第9章 サボり魔王子覚悟を決める①
転移魔法で移動した先は王城の執務室ではなかった。ミルティアが周りを見渡すと、それは見慣れた景色であった。
「ここは……庭?」
「正解!ちょっと付き合ってほしくてね。」
「どのようなことを?」
移動した先で見たのは王城の庭ではなく、王都にあるリリアージュ男爵邸の庭であった。自宅に帰ってきたことにも驚いたが、何よりショコライルがこの家にどんな用事があるのかわからなかった。
「実はね、君のお父さんに手紙をもらってね。王城に来るっていうんで、私から出向いたんだ。」
「そんな、ショコライル様が出向くことなんて……。」
「いや大いにある。君に酷い扱いをしている私は、殴られるなりして当然だからね。」
「殴るって……。」
ミルティアは血の気が引いた。
確かにバーナードはミルティアを愛するがために、ミルティアに関しては暴走してしまうことがある。だが相手は王太子だ。殴るなど大罪であり、下手すれば家の取り潰しだ。そんな恐ろしいことを父親がやるとは信じたくはないが、どこかで信じられない自分もいた。
「殴られても罪にはしないから安心して。私に全面の非があるからね。」
「でもそれには理由が……。」
そこまで言ってミルティアは言葉に詰まった。
理由が言えればミルティアの勉強から逃げるなど、こんな誤解は生まれない。言えないからこそ、ショコライルが悪いとなってしまうのだ。
ミルティアが悩んでると強い風が吹いた。一緒驚いて目を閉じて再び開けると、目の前にアレンが立っていた。
「アレン様?どうして?」
執務室にいるはずのアレンがなぜ目の前にいるのか状況を飲み込めなかった。
「驚かせてすみません。ショコライル様に呼ばれましたので参りました。」
参ったということはアレンも転移魔法で来たと言うことだ。それに何も合図をだしていないショコライルが呼んだということは、アレンも通信魔法が使えるということとなる。
以前ルースからアレンは魔法が得意と聞いていたが、まさか高度魔法を使えるとは……。ミルティアは目の前にいる2人の凄さを改めて実感した。
「リリアージュ男爵からはいつでも伺ってよいと返事をいただいております。それとお忍びで行くことも伝えてありますので、そのまま部屋に来るようにとのことです。執務室横の応接間を人払いしているそうですので、そこまで移動しましょう。」
「応接間か……。アレン場所はわかるか?」
「申し訳ありません。リリアージュ男爵邸には入ったことがありませんので分かりかねます。」
「だよな……。俺も場所は分からない。ということでミルティア。」
「はっはい。」
「すまないが場所を教えてくれないか?ここから建物は見えるだろう?そのどの部屋か教えてくれ。」
ミルティアは木々の間から邸を見ようとしたが、ミルティアの高さからではよく見えず、背伸びしたり飛び跳ねてみたりした。
その動きにショコライルは優しく微笑んだ後、ミルティアの側に近づいていった。
その瞬間ぴょんぴょん飛び跳ねていたミルティアの体はフワッと宙に浮いた。ジャンプ力が上がったのではない。ショコライルがミルティアの腰を両手で掴んで持ち上げていたのだ。
「ショコライル様!!」
大きな声を出したミルティアとは対照的にショコライルは楽しそうに笑っていた。
「見えないのだろう?ほらしっかり見てどこか教えてくれ。」
恥ずかしさで消えてしまいたい気持ちを押し殺し、ミルティアは邸を確認した。
「2階右から3番目が応接間です。」
「そうかありがとう。」
「あっ……。」
ミルティアを下ろそうとしていたショコライルは、ミルティアの声で動きを止めた?
「どうした?」
「あの……。お父様が執務室からこちらを見ております。」
「えっ?!」
ショコライルは動揺しミルティアを危うく落としそうになったがなんとか持ち堪えた。
「気づかれてる?」
「はい。恐ろしいほど目線があっております。」
ミルティアは申し訳なさそうにバーナードに苦笑いで手を振っていた。
「そうか……。」
僅かばかりの希望はすぐに打ち消され、ショコライルはゆっくりミルティアを降ろすと力なく項垂れた。
「俺は生きてられるのか?」
「おまかせを。治癒魔法は完璧にかけさせていただきますので、思う存分殴られてください。」
2人のやり取りを声を押し殺してアレンは笑いながら、恐ろしいことを言っている。
「サボり魔に関しては私は助けますが、これに関しては自業自得です。お一人でどうにかしてください。」
2階から見たということは、上から見下ろしているためショコライルの行動はきっと全て見られていただろう。
ただでさえ怖い呼び出しが、さらに自分の行動で恐ろしさを上乗せしていることを、ショコライルは痛感して項垂れるしかなかった。
ショコライルはもう逃げれないため覚悟を決めるしかなかった。
「ショコライル様、行きますよ。」
いつまで経っても項垂れて微動だにしないショコライルにアレンは先を急がせた。
「リリアージュ男爵はかなりお待ちだと思いますよ。」
「……わかった。行くよ。」
リリアージュ男爵の名前に肩を振るわせたショコライルは、これからの恐怖を紛らわすかのように、ミルティアの肩を抱いて転移魔法を使った。
「それも命取りなのに……。」
アレンは深いため息を吐きながら、主が無事であることを願い、自身も転移魔法でショコライルの後に続いた。
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