第8章 新たな仕事③
「それで、ここに呼び出した理由はなんですか?」
冷静さを取り戻したショコライルは、ようやく本題を聞くことができた。ハミルダのせいで精神的に疲れてしまい帰りたかったが、ここに呼び出された理由を、まだ聞いていなかったため確認した。
「ああ、そうでした!急に呼び出してしまってすみませんね、ミルティアさん。実はあなたに一つ頼みたい仕事がありまして。」
「仕事ですか?」
「ミルティアさん、2週間後に何があるかご存知ですか?」
ミルティアは一生懸命考えたが分からなかったため、首を横に振った。
「申し訳ございません。最近王城ばかりいましたので、王都での催し物などを把握できておりません。」
ミルティアが申し訳なさそうにしているが、ハミルダは呆れたようにショコライルを見た。
「ショコライル君。籠に閉じ込めてばかりでは愛想を尽かされますよ。」
ショコライルは気まずそうに目を逸らしたが、ハミルダの言葉がグサグサと心に刺さった。
「わたくしが王城でやりたいことがありすぎて、外に出るのを忘れているだけですので。」
いつでもショコライルに会えるよう、王城の中にいるなんて伝えることはできない。ミルティアが顔を真っ赤にしていると、ハミルダはどうやら別の捉え方をしたようだった。
『ショコライル君。君まさかもう手をつけたの?順番間違えてないよね?』
『ばっバカ言わないでください!!俺は何も……。』
『そうですよね。君はそんな事する子ではないですよね。ですが彼女は私の可愛い教え子ですからね。くれぐれもですよ。順番を間違えたら……分かっていますよね?』
『間違えるか!!』
ミルティアには分からない、近距離での通信魔法で、2人はどうでもいい会話で無駄に魔力を消費していた。
「ショコライル君は何の日かもちろん分かるよね?」
落ち着いた3人はようやく本題に戻ることができた。
「もちろんです。オシリス祭です。」
オシリス祭とは、リンレッド王国の古の神オシリスに捧げる祭りである。オシリスは戦いの神であるため、リンレッド王国の周辺国を招待し、健全な戦いで競う1年に一回ある国を上げての祭りである。
闘いといっても殺生はもちろんない。騎士だけでなく庶民も参加できるよう様々な種目が用意されている。リンレッド王国は参加国で唯一魔法が使えるため、競技での魔法の使用は禁止とされている。
模造刀による剣術、遠くの的を射抜き当てた数を競う弓技など騎士が主に出場する競技から、短距離走、長距離走、綱引きなど庶民も参加できる競技まである。
どの種目も国の代表者で闘うため、国家の力を見せつけれる機会ということで、各国が精鋭を集めてくる。優勝国はその年のオシリス神の加護を得られるということで、毎年大変盛り上がる祭りである。
「オシリス祭の仕事ということですか?」
「君はミルティアさんから、魔法のことは聞いた?」
「ハミルダ先生から習っていることと、水魔法が使えるということは聞きましたが……。」
「そうか。彼女にはきちんと伝えていなかったが、少し特殊な水魔法の使い手なんだ。」
「特殊とは?」
ミルティアはそんなことを初めて聞いたため、驚きを隠せなかった。水魔法など珍しい魔法ではない。学園にも何人も使える者はいた。
「水魔法は本来攻撃を得意とするよね?剣に纏わせたり、水の塊を相手にぶつけたり、水の膜で防御したりと使う魔法騎士も多いと思う。」
「そうですね。」
「ミルティアさんは正直攻撃系は苦手だ。だがその反面、水魔法の使い手ができない綺麗な水を生み出すのが得意だ。」
水魔法は攻撃に特化しているため、水の綺麗さは必要ない。泥水や海水など何故か人によって水の種類は異なる。しかしミルティアは綺麗な水を出せる……ということは。ショコライルは一つの結論に達した。
「もしかして飲み水ということですか?」
ショコライルの答えが正しいようにハミルダは頷いた。ミルティアは魔法を普段使わないため、自分が生み出す水が他の人と異なることを知らなかったのだ。
「それも膨大な量を生み出せるし、彼女が止めない限り水は溢れ続ける。」
ミルティアはそこでようやくハミルダの研究を理解した。いろんなサイズの器に水を入れ、バケツの水を溢れさせ、止めることが出来なかった時は大変驚かれた。ミルティアにとっては他の水魔法の使い手もできると思っていたため、何故ハミルダが驚いたかその当時は理解出来なかったが、今なら理解することができた。
「そんなすごいことが!」
「そう、これはいずれ君の研究、もしくはこの国を救う事になるよ。」
ミルティアの知らないところで話はとても大きくなっていた。魔法が苦手な自分が国を救う?理解できないことばかりであった。
「彼女の水はこの国のどの水よりも綺麗だ。それは調べたから間違いない。そこでお願いがあるのだが、今度のオシリス祭で来客が自由に飲むことができる水飲み場に、君の水を入れてほしいんだ。常に新鮮な水が飲めるよう、湧き水のように湧くようにしてほしい。」
「なるほど……。それなら構いませんよ。」
「ちょっちょっと待ってください。オシリス祭は2日行われます。その期間中絶えず水を湧かすなど、魔力の消費は激しくないのですか?」
ミルティアがハミルダの話に2つ返事しそうなところを、ショコライルは慌てて制した。魔法は使えば使うほど魔力を消費する。つまり2日間使い続けるということは、膨大な魔力の消費量なのである。そんなことを魔法に不慣れなミルティアが行ったら、魔力切れになるのではないかと心配だった。
魔力暴走も危険だが、魔力切れも危険である。魔力が回復するまで眠り続けてしまうのだ。人により回復する速度は違うため1日で済む人もいれば1ヶ月や1年などとんでもない期間がかかる人もいる。
ショコライルはミルティアをそんな危険な目には絶対に合わせたくなかった。
「そのことなんですが、ご心配には及びません。」
ショコライルはハミルダに聞いたはずであるが、その疑問はミルティアによって返された。
「どういうこと?」
「詳しくはわたくしにも分からないのですが、一度魔法を使えば後は全く魔力の消費がないのです。」
「そんなことが可能なのか……。」
魔法を使い続けているはずなのに、魔力を消費しないなどショコライルは本で見たことも聞いたこともなかった。どうやらハミルダも知らなかったことらしく黙って頷いていた。
「不思議なことだけど、本当に魔力は消費してないんだ。だから君が心配することは絶対起きないから安心してね。」
「分かりました。」
ハミルダが大丈夫だと言うなら間違いないはずなので、ショコライルはミルティアの意思を尊重することにした。
「あともう一つお願いできるかな?」
一つだと思っていたがどうやらオシリス祭での仕事の依頼はもう一つあるらしい。ミルティアとショコライルは詳しく話を聞き、ミルティアがやりたいようにやっていいと、ショコライルから許しが出たため、ミルティアはもう一つの頼みもきくことにした。
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