第8章 新たな仕事⑤
「もうこんな時間ですか……。長居しました。ミルティア、そろそろ帰ろうか。」
すっかり話し込んでしまった3人は、思いの外時間が経っていた。
「せっかく来ていただいたのでお茶でも出したいところでしたが、すみませんね。今日はあいにくこれから来客予定でして。」
「来客など珍しいですね?」
ハミルダは魔法騎士にスカウトされるほどの優秀さで、国もみすみす手放したくないため、王立学園では厚遇されている。
魔法研究を集中したいという本人の希望を叶えるため、生徒たちがいる校舎から少し離れた研究棟の一つの階全てが、ハミルダの研究室である。
研究室がある階の階段入り口には結界が張ってあり、許可がない者は入れないようになっていた。教員室にいる時は誰が来ても、話しかけても問題ないのだが、一度研究室に入ると研究を邪魔しないため、余程のことがない限りこの研究室には来客も来なかった。
だからこそ来客が来ると言う言葉にショコライルは驚いていた。
「サマド公爵直々にね。流石に断れませんねー。」
「サマド公爵といえば、魔法騎士団の特別顧問のお方ですよね?」
「そんなことまでミルティアは知ってるの?」
「この国のことは勉強しておりますから。確か数年前までは魔法騎士団長でしたよね?それにご息女であられるメランカ様は学園で有名でしたので、サマド公爵のお名前はよく学園でも聞いておりました。」
「……メランカ嬢と接点はあったの?」
「いえ……。2学年上の方でしたのでお名前だけです。学園一の美貌と言われているのをよく聞いていました。確か4年生頃から体調を崩されて、在宅でお勉強なされていたんですよね。」
「学年一ですか……。上手く言いましたね。」
「見た目だけで伴っていない。」
「えっ?!」
サマド公爵の娘、メランカの話をしただけなのだが、どうも2人とも歯切れが悪かった。
「いや、直接関わりがないならいいんだ。」
「過保護すぎますよ。ショコライル君。」
「過保護?」
「メランカさんはショコライル君の事を、昔から慕っていてね。公爵令嬢だから王太子と釣り合うと考えてる節があるんだ。」
公爵令嬢なら釣り合うという表現は、間違っていないと思う。でも何かその言葉の裏にあるような気がミルティアはしてきた。
「……肩書きだけで釣り合うなど馬鹿馬鹿しい。」
ミルティアが今まで聞いたことがない低い声がした。その声の主は間違いなくショコライルなのだが、声と鋭い目つきに別人なのではないかとすら思えてしまっていた。
「……サマド公爵の訪問はやはり師匠の勧誘ですか?」
「たぶんね。君を魔法騎士団長にするつもりなんだろう?だからその補佐にでもってことじゃないかな?」
「団長にはなりませんよ。今の団長は頑張っていますからね。私には向いてませんよ。」
「君は向いてないとは思わないよ。何せこの国で最高の魔導士は間違いなく今は君だからね。騎士としても強いし、君の右に出る者は誰もいないよ。」
「買い被りすぎです。」
「嘘は言ってないよ。正直、今君が魔力暴走なんてしたら、私でも抑えられないね。」
「……肝に銘じておきます。」
ショコライルの魔力は高いし腕もいいとは思っていたが、まさか国内最高とまでは予想していなかったミルティアは、ただ言葉の意味を理解するのに必死だった。
ハミルダが嘘をつくわけない。だとしたら真実なのだろう。
先程まで頭の中にあったメランカに対する疑問は一瞬のうちに消え去っていた。
代わりにミルティアは改めてとんでもない人の家庭教師となってしまったことで頭がいっぱいになっていた。
「断るから安心してくださいね。サマド公爵には悪いですが私は研究一筋ですから。」
「ありがとうございます。」
「ああ、それから……。」
そこまでいうとハミルダはショコライルの耳元で何か呟いた。あまりに小さい声だったため、ミルティアには聞こえなかったが、とても大切な話をしていることは2人の表情から読み取ることができた。
「……ありがとうございます。いつも助かります。」
「どういたしまして。」
「それでは今日はこれで失礼します。」
「ミルティアさんの研究はなるべく早くやりたいから、今日中にも連絡するからよろしくね。」
「わかりました。夕方以降でお願いします。」
別れの挨拶を述べるとすぐにミルティアの肩を掴んでショコライルは転移魔法を使った。
いつもしがみついていたのがバレていたのか、ショコライルに肩を掴まれたことが恥ずかしいのか、いろんな感情が溢れたミルティアは、ただただ顔を赤くすることしかできなかった。
そんな消え行く2人をハミルダは優しく見送ってくれた。
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第9章は明日の8時、11時、15時、17時で更新予定です。
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