさん、おはようございます。」
いつものようにアニスと朝食を摂りに向かった食堂で、ミルティアは声を掛けられた。振り返ると目の前に普段この時間にはいないアレンがいた。以前ミルティアがアレンに行った不意打ちを仕返しされた形だ。
「おはようございます、アレン様。」
驚きつつも他の人の目もあるため騒ぐことはせず、冷静に挨拶を返した。ミルティアがショコライルの家庭教師というのは公にされていない。アレンの事務仕事の補佐を行うため、城に勤めていることとなっている。
この国ではあまり知られていない、もちろんミルティアも知らない制度が学園には存在する。それは優秀な人材を確保すべく、王族からの依頼に基づき、学園から推薦された生徒が、学生でありながら王城に勤めることができる制度のことである。
学生でありながら王族からの招待で来るため、依頼中は客室が用意されている。
バーナードはこの制度をエクラから事前に聞き、ショコライルの家庭教師として必要とされている内容の書類を、ロンダに用意してもらい学園に提出することで、学園の推薦状なしに王城に送り込むことができていた。王族からの依頼は機密情報に当たるため、ミルティアが王城に呼ばれた理由は学園では伏されている。
王城の保管書類には、アレンの事務補佐として呼び出したという書類をロンダが作成しているため、王城に勤める者達はミルティアがアレンの事務補佐として来ていると信じていた。
アレンの事務補佐として怪しまれないよう、執務室には毎日通っているため、わざわざ食堂で待ち伏せされた理由が分からなかった。チラッと横にいるアニスを見ると驚いた顔をしていないため、アニスはこの状況を事前に知っていたようであった。
「どうされました?」
「朝早くにすみません。どうしても先に紹介したい人がいまして。」
アレンはそう言うと、後ろに控えている人物を前にも出させた。
「私の従兄弟のライと申します。今日からしばらく私の仕事内容を学ぶため、私と行動を共にします。仕事でご一緒になることも多いと思いますので、どうぞよろしくお願いします。」
紹介された人物を見てミルティアは固まるしかなかった。金色の長髪を一つに結び、眼鏡をかけた青年。アレンと同じ深い緑色の制服に身を包む彼のことをミルティアは知らない人のはずなのに、よく知っている人であった。
「初めまして、ライと申します。」
ニコッと微笑む彼はやはり初めましてと言っているが、その声色を聞いて、やはりミルティアの知っている人物なのだと確信した。
この食堂にいるはずのない、いてはいけない人物……そうショコライルだったのだ。
「初めまして。」
話を合わせるようにミルティアは微笑んだが、何故変装しているのか分からなかったし、この場にいることも分からなかった。
ショコライルは普段、王太子専用の食堂でご飯を食べる。なのに今ショコライルは職員食堂にいるため、ミルティアが動揺するのは当然であった。
周囲を見渡しても、他の職員は誰も驚いていない。ただ不思議そうにこちらをチラチラ見てくるだけであり、王太子がこの場にいることに誰も気付いていないようであった。
職員が気付かないのは当然であった。今のショコライルは髪の色も長さも異なるし、服装も違う。
ミルティアはファラフィラ村へ行く際にショコライルの金髪に慣れていたことと、ミルティアに話す優しい声色で気がついた。
この場でその格好のことを問い詰めたいところだが、変装している以上ここで詰め寄るわけにはいかない。
普段この時間帯にいないアレンがいること、またアレンと共にいる端正な顔立ちの青年に、食堂にいる職員達から多くの視線が届けられた。
とりわけ女性職員はチラチラと2人を見つめては、「朝から幸せ」だの「お近付きになりたい」など黄色い声が飛び交い、話の花を咲かせていた。
ショコライルもアレンも女性から大人気であった。だからこそ、その2人を独占しているミルティアに厳しい視線が向けられていた。
ミルティアは学園での苦い記憶を思い出し、手が小さく震え出した。ショコライルやアレンにこれ以上近付くのはよくないのではないか、そんな考えが頭に浮かびだしていたが、その考えを一瞬で吹き消す言葉をショコライルは発した。
「あなたは大変優秀で、こちらに来ていると伺っています。是非沢山学ばせてください。あなたのような方にしっかり教えてもらえれば、間違いなく多くを学べるはずです。」
ミルティアはその言葉で手の震えが治まった。
誰に媚を売るのではなく、ミルティアの実力で今この場にいること、ミルティアは決して色目でアレンに近付いたわけではないこと、ミルティアの能力は女性であるのに、とても優れていることを周りに伝え、変な気を起こそうとしている女性陣を、ショコライルは牽制した。まるで決してお前達には出来ない仕事だと言い放つかのように。
ショコライルのその一言のお蔭か、女性陣達は視線を逸らした。
「ライ、よく分かりましたね。彼女は素晴らしい仕事をしますので、ぜひ多くを学んでください。私より学べるかもしれませんよ。」
アレンもショコライルに続いて援護することで、アレンもミルティアに一目置いていることをより印象付けられた。アレンは女性をあまり寄せ付けない。そのアレンが認めるということはミルティアがどれだけすごいかを思い知らせるには十分だった。
「あっありがとうございます。よろしくお願い致します。」
朝早く2人から褒められたミルティアは恥ずかしくなったが、2人の気遣いがわかって嬉しかった。
後で執務室で言えることを、大勢の人がいる前でわざわざ話したということは、ミルティアの存在意義を高める狙いなのだろう。ただの男爵令嬢が王太子の側近の補佐など疑われているはずだ。そのためアレンがミルティアの実力を認めたと大勢の前で伝えれば、皆ミルティアを見る目は変わるはずだ。
後はショコライルのこの変装なのだが、きっとサボりの一環なのだろうとは思えるが、詳しくは執務室で聞くことにした。早くこの場から立ち去りたかった。
皆先程のショコライルやアレンの言葉から、ちらちらミルティアを見てくる。聞き耳を立てて会話の内容を聞こうとする者もいた。これ以上目立ちたくないミルティアは急いで食事を済ませ、逃げるように食堂を後にした。
その姿をショコライルとアレンは楽しそうに見ながら、ゆっくり食事を楽しんでいた。
アニスはミルティアを追いかけるため急いで席を立つと、2人を睨みつけて出て行った。
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