第10章 動き出したそれぞれの想い③
「ショコライル、それは本当か?」
ショコライルは先程の学園での出来事を、ハミルダの仮説を交えながら説明した。やはりショコライルと同じように信じられないという反応をそれぞれしていた。
側近のアレンですら話を聞いていなかったので、目を見開いてあからさまな動揺の表情を浮かべていた。
「ハミルダ先生が言うので間違いないと思います。」
「そうか……。バーナード、お前は気付いていたか?」
「いっいえ、全く……。魔法は苦手だと思ってましたので……。」
バーナードは娘の知らない能力にただ驚いていた。バーナードも水魔法を使えるため、ミルティアに使い方を教えたことはあったが上手くいかなかった。まさか他の能力に秀でていたとは考えてすらいなかった。
「驚きましたけど、彼女は魔力量が高いはずなのに魔法が苦手というのは不思議だったので、今のお話で納得できました。」
アレンは少しだけ落ち着くと、彼女に対しての疑問がようやく分かり納得していた。魔力量は魔力が高い者しか感知することはできない。だからこそ魔力量がそんなに多くないバーナードは、ミルティアの秘密に気づけなかったのだ。
「彼女の力は特殊です。まだ分からないことも多いため、これから調べていく中でわかってくることもあるかとは思います。だからこそ、不確かな情報のまま特殊な力があるということだけが他の奴らに気付かれてはいけません。どうかこの場にいる者以外には絶対に伝わらないようお願いします。父上の部下を疑うなど失礼だとは思いますが、少々不穏な動きがありそうなのです。」
「というと?」
「まだ詳しくはお伝えできません。正直私もまだよく分かっておりません。しかしハミルダ先生から周囲に気をつけろと助言をいただいております。」
「ほう、ハミルダが。」
「僭越ながら、ハミルダ先生は私の諜報活動の一旦を担って下さってます。信頼に値するかと。」
「なるほど、肝に銘じておこう。また詳しいことが分かったら必ず伝えるんだぞ。」
「はい……。」
ショコライルはそこで一度口を閉ざした。これからあくまで想定の話をしなければいけないが、口に出したくなかった。だが口に出さないと伝わらないし、想定通りの事が起こった時対処が遅れ後悔するだろう。だからこそ今は覚悟を決めて伝えなければいけない。
ショコライルは覚悟を決めるように手をぎゅっと握ると、いつもより少し低めの声で話し出した。
「これはもしもの話ですが……。もし万が一隣国などに気付かれてしまうと……彼女を欲しがる国は沢山でてくると思います。彼女が政略結婚の材料にされたり、連れ去られたりするかもしれない……。国家間の争いに彼女を巻き込みたくありません。ハミルダ先生もとにかく今は隠す方がいいだろうと同じ考えでおります。」
あまりに真剣な顔つき、声色で話すショコライルの話を皆、言葉を発せず聞き入っていた。ショコライルがここまでの態度を示すとなると、あながち可能性はゼロではないことは誰もがわかった。そして魔導士として国内随一と言われているハミルダも同じ考えとなるとより意味は重かった。
「よくわかった、ショコライル。バーナード、彼女をしばらく王城で保護したい。名目上は家庭教師だがいいか?」
「ミルティアのためとならば。それが1番安全でしょう。」
話を聞き終えたエクラはすぐに行動に移してくれた。エクラが言うということは、国としてミルティアを護るということとなる。
「ありがとうございます、父上。」
「貴重な力だとしたら国として護るのは当然だ。城にいる間は安全なはずだ。ミルティアには悪いができるだけ外出はさせず城の中で護る方がいいだろう。」
「そのことなんですが、今度のオシリス祭の手伝いをすることになりまして。ハミルダ先生からの依頼です。彼女もやる気になっておりましたので止めることもできず……。すみません。」
自分でミルティアを護るよう打診しておいて、外に連れ出すなど矛盾していると思う。しかし彼女が自らの意志で苦手だった魔法に向き合う機会を潰したくなかった。
「謝ることはない。彼女を護る正当な理由を言えない状況で、男爵令嬢1人を王城で囲うことは何か裏があると勘づかれ必ず疑われるだろう。そのために適度に外に出すことは問題ない。その代わり必ず周りに気付かれないよう護ることが大切だ。」
エクラの言ってるのとはもっともである。今王室がミルティアを厚遇したら、彼女が何か特別な存在であると気付かれてしまう。それがショコライルにとってなのか、国としてなのか、探りに来る者は必ず出てくる。そうならないように特別扱いで過ごさせず、城に勤めてる者とあえて同じ待遇に見せることは相手の目を眩ますためにもとても大切なことだった。
「それに対して私に考えがあります。」
「言ってみよ。」
ショコライルは自分の考えを伝えた。ミルティアにとって最善な方法をハミルダと別れてからずっと考えていた。考える時間は短かったため、はたしてその考えが正しいのか不安であったが、誰も文句は言わずに採用となった。
「アレン。ショコライルの抱えている仕事は今何がある?」
「特に大きな仕事は抱えておりません。1ヶ月後の養護院への訪問のための準備を行っているぐらいです。そちらはほとんど終わっておりますので、後はご自分の研究をされているだけでございます。」
突然のエクラからの質問にも、すぐに意図を察し期待通りの言葉を告げるアレンは、この歳ですでに有能であるとこの場にいる誰もが認めた。
「その訪問はサボりか?」
その言葉でショコライルとアレンは一瞬眉をぴくっと動かした。痛いところを突かれたのだ。
質問の意図からエクラにはお見通しであることは確実であったため、アレンは素直に答えた。
「申し訳ありません。サボりでございます。」
サボりということは、施設からの依頼や国からの定期巡視の依頼で動くわけではなく、ショコライル側から打診し訪問していることとなる。
つまりそれは仕事としての訪問ではない。ショコライルは偽りの姿を保つため、訪問していることは公にはしていない。なのでショコライルが訪問している時間はサボりでどこかへ逃げていると、周りは騙されていた。
「まぁ、サボりの件についてはまた別の機会に話そう。サボりでの訪問は公式なものではないのだから、必ずミルティアを連れて行くように。それからアレン。」
「はい!」
「しばらくショコライルの公式な訪問の仕事は入れないように。できるだけこちらに回せ。簡単な仕事も回してもらって構わない。いいなロンダ?」
「もちろんです。簡単な仕事ならただ椅子に座って踏ん反り返っている貴族達でもできるでしょうから。」
「よろしいのですか?」
「ショコライル、私達をいい加減頼れ。お前にはそれより大切な仕事がある。」
「大切な仕事?」
「ミルティアの側からできるだけ離れるな。お前しかできない仕事だ。」
「あっ……。」
養護院への訪問について追求されると思ったが、思いの外あっさりと今回は終わって安堵していたところに、仕事を入れるななど急な提案に困惑した。だが全てはショコライルになるべくミルティアの側にいられるようにする配慮だったことを知り、ショコライルは改めて父親達のありがたさ、頼もしさを実感した。
「畏まりました。」
アレンはすぐに返事をすると持ってきた手帳を確認し、ロンダと相談を始めてしまった。
「ショコライル君。」
しばらく静かであったバーナードはようやく重たい口を開くとショコライルを難しい顔で見てきた。
「はっはい。」
あまりの表情にショコライルは声が上擦ってしまった。大切な娘を巻き込んだことに怒っているのか、娘に近づくなと怒鳴られるのか、ミルティアのことが心配なのか、その表情からはどれが正しいのか読み解けなかった。
「いや、ショコライル殿下。ミルティアのことをここまで考えてくださり感謝する。どうか彼女のことをよろしくお願いします。」
まさかのバーナードからの言葉にショコライルは面食らった。リリアージュ邸での恐ろしい詰め寄りをした人物と同一人物なのかと疑うほど、今のバーナードはショコライルを信頼し、ミルティアを預けてくれていた。
「必ずお護り致します。」
「信じている。だが一緒にいる時間が長いからといって、くれぐれも間違えないように!!」
前言撤回。ショコライルの心の中にはっきりとその言葉が浮かんだ。嘘のように強さを取り戻したバーナードはショコライルを睨みつけると釘を刺してきた。
ショコライルが狼狽えてる側で、エクラが楽しそうに笑っていた。
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