第9章 サボり魔王子覚悟を決める④
ミルティアがご飯の支度が出来たと声をかける為に再び応接間を訪れると、スッキリとした満足そうな顔のバーナードとエクラとアレン、それに相対するように、先程よりも顔色が悪いショコライルがいた。
どう見ても3人でショコライルを追い詰めたのは明白だったが、何が行われたのかはミルティアにはわからなかった。
来るタイミングを確実に間違えたと思ったミルティアは、扉を開けたものの声をかけられずにいた。扉の前で5分程動けずにいると、ようやくミルティアに気がついたバーナードがミルティアに声をかけてきた。
話出すきっかけをもらえたミルティアはすぐに一礼し、支度ができたので食堂に皆を案内することとした。
食堂まで繋がる廊下はやはり人払いがされていたため、静寂に包まれていた。リリアージュ男爵邸ではよくエクラがお忍びで訪れるため、このように人払いすることは生活の一部として当たり前となっており、使用人達もよく心得ていた。
ミルティア達5人が歩く靴音だけが最初は響いていたが、途中からバーナードとエクラが雑談を始めたため賑やかになっていた。その隙にミルティアは少しだけ歩幅を緩めてショコライルの横に並んだ。
「ご気分優れませんか?」
「いや、大丈夫だ。心配かけてごめん。」
「それならよかったです。食欲がないなどありましたらこっそり教えてくださいね。給仕はわたくしもお手伝いしますので。」
「ありがとう。」
ミルティアは微笑むとまた少しだけ歩みを進めて前を歩いた。
ミルティアの心遣いが嬉しく、先程までの沈んでた気分も少しは晴れる気がしたが、すぐに後から視線を感じて緩みそうな顔を引き締めた。
バーナードとエクラは無言で顔を合わすと、ただニコニコと笑っていた。
食堂へ着くと、ミルティアの母であるララが出迎え食事を囲んだ。
食卓は実に穏やかだった。久しぶりに共に食事をしたらしいバーナードとエクラは、とても嬉しそうにしていたし、ララもそんな2人を見て楽しそうに笑っていた。
ミルティアとショコライル、アレンも様子を伺いながら始めは食事をしていたが、徐々に緊張も解けていたのか次第に笑顔を取り戻していた。
「お口に合いますか?ショコライル様、アレン様?」
「ああどれも美味しいし懐かしいよ。」
「ええ、とても美味しいです。」
ショコライルは幼い頃何度か食事をしたことがあるため、懐かしさを覚えていた。
「それにこのサラダにかかっているソースはいつ食べても美味しい。これは城で食べれないのが惜しいぐらいだよ。」
何気なしに言ったショコライルの言葉にミルティアは顔を真っ赤にしていた。何かおかしなことを言ったのかわからないショコライルはアレンの顔を見たが、アレンもわからないというように首を傾けていた。
「ミルティア?どうした?」
「あっいやなんでもありません……。」
ショコライルが心配しても何も言ってくれないミルティアに困っていると、3人のそのやり取りを見ていたララが笑って話に入って来た。
「ふふっ……。ごめんなさい。つい話が聞こえてしまって。ショコライル殿下、そのサラダのソースは我が家の秘伝なのですよ。ねぇあなた?」
話を振られたバーナードは少し面白くなさそうに頷くだけだった。
「全く……、バーナード様が失礼なことされていませんか?」
「いえ……。ご迷惑をおかけしたのはこちらですので。」
「何かありましたら遠慮なく申してくださいね。」
そう言って微笑むララの笑顔は女神のように優しいのに、なぜかどこかアレンに似ている気がした。
「ララ。私は何もしていないからね。」
「あらそうかしら?ミルティアを勝手に王城に送ったこと、わたくしはまだ許してはおりませんよ!」
「はは!相変わらず尻にひいてるね、ララ。仲がいいことだ。」
「エクラ様もわたくしに黙って勝手に呼び出したのはいただけませんわ。」
「……うっすまない。ララ。」
「今後は気をつけてくださいね。バーナード様にはわたくしがきつくお灸をすえておきましたのでもう大丈夫ですわ。」
「ははっ。流石だね、ララ。バーナード大丈夫だったかい?」
「大丈夫なわけないでしょう。エークのせいで1週間口を聞いてもらえなかったんですから!」
突如始まったやり取りにショコライルとアレンは唖然としていた。無理もない。男2人をしかも1人は国王陛下をララ1人でやり込んでいるのだ。信頼関係なくしては絶対できないことだが、何より先程まで穏やかそうだと思っていたララが、実は1番強いという力関係に驚いていた。
「お父様はお母様のことが大好きなので逆らえないのです。」
2人の様子に気付いたミルティアがこっそり教えてくれた。
アレンはそこで昔父親であるロンダから聞いた話を思い出した。
リリアージュ男爵は妻を溺愛している。従兄弟同士で幼い頃から知っている間柄だそうだが、バーナードがとにかくララを一途に愛し、婚約が決まる前からずっとララと結婚すると宣言していたらしい。
結婚してミルティアが産まれると、ララによく似たミルティアも溺愛するようになり、ミルティアに近づく男の子に睨みをきかせていた。
このままでは娘の婚姻に影響が出ると判断したララが、今後ミルティアの邪魔をするなら家出すると宣言した日には、ララに嫌われたと勘違いしたバーナードが床に臥せてしまい、エクラとロンダが慰めたらしい。
その一件からララは間違ったことははっきりとバーナードに伝える、対等な関係を築いていた。旦那様を静かに一歩下がって支える妻が当たり前の時代に、手綱を握り間違いを正す妻は珍しく、ロンダは感心していた。
アレンはあの時のロンダの気持ちがよく分かった気がした。誰に対してもはっきり意見が言えるのはとても貴重であるし、そこが少しミルティアとも似ているなと感じていた。
「あら、話が逸れてしまったわ。」
一通り男どもを締めたララは、思い出したかのようにショコライルに話を戻した。
「そのサラダのソースはね……。」
「おっお母様、それ以上は結構です!」
急にミルティアが話を遮るように入って来たが、ララはそんなこと気にせず続きを話した。
「ミルティアのお手製なんですよ。」
「はっ?!」
その瞬間真っ赤になった顔を両手でミルティアは覆った。
初めて出した時、とても美味しいと喜んでくれたのが嬉しくて、ショコライルがご飯を食べる際は毎回作っていたのだ。隠しておきたかったのに暴露されたことがとにかく恥ずかしかった。
一方ショコライルは、ララの言葉が理解できず間抜けな声を出していた。
「ふふっ驚いた?毎回ミルティアが作っていたのですよ。作り方は彼女しか知らないのでわたくしも作れませんわ。」
「お母様もう結構です……。」
ミルティアは精一杯声に出してこれ以上何も話さないでと伝えるように懇願した。
「ほう、これはミルティアが作っていたのか。いや、確かにこれはうまい。ショコライル見る目があるじゃないか!」
エクラが楽しそうに加勢する傍ら、バーナードは酷く不機嫌そうにショコライルを見ていた。まるでお気に入りのおもちゃを盗られた少年のような拗ね方である。
ショコライルはなんとなくバーナードの態度には気付いていたが、今はララがいるためバーナードを抑えられると判断し、素直にミルティアに気持ちを伝えることにした。
「その、ミルティア。いつも美味しいよ、ありがとう。もしよかったらまた作ってくれないか?あの野菜がさらに美味しくなると思うから。」
あの野菜というだけで伝わったミルティアは、またあの場所で一緒にご飯が食べれることが嬉しくて満面の笑みで頷いた。
「はい、わたくしのでよければぜひ……」
「ミルティアの手料理など許さん!!」
ミルティアがいい終わる前に食い気味にバーナードが被せてきた。すぐに2人はバーナードの方を驚いて見たが、すぐに
「バーナード様!」
という非常に冷静な恐ろしいほど笑顔のララがバーナードを睨みつけたため、バーナードは静かになってしまい、2人は顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。
「いやこれは楽しいな。」
そのやり取りを見ていたエクラは大層楽しい物を見たかのように上機嫌で笑い、アレンは仕事が増えたと察し深いため息を吐いた。
その後1週間ララはバーナードと口を聞かなかったことを後にミルティアは知ることになる……。
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第10章は明日の8時、11時、15時、17時に更新予定です。
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