第7章 手紙は突然に④
「おはようございます、ミルティア様。」
よく晴れ渡った気持ちがいい朝に、いつものようにアニスの朝の挨拶が響いた。いつもと違ったのは部屋にミルティアがいなかったことである。アニスが寝室を覗くと、ベッドの上で何かがもぞもぞと動いていた。その正体はミルティアであった。
アニスの声で目が覚めたミルティアは寝ぼけながら起き上がるとアニスに申し訳なさそうな顔をしていた。
「ミルティア様が寝坊なんて珍しいですね。」
ミルティアはいつもアニスが部屋に来る前には起き、着替えを済ませ本を読んでいた。
ところが今日は初めて寝坊した姿を見ることができたので、可愛らしくつい口元が緩んでしまう。
「ごめんなさい……。今日のこと考えたら眠れなくなっちゃったの……。」
念願のショコライルとの学校生活だと思うと、楽しみすぎて眠れなかった。恥ずかしかったがどうやらアニスにはバレていたらしい。
「まぁ。ショコライル様もきっと寝不足なので同じですね。」
「ショコライル様も?」
ミルティアが不思議そうにしていると、アニスは遠い目をしながら冷たく笑っていた。
「まぁ、あちらはミルティア様とは違う理由で眠れなかったと思います。自業自得ですので、ミルティア様は何も心配はいりません。」
「そっそうなのね。」
アレンのように笑うアニスに、ミルティアは一瞬怖さを覚えたが、その微笑みは自分に向けられたものではないため触れないことにした。
「ミルティア様。本日はこちらにお食事をご用意致しました。ショコライル様より出発は2時間後と伺っております。まずはどうぞお食事を召し上がってください。」
寝坊した上に、食事の手配までさせてしまったことを申し訳なく思いながら、時間がないためミルティアは急いで食事を済ませることにした。
――――――――――
「おはようございます、ショコライル様。」
アレンもアニス同様なかなか起きてこない主を起こしていた。こちらもいつも朝早く起きている主が、未だ寝ていることは珍しいと思っていたが、ふとベッドの側に置いてあるテーブルの上に、一枚の手紙があることで、寝坊した理由を知ることとなった。
自業自得の結果なので大いに反省してもらいたいと思い、未だ起きずに、寝息を立てているショコライルの布団を剥ぎ取るという、アニスとは正反対の優しくない起こし方を主に行った。
「うーん、……あっアレンどうした?」
完全に寝ぼけた顔で、今が朝だと理解していないような間抜けな声だった。
「どうしたではありませんよ。今日はミルティアさんと学園に行かれるんですよね?今何時だと思っていますか?時間ないですよ!」
ショコライルは慌てて時計を見ると、物凄い勢いでベッドから起き上がった。
ミルティアと初めて一緒に学園に行けることに顔が緩んで仕方ないが、手紙の存在を思い出すと一気に気分が沈む。コロコロ変わる表情のショコライルにアレンは呆れていた。
「ショコライル様、まずはミルティアさんとの学園生活を考えてください。手紙のことは……とりあえず忘れましょう。そんな表情をしてたら、ミルティアさんが心配なさいますから。」
「そうだな……。」
ショコライルは頷きながらも、やはり深いため息を吐いてしまった。
「やっぱり殴られるかな……。」
「とりあえず協力な防音魔法を施しておきましょう。必要ならば治癒魔法をかけますのでご安心を。」
殴られることを前提に話すアレンに、ショコライルはもう一度手紙を見て深くため息をついた。
昨日ハミルダに連絡した後、バーナードに学園に行くことを伝えるためミルティアに手紙を書いてもらった。それを預かるとショコライルはすぐに早馬でリリアージュ邸に届けさせた。
これで学園の問題は解決し、バーナードも安心してくれるだろうと考えていたショコライルに、帰ってきた早馬の騎士はショコライルに申し訳なさそうに一通の手紙を差し出した。
手紙が渡せなかったのかと封筒を確認すると、渡した封筒とは別の物であった。急いで中身を確認すると
――明日伺うのでご覚悟を――
とたった一言だけで、ショコライルには恐ろしすぎる脅迫文であった。差出人はもちろんバーナードである。
王太子に大変失礼な内容で、下手すれば投獄されるほどの内容であるが、咎める者は誰もいない。むしろようやくこの時が来たと誰もが思うほど、バーナードは何年も耐えたのだ。
「後は私がやっておきます。ショコライル様は分かってますよね?」
アレンは聞いてるか分からない主に向かって、今日の対応を伝えておいた。
とりあえず次の日まで影響ないぐらいに留めてほしい。
ショコライルは僅かな願いを抱きながら、突然届いた手紙を時間になるまで何回も何回も読み直していた。
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