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サボり魔王子の家庭教師  作者: 梨乃あゆ
第一部 出会編
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第1章 4年ぶりの再会②

ミルティアが朝のやり取りを思い出している間に馬車は王城の門をくぐった。

 

「まさかこんな形で再会するなんて……。」

 

 ミルティアは幼い頃の記憶を思い出していた。


 父であるバーナードに連れられてエクラと初めて会った時、エクラもまた自分の息子ショコライルを連れてきていた。ショコライルに初めて会った日、あまりに可愛らしい姿に女の子だと間違えてしまったが、同い年ということですぐに打ち解け、父親が会う時は2人とも父親について行き、2人で遊んだり沢山の話をした。

 

 

 最後に会ったのは4年前。王立学園に入学する少し前であった。

 

「ではミルティア。次は入学式に。」

「はい、ショコライル殿下。」

「まだ入学前だよ。入学するまでは堅苦しい呼び名はなしと言っただろう?」

「そうでしたわ。では、ショコライル様。学園ではなかなかお話することは難しいとは思いますが、同じ場所で学べる事は嬉しいです。」

「僕もだよ。一緒に学べるのは嬉しい。」

 2人はそう言うとお互いの顔を見て微笑み、学園での再会を約束して別れた……はずだった。


 

 学園で一緒に学べると思って入学したミルティアは、4年生になるまでショコライルに会えていなかった……。



 

 …………………………………………

 「どんな顔で会えばいいのか……。わたくしは避けられてるかもしれないのに。」

 

 ミルティアは小さく呟いた。


 1年生では違うクラスだったが、2年生からはショコライルと同じクラスだった。けれどもショコライルは登校してこず、たまに登校する時は決まってミルティアが休みの日であった。これが4年生まで続いたため、流石のミルティアも自分が避けられていると理解した。


「……はぁ……」

 昔のことを思い出し何度目かの深いため息を吐くのと同じタイミングで馬車が停まった。

 

 (着いてしまった……。もうやるしかないわ!)

 

 馬車の中でミルティアはそう心の中で自分を鼓舞して、従者が扉を開けてくれるのを待った。しばらくして扉が開いたため馬車から降りると、1人の青年が待っていた。


 

 ダークブラウンの髪。制服と同じ深い緑色の瞳。ミルティアより少し歳上そうに見える、優しそうな目をした青年はミルティアを見ると微笑みながら紳士の礼をした。


 

「ようこそお越しくださいました、ミルティア嬢。私はショコライル殿下の側に仕えさせていただいているアレン・カルレッタでございます。ショコライル殿下のスケジュールの管理や補佐、また護衛も務めています。何かと関わることも多いとは思いますのでどうぞよろしくお願い致します。」


 (側近ということね。でもカルレッタってまさか……)

 ミルティアはアレンと名乗った青年の名前に驚きながら慌てて淑女の礼をして自己紹介をした。

 

「ミルティア・リリアージュでございます。精一杯努めさせていただきますのでどうぞよろしくお願い致します。」

「どうぞそんなに固くならないでください。これからはこの王城で一緒に働く仲間ですので。」

「お気遣いありがとうございます。アレン様。」

「アレンと呼んでいただいても結構なのですよ?」

「そんな!アレン様はカルレッタ公爵家の方ではないのですか?お父様は宰相であらせられますよね?そんな方をそのような呼び名で呼ぶ事はできません。」

「父のことをご存知なのですね。さすが聡明と噂のミルティア嬢です。ですが父は父です。それに、あなたはショコライル殿下の家庭教師です。側近の私とも対等に接していただいて構いませんよ。」

「いえ、さすがに。……アレン様とお呼びすることをお許しください。それでしたらわたくしのことをミルティアと呼んでください。」

 

 ミルティアは懇願するように頭を下げた。その姿を見てアレンはクスッと笑った。

 

「困らせてしまい申し訳ありません。では私はミルティアさんと呼ばせていただきます。」

 

 

 挨拶が終わるとアレンは目線をそのまま馬車の方に移し周りを見渡していた。

 

「あの……何か?」

 何かを探すように目を動かすアレンにミルティアは不思議そうに聞いた。

 

「ミルティアさん、侍女の方は?」

「侍女はおりません。わたくしは貴族と言えど男爵位です。我が家には侍女はいましても、掃除や食事の準備などをやっていただいていますので、自分達のことは自分達で行う生活をしております。」

「そうだったのですね。それは大変失礼いたしました。」

 ミルティアの話を聞いたアレンはすぐさま謝罪した。


 

「お顔を上げてください。我が家が貴族らしくないばかりで申し訳ありません。」

 ミルティアは慌ててアレンに声をかけた。いくらこれから同僚になるからと言っても、公爵家であり王太子の側近に頭を下げさせるわけにはいかない。ミルティアの慌てている姿を見たアレンは今度は我慢できず声に出して笑ってしまった。


 

「ハハッ……申し訳ありません。ミルティアさん。お聞きしていた通りのご令嬢で安心してしまいました。」

「私のことを聞いていた??」

「あっ……さぁミルティアさん。応接間で殿下がお待ちです。荷物はお部屋に運んでおきますので、後でお部屋を案内した際に確認をお願いします。では参りますよ。」

 ミルティアの質問には答えず、アレンはミルティアを応接間に案内するよう歩き出した。

 ミルティアは自分の話を誰がしたのか気にはなったが、先に歩き出したアレンに置いていかれないよう、慌てて後ろをついて行った。


 ミルティアが追いかけてくる少し早歩きの足音を聞きながらアレンは振り返らずそのまま歩いた。

「聞いていたままの方だな。私が呼び捨てなんかで呼んだ日にはきっと……。さぁこれから忙しくなりそうですね。」


 

 これから起きることがこの国にとって、最良となることを願いながらそう呟き、応接間への歩みを進めた。


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