第8章 新たな仕事②
――トントン――
2人はある部屋の前で立ち止まると、ショコライルが扉を軽く叩いた。すぐに中に入るよう声がしたため、2人は部屋の中に入った。
「ショコライル君。珍しいね、君が歩いてくるなんて。」
揶揄うように話すハミルダに、ショコライルの行動はお見通しだったらしく、ショコライルは引き攣った笑みを浮かべることしかできなかった。
ハミルダはショコライルの師匠であり、ショコライルの学業生活を支えてくれる協力者でもある。
ショコライルをハミルダの研究助手とすることで、授業時間内に研究を行えば、授業に出席しているものとみなすよう学園に掛け合ったのもハミルダであるし、研究所にいる時間を証明する書類を毎月作成し、学園にショコライルがいることを偽ってくれているのもハミルダであった。
もちろん研究を手伝うこともあったが、公務や作物の研究に忙しいショコライルにとって、ハミルダの協力なしではとっくに落第なり、退学となっていただろう。
ショコライルのサボり魔の真相やミルティアについてなど、ショコライルのことは全て知っているため、何か変なことが言われないかショコライルは内心穏やかではなかった。本当は釘を刺したかったが、ハミルダに恩があるショコライルはあまり強く物を言えなかった。
「ミルティアさんも急に呼び出して悪かったね。」
2人の仲が良さそうなやり取りをただ眺めていたミルティアは、急に自分の名前が呼ばれ2人の話の輪に入ることになった。
「ハミルダ先生、お久しぶりです。」
「まさか君がショコライル君の家庭教師だったとはね。いやー師匠としましては嬉しい限りですよ。」
「ありがとうございます?」
何故自分がショコライルの家庭教師になることが嬉しいことなのか分からないミルティアは、とりあえず喜んでもらえてることに安堵することにした。
「ショコライル君はね、入学当初君とクラスが違うだけでそれはそれは悲しんでいてね。」
「ちょっちょっと何言ってるんですか!!」
ショコライルはあからさまに動揺し、ハミルダがこれ以上話さないように必死だった。当のハミルダはそんなことお構いなしと言うように笑っている。
さすが、名誉ある魔法騎士団を断った男である。王太子であるショコライルのことも何とも思っていないような、権力や常識はこの人には通用しないようであった。
「この学園って学力でクラス分けするくせに、1年生の時は貴族階級でクラス分けするでしょう?そこで君と同じクラスじゃないと知った時のショコライル君ときたら……それはそれは嘆いてね。」
「師匠!!」
ショコライルの叫び声は部屋に響いていたが、ハミルダは全く気にしていなかった。今まで我慢していたことがようやく話せると嬉しそうに生き生きとしていた。
「あの時のショコライル君は大変でねー。魔力暴走を起こしてしまって、窓ガラスは割るし、部屋の中はぐちゃぐちゃにするしで大変だったねー。」
「魔力暴走……。」
魔力暴走とは魔力のコントロールがうまくできなかったり、魔力量が多く、体内で納めることができず溢れてしまったことによって起こる。
ほとんどの人は魔力暴走など起こらないが、感情をうまくコントロールできない子供が時々起こして、近くの物を壊すといった話はよく聞くことである。子供の場合は感情を落ち着かせることで魔力暴走は治ることがほとんどだった。
しかしこれが魔力が高い者では話が違ってくる。一度魔力暴走が起きてしまえば、自分で止めることはほとんどできない。魔力が高ければ高い程酷い暴走が起き、最悪死に至ることもある恐ろしいものである。
ショコライルはいとも簡単に高度魔法を使うため、魔力が高いことは明らかであった。それが暴走したのなら、ショコライル自身怪我などしていないかなど、ミルティアは不安な気持ちに駆られた。
「ああ、その時は私が思いっきりショコライル君を殴って気絶させたので大丈夫でしたよ。」
ミルティアの気持ちに気付いたのか、ハミルダは安心させるように少し戯けた口調になっていた。
それにしても王太子を殴って気絶させるなど普通なら怖くてできない。それをやって退ける2人の強い信頼関係を垣間見た気がしていた。
「本当に馬鹿ですよね。1年我慢したらいいのにね。そのくせ2年生以降も君を避けるとは……弟子として情けない限りです。」
全て話されてしまったことに、ショコライルは頭を抱えたまま動かなかった。ハミルダはそれがまた楽しいらしく、部屋にはハミルダの高笑いが響いていた。
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