第7章 手紙は突然に③
ミルティアの体調不良の件から、ショコライルはずっと気に掛かり落ち着かなく過ごしていた。
夜アニスに聞いても問題ないの一点張りだし、アレンも楽しそうに笑っている。何故ミルティアの一大事にみんな冷静でいられるのか分からなかった。
次の日、アニスからお茶に来るように誘われてミルティアに会うと、確かに元気そうではあった。しかしやはりどこか顔が赤い気がして尋ねても、本人も病気ではないと言い張るので、これ以上の心配はかえって迷惑になると判断し、ショコライルはいつもと変わりなく接することにした。
そんな日が続いたある日、ミルティアとの勉強を終え、お茶を飲んでリラックスしている時に、アニスがミルティアに手紙を持ってきた。普通の封筒より少し大きめの封筒で、手紙以外にも何か入っているようであった。
ミルティアは差出人を確認するとショコライルの許可をもらいすぐに開封をした。差出人はミルティアの父親、バーナードだった。
「あら?中にもう一つ封筒があるわ。」
封を開けたミルティアは、便箋とさらにもう一つ小さな封筒が入っていることに気づいた。
ミルティアが便箋を目にやると少し笑っていた。
手紙の内容を聞くなど失礼であるため、ショコライルはただミルティアを見つめていた。
それに気付いたのか、ミルティアはショコライルを見ると笑ったように手紙の内容を見せてきた。
「しばらく様子を見る。だそうですよ。会いに行くと書いてあるので、その時に何か聞かれるかもしれませんね。」
ミルティアは以前、バーナードにもう少し王城に残ることを伝えていた。その時の返事が来たようであった。ミルティアは笑っているが、ショコライルは文字から静かな怒りが伝わってくるようで、寒気がしていた。
そんなこととはつゆ知らず、ミルティアは手紙の続きを確認し、小さな封筒を開けた。
「あの……、ショコライル様。明後日学園に行ってもいいでしょうか?」
「急にどうした?」
「ハミルダ先生が何やら頼みたいことがあるから部屋に来るようにと手紙が来まして……。」
「ハミルダ先生が?」
ハミルダは王立学園で魔法学を教えてくれる先生である。まだ30歳と若手ではあるが、様々な魔法が扱える非常に優秀な魔術師でもある。魔法騎士にならないかと声がかかったそうだが、戦いたくないという理由で断り、王立学園で働いている。
どこか力を抜いたような立ち姿で、ぼーとしているように見えるが、教えるのが非常に上手いため、ショコライルの魔法の師匠でもあった。
シルバーの髪を一つにまとめ、常に穏やかな微笑みを浮かべた姿は中性的な見た目で神秘的すらあった。
そのため、非常に女子生徒からも人気で奇跡の独身と言われていた。
師匠のことは尊敬していたが、ミルティアを呼び出したのは面白くなかった。あの色恋に疎く、魔法馬鹿の先生ならやましい気持ちはないだろうが、それでもミルティアが絡むとどうも不安になってしまう。
今までミルティアとの接触を控えていたから抑えられていたものが、ミルティアと接する内にどんどん自分だけを見ていてほしいと願ってしまう。
まだミルティアの気持ちも何も聞いてない状態で、このような欲が出てしまったら今後どうなるのか……ショコライルは自分の独占欲の強さに少しだけ苦笑いを浮かべていた。
「理由は分からないのです。早めに来るようにと書いてあるだけで。もう時間も遅いので、明日お父様に連絡して聞いていただこうと思います。先生がよろしいなら、明後日伺おうと思ってますがダメでしょうか?」
「だったら、ハミルダ先生には私から今連絡しようか?」
「そんなことが可能なのですか?」
ミルティアは王城からのバーナードに手紙を出し、その後リリアージュ家の早馬で連絡を取るつもりでいた。どんなに急いでも夕方になってしまうと思っていたことが、ここですぐにできるなんて考えもしていなかった。
「ハミルダ先生は私の師匠なのだ。だから簡単に連絡できる。」
魔力は人それぞれで異なっており、同じ魔力は1人としていない。通信魔法は送りたい相手の魔力を見極め、的確に送らなくてはいけないため、高度な魔力と、魔力の制御が必要になる。ミルティアはもちろん、ほとんどの人は使えない魔法であり、使えるのは魔法騎士の一部であると言われていた。
「お願いします。」
「もちろん。」
ショコライルはすぐに目を閉じて集中した。すぐに目を開けるとミルティアを見て笑った。
「繋がったよ。明後日大丈夫だって。ちょっと待ってね。はい?なぜですか……。……わかりましたよ。ええ。では……。」
ミルティアに予定を伝えていると独り言のように呟いていた。どうやら相手と繋がるまでは集中しなくてはいけなくても、一度繋がってしまえばどちらかが切るまで会話ができてしまうらしい。
ミルティアは不思議そうにショコライルの会話を聞いていたが、やがてハミルダと話終えたショコライルが大きくため息をついた。
「ミルティア。ハミルダ先生から私も来るように言われてしまった。一緒に行ってもいいか?」
「ショコライル様もですか?」
「理由は分からないが来るようにとだけ言われてしまった。」
ミルティアはショコライルと学園で一度は過ごしてみたいと思っていたため、遂に叶うのだと嬉しい気持ちでいっぱいだった。
「もちろんご一緒させてください、ショコライル様!」
ミルティアは嬉しそうに声を弾ませていた。
「では明日一緒にいこう。アニスに後で時間を伝えておくよ。」
「ショコライル様!わたくしと一緒の馬車はよろしくないのでは?」
ショコライルはミルティアから逃げている手前、2人で馬車に乗ることはよくないのではと心配になった。だがその質問は杞憂であった。
「ああ、そこは大丈夫。転移魔法で先生の部屋まで移動するから。」
「えっ?」
「いつもやってるから大丈夫!」
ミルティアは間抜けな声を出しながら、次はしがみつかないよう気をつけようと心に誓っていた。
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