第9章 サボり魔王子覚悟を決める③
「つまり、お前を利用する奴らから逃げるための隠れ蓑が、サボり魔だったというわけか……。」
一通り話終わると、エクラは要約して確認してきた。
「すみませんでした。」
ショコライルがエクラに頭を下げて今までの非礼を詫びたが、エクラはそれをすぐに辞めさせた。
「謝ることなど何もない。気付かなくてすまなかった、ショコライル。お前が話してくれるのを待たずにもっと早く聞けばよかったな……。よくこの4年間頑張ったな。」
思いがけないエクラからの謝罪と賛辞にショコライルは張り詰めていた糸が切れたような不思議な感覚に襲われた。
何も解決していないが、この4年間の苦労がすべて報われたそんな気分になっていた。
「アレンも今までよく支えてくれていた。感謝する。」
「当然のことをしたまでです。」
アレンは冷静に対応していたが、その口元は少しだけ緩んでおり、エクラからの言葉が嬉しかったことを物語っていた。
「リリアージュ男爵。騙すようなことをしてしまい申し訳ありませんでした。」
ショコライルはバーナードをしっかり見て、座ったままであるが深いお辞儀をした。王族がするとは思えないほどの礼であったが、本人の気が済むのならとエクラも咎めることはしなかった。
「顔をあげてください。ミルティアがそれで納得しているのなら私はもう何も言いません。」
「感謝します。」
ショコライルの話の途中でミルティアは自分も納得して今の方法で行っていることは伝えた。ショコライルから逃げられている不名誉を与えられているため、父親としては気持ちがいいものではないが、本人が納得しているのなら余計な口出しは無用であった。
「成人するまでそのままでいくということか?」
「はい。今のままでは1人では立ち向かえません。もう少し足下を固めてからと思っております。」
エクラとしては幼いショコライルを傷つけ利用しようとした貴族など、すぐに切り捨ててやりたいところであったが、それを今行なえば、父親を利用する王子という悪い噂も流れショコライルの立場が悪くなるだろう。今後はやれる範囲で手助けすることにして今はまだ見守ることにした。
「それに、何やら嫌な予感がするのです。」
「どういうことだ?」
「まだはっきりとは……。城で話すよりこちらの方が人払いもできていますし、今話してもよろしいでしょうか?」
ショコライルはエクラとバーナードの顔を見比べて問いかけた。バーナードとミルティアが同席することをどう思うか心配だったが、エクラは問題ないというように続きを促した。
「ありがとうございます。ここ最近のスーピナ国と隣接する辺境伯で起こっている作物の不作が気になるのです……。」
「ほう。詳しく聞かせてくれ。」
「チースイ辺境伯領は作物が育ちやすい土地です。長雨や日照りなど特に変わった気象は起きていないのに、収穫量がごく僅かですが減っています。どの領地でも作物の不作などあるので不思議ではないかとは思うのですが、少しずつですが回復せず減っているのです。この半年ほど減る一方というのは気になります。」
「なるほど。何らかの力が働いているのではないかと、そう言いたいのだな。」
「確信は持てません。もしかしたら収穫量は上がるかもしれませんし、私の思い違いかもしれません。ですがもう暫く調べることをお許し願えないでしょうか?」
ミルティアはショコライルのことをよく知っている気がしていたが、今のショコライルはミルティアの知らない王太子としての姿であった。
話をするショコライルはまさしく国を背負う者に相応しく、とても凛々しくかっこよかった。だからこそ自分と住む世界が違うと痛感する。はたして本当にこの話をただの男爵令嬢である自分が聞いていいのか不安になりバーナードを見たが、バーナードは問題ないというようにミルティアに頷くと、またショコライルに目線を戻していた。
「もちろん許可する。だが何か問題があればすぐに今後は伝えてくれ。もちろん人払いは必ず行う。」
「ありがとうございます。」
「チースイ辺境伯領は我が領も取り引きしているため、辺境伯とは顔馴染みです。もし何か必要な際は連絡もすぐできますので力を貸しますぞ。」
「リリアージュ男爵もありがとうございます。必要な際はよろしくお願い致します。」
辺境伯は国の防衛も兼ねる大変重要な場所のため、貴族階級は公爵家に次ぐ爵位である。ましてや隣国のスーピナ国は、戦いを好み周辺の小国を次々と取り込んでいる国のため、リンレッド王国の辺境伯領の中で1番危険且つ重要な場所である。
そんな辺境伯と父親が顔見知りという事実を初めて知ったミルティアは、改めて父親の顔の広さに驚くことしかできなかった。男爵位のはずなのに、父親の手腕は今後の社交界で生き残るためにも見習うべきだと再認識した。
ショコライルがなぜバーナードに席を外させなかっのか不思議であったが、バーナードと辺境伯の関係性をきっと事前に知っていたショコライルがあえて話すことで、バーナードから協力を得られるように仕向けたんだろう。
バーナードもショコライルの意図を汲み取ったように協力を申し出たことでこの場で話した意味が活きてきた。
「ショコライル。ロンダにもこの話は伝えていいか?アレンもいるんだ。ロンダとアレンで私たちの連絡を介してもらうのが1番いいと思うのだが。アレンの父親だから大丈夫だろう?」
ショコライルは後ろに控えているアレンに目を配ると、アレンは問題ないというように静かに頷いた。ロンダとはアレンの父カルレッタ公爵のことである。
「分かりました。では公爵に伝える際は私とアレンを同席させてください。」
「……分かった。アレン、今日のショコライルの予定は?」
「今日この後は、何も予定を入れておりません。」
「流石だな。では帰った後またアレンに連絡するようにしよう。」
「分かりました。よろしくお願いします。」
話が一区切りついたようなので、バーナードがわざとらしく手を叩いた。
「昼時だ。どうだい、我が家でお昼ご飯でも?」
「もちろんそのつもりだ。なぁショコライル?」
申し合わせたかのようなわざとらしい2人の演技に、普段なら呆れるはずだが、一刻も早く立ち去りたいと感じていた今日のショコライルにとって、その誘いは余りにも酷であった。だが断ることなど不可能である。アレンも首を横に振って断るなと示してきているため、答えは一つしか用意されていなかった。
「分かりました。是非よろしくお願いします。」
恐ろしいほど引き攣った笑顔を浮かべた自信はあるが、これが今のショコライルの精一杯の笑顔であった。
「では、ミルティア。ララが厨房にいるから手伝ってきてくれないかな?」
「分かりました。では失礼致します。」
ミルティアはバーナードに言われるがまま部屋を後にした。部屋を出る前のショコライルの顔色がかなり悪そうで心配になったミルティアは、後で疲れをとる効果があるお茶をこっそり用意することにした。
ミルティアが居なくなった部屋はしんと静まりかえっていたが、その静寂をバーナードは終わらせた。
「さて、ショコライル君。ここからはミルティアの父として君と話そうか?」
ショコライルの目の前に張り付いた笑顔を浮かべたバーナードが鎮座していた。バーナードは目だけ動かしてエクラを見ても、エクラはただ微笑んでいるだけでバーナードの好きにさせようとする気持ちだけは伝わってきた。
ミルティアがいないとなれば、遠慮などなく、いろいろ言われるだろう。
ショコライルはミルティアが出て行った扉を見ながら、早く帰って来て欲しいと願っていた。
「ショコライル君?男と男の話をしようじゃないか?」
なかなか返事をしないショコライルを促すように、微笑みを絶やさず圧をかけてくるバーナードに、ショコライルは今が1番覚悟を決める時だと逃げ腰になっている自分の心を鼓舞し、バーナードとの男の戦いに気合を入れたのであった。
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