第8章 新たな仕事①
「ミルティア、着いたよ。」
ショコライルの声で目を開けたミルティアは、目の前に噴水があることに驚いた。ハミルダの部屋に転移すると思っていたがどうやら学園の裏庭に来たみたいだった。
「ごめんね。場所を少し間違えちゃった。」
今まで完璧に転移魔法を使っていたショコライルが、場所を間違えるなど珍しいと思いながら、朝アニスから聞いた話を思い出し、寝不足のせいなのだと勝手に解釈していた。
「ミルティア歩ける?」
未だショコライルの服を掴んでいるミルティアは、その言葉に慌てて手を離した。
「はい。歩けます。」
顔が熱を帯び直視できず俯きながら答えると、ショコライルは安心したようだった。
「ここは人気がないから、このままハミルダ先生の下には誰にも会わずに行けるよ。」
ショコライルは一歩踏み出しながら、人目が気になるミルティアを安心させようとした。その気持ちを受け取ったミルティアはすぐにショコライルの隣を歩き出した。
「ハミルダ先生は全てご存知だから普通にしてくれて大丈夫だよ。」
「分かりました。ショコライル様とお呼びして問題ないのですね。」
「ああ。……ところでミルティア。ミルティアはハミルダ先生とはどういう関係なの?」
少し薄暗い階段を登りながら、ショコライルは気になって仕方がなかったことをつい質問してしまった。
「ハミルダ先生はわたくしの魔法に興味をお持ちなんです。」
「どういうこと?」
全く意味が分からないという顔をショコライルはしていた。ミルティアは少し長いですよと前置きした上で話し出した。
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リンレッド王国では誰もが皆魔法を使える。魔法には属性があり、ほとんどの人は一つの属性しか使うことができない。その中で魔力が高い者は、自分の属性を極めたり、他の属性魔法を習得する努力をして魔法騎士となっていく。
ごく稀に5つ以上の属性を使用できる者もいるが、現在この国ではハミルダだけだと言われている。
ミルティアは水の属性魔法を使えたが、魔力のコントロールが苦手なのかあまり上手くできなかった。王立学園に入学してからも同じで、水属性の他の生徒が簡単にやってしまうことを、ミルティアは上手くできずにいた。
ある日の授業でコップの中に水を生み出すという実習があった。1時間の授業で皆少しだけコップに水を生み出すことができたが、ミルティアだけがなかなか出来ずにいた。
もう時間がないと焦って目を閉じた其の瞬間、ミルティアのコップから大量の水が溢れ教室中水浸しにしてしまった。
何故このようなことになったのかもわからず唖然とするミルティアを残し、授業は終了となった。
授業後残って片付けをしていたミルティアに、その授業の先生であったハミルダが声をかけてきた。
「君は変わった水の属性だね。」
失敗して落ち込んでいたミルティアにとって、その言葉はどこか腑に落ちる内容であった。
「君は気付いていないだろうが、魔力が高い。私がコントロールを教えてあげるから、代わりに研究に付き合ってくれないかな?」
そこからミルティアはハミルダに魔法を教えてもらう傍ら、ハミルダの研究に協力していた。
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「そうだったんだ。ミルティアも苦労したんだね。」
どんな時も完璧だと思っていたミルティアの知らなかった苦労を知り、ショコライルはその当時側にいられなかったことを悔やんだ。
気付けば階段を登り終え、長い廊下を歩いていた。急に光が差し込む廊下に目を細めたが、直ぐに目が慣れるとミルティアは改めてショコライルの姿を見た。
制服姿のショコライルは初めて見た。白い上着に紺色のズボン、リンレッド王国の紋章にも使われる緑、黄、青の三色をチェック柄にしたネクタイを付けたショコライルは、普段の王太子の服装とは異なっていても、とても似合っていた。
学園で出会ったどの男子生徒よりもかっこよく着こなす姿に、他の女子生徒もミルティアと同じ気持ちを抱くだろうと考えると、なんだか嫌な気持ちになっていた。
ミルティアがショコライルの姿を見ているのと同じ時、ショコライルもまた初めて見るミルティアの制服姿にただ感動を覚えていた。
真っ白い襟付きのワンピースは裾や袖口、襟元は紺色に縁取られ、胸のリボンはネクタイと同じ色と柄が施されていた。
真っ白いワンピースはミルティアに似合いすぎていた。この姿を4年間見れなかった悔しさもさることながら、4年間見続けた同級生に腹がたった。
だが一つだけその同級生も知らない格好があった。今日のミルティアは髪を編み込んだアップスタイルであった。
普段ミルティアはハーフアップしかしない。学園でもハーフアップばかりであったので、アップスタイルを見た者はいないのだ。
初めて村を訪れた時、ポニーテールの可愛らしさにアニスを褒めたことがあった。それ以降、村への訪問時はアップスタイルにしてくれる機会が多くなったが、まさか制服姿でアップスタイルにしてくるとは思わなかったので、アニスの機転に臨時報酬を与えることに決めたのだった。
2人は人目を気にせずたわいもない会話をしながら長い廊下を歩き続けた。本当は転移場所を間違えたのは嘘で、こうやって少しでも学園生活をミルティアと送りたいショコライルのわがままであった。
そんな事とは知らないミルティアは、ショコライルが間違えてくれたお陰で少しでも学園生活を満喫できることに感謝していた。
同じ気持ちの2人ではあるが、そんな事には気付かず、この時間が少しでも長く続くよう無意識にゆっくり歩いていった。
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