第8章 新たな仕事④
オシリス祭の話は終わったのだが、それとは別件の依頼があるということで、ハミルダの話を2人で聞くことにした。
「ミルティアさん、私は君にまだ別の力があるとみているんだ。」
ハミルダはミルティアの目の前に一つの桶を置いた。
桶の中にはピンク色の水が入っていた。不思議そうにその桶を眺めるミルティアとショコライルにハミルダは目的を伝えるとともに、ショコライルに釘を刺した。
「ショコライル君。君は今から私が言うまで一言も話さないでください。大切なことをするからね。ミルティアさん、この水の前に手をかざして目を閉じてくれるかな?」
ミルティアは言われるがまま手を翳して目を閉じた。
「ではそのまま、先程の水が綺麗になることを想像しながら指先に魔力を流してくれるかな?」
ピンク色の水が透明な水になることを想像しながら、言われたように指先に集中した。ハミルダから魔法の使い方は習っていたため、1箇所に魔力を集めることはできるようになっていた。
指先が暖かくなってきたため、魔力が指先に集まっていることをミルティアは感じ、上手く出来たことに安堵していたが、ハミルダが何も反応しないことに不安を感じてきた。
「あの……。ハミルダ先生?」
目を開けていいと言われていないため、状況が飲み込めないミルティアは我慢の限界だった。
「ああ、すみません。もう目を開けていただいていいですよ。」
ハミルダに促されてゆっくり目を開けると、目の前にある桶を見て驚いた。ショコライルはさらに目を大きくして驚いていた。
驚きを隠せない2人にハミルダは一つの答えを伝えた。
「ミルティアさん、あなたには水を浄化する力がある。」
「えっと……どういう意味でしょうか?」
ミルティアはハミルダのような力があるとは思えなかった。ただ手を翳して綺麗な水をイメージしただけで浄化したなど思えなかった。
「お伝えした通りですよ。ねっショコライル君。」
話を振られたショコライルは静かに頷いた。
「この目でしっかり見たから間違いないよ。」
急に自分の魔法のことを言われて戸惑っているミルティアを気遣いながら、ショコライルは優しい声で伝えてくれた。
「ミルティアさん。今回は水に色をつけただけです。色だけ戻せるのか、成分まで戻せるのか、あなたのその力がどの程度可能なのか今後調べさせてくれませんか?」
「もちろん構いませんが……その……自信がありません……。」
ハミルダもショコライルも期待してくれているが、魔法が苦手なミルティアは、2人が求める結果など出せないのではと不安になっていた。きっと2人とも責めないだろう。だけど、もし失敗した時に、2人の力になれないと突きつけられるのが怖かった。
「ミルティア。不安な気持ちはわかる。だけど挑戦しないと始まらないし、ミルティアも前に進むことができない気がする。ごめんね、勝手なこと言ってるよね。俺の家庭教師にならなければ、こんなことに巻き込まずに魔法とは無縁の生活はできたと思う。巻き込んでしまってごめん。でも、必ず支えるから失敗してもいいからやってみない?」
ミルティアはショコライルとハミルダ2人の顔を交互に見比べた。2人ともミルティアを安心させるかのように、優しい笑みを浮かべていた。
「分かりました。お力になれるかわかりませんが、頑張らせていただきます。」
「ありがとう、ミルティアさん!」
ハミルダはミルティアの手を掴むと嬉しそうに上下に振った。それに驚いたのはミルティアではなく、ショコライルだった。すぐにミルティアを引き剥がすと、ミルティアに見えないようにハミルダを睨みつけた。
『これはすまなかったね、ショコライル君。』
『魔力暴走起こしかねないので気をつけてください。』
2人はまた無駄な通信魔法での会話を繰り広げていた。
「では、オシリス祭については2週間後、ミルティアさんは私と一緒に会場まで向かいましょう。時間などはまたショコライル君に伝えておくね。」
「いいえ、私が一緒に行きます!」
今度は通信魔法ではなく普通に会話を始めた2人だったが、先程まで静かだったショコライルが、急に不機嫌になったことにミルティアは戸惑っていた。通信魔法での小競り合いが続いているなど、ミルティアには思いもしなかった。
真剣に怒るショコライルと、そのショコライルの反応が楽しくてわざと挑発したり流しているハミルダ、その2人の反応を訳が分からないミルティアは、オロオロするばかりであった。
「君は王太子として来賓対応で忙しいでしょ?私に任せなさい。」
本当のことを言われてショコライルは言葉が出なかった。いくら成人してないとはいえ、今後のことを考えると他国との交流はやっておくに越したことはなかった。
立派な王太子としてのお務めなのだ。
「分かりました……。ミルティアを頼みます。」
「任せなさい。」
「あっチョコくんにはお手伝い頼みたいからよろしくね!」
「例のですか?」
「そう、あれはとても大切な仕事だからね。毎年助かってるから頼むよ。」
「分かりました。開会式さえいれば後は抜け出せますので、いつものように呼んでください。」
「助かるよ。」
畑仕事が大好きな貴族子息のチョコのことを言っていることは、ミルティアにもわかった。王太子として忙しいはずなのに、それでも抜け出してまで必要な仕事が何なのか、ミルティアはしばらく考えていた。
きっと国にとってとても重要な役割なんだろうなと考えていたが、後程仕事内容を聞き唖然とするとは、今はまだ知らなかった。
次は19時に更新予定です




