第7章 手紙は突然に②
今日も2人で勉強しているが、どこか上の空のミルティアにショコライルは心配で仕方なかった。考え事をしている時は今までもあったが、それにしても今回はミルティアらしくない。話しかけても曖昧な返事ばかりで、顔だけ妙に赤い。しばらく様子を見ていたが治らないミルティアにショコライルの心配は限界に達した。
「ミルティア。今日はもう辞めようか?」
「はい。……えっ?!」
ミルティアは返事をしてからショコライルの言葉を理解し、慌てて我に返った。
「今日は体調が悪そうだよ?顔も赤いから熱かもしれない。無理はいけないよ。」
「いえ……。元気ですので。」
ミルティアは素直に伝えることなどできなかった。自分の気持ちを自覚したために、恥ずかしくてショコライルの顔が見れず、距離が近いショコライルに今更ながら照れているなど言える訳がなかった。
どうしようと考えている間にショコライルはアニスを呼んでしまった。
「どうかなさいましたか?」
「ミルティアの様子が変なんだ。熱かもしれない。休ませてくれないか?」
ショコライルの後ろにいるミルティアに目線を向けたアニスは即座に状況を察した。
「ショコライル様。お気遣いありがとうございます。すぐに用意致します。」
アニスは急いで寝室を整えに向かった。
ミルティアがどうしようとその場から動けず下を向いていると、ショコライルが近づいてきた。足を止めたその瞬間ミルティアの体はフワッと宙に浮いた。
驚いたミルティアが顔を上げると、ショコライルがミルティアを横抱きしていた。
ミルティアはこの状況が理解できず悲鳴を上げそうになるのをグッと我慢した。何も言ってこないミルティアを、ショコライルはさらに心配そうに見つめてきた。
「ミルティア大丈夫?身体が熱いからやっぱり熱があるね。気づくの遅れてごめん。心配だからこのまま寝室まで運ばせて。」
ショコライルにしっかり抱き上げられ、いつもより近い顔にミルティアの感情はもう限界だった。言葉は出なそうだったため、小さく頷くと落ちないようにショコライルの服を控えめに握った。
ミルティアのその動きに嫌がられていないと感じたショコライルはより一層大切に、そしてこの時間が1秒でも長くつづくように、ミルティアをゆっくり寝室まで運んでいった。
ミルティアを運んだ後、部屋に戻ったショコライルは寝室からアニスが出てくるのを待った。どこか悪いところはないか、医者を呼んだ方がいいのか、聞きたいことは山ほどあった。
アニスが出てくるまでほんの数分だったのに、ショコライルにはものすごく長い時間のように感じた。
「アニス、ミルティアは??」
つい焦って詰め寄ったショコライルをアニスは落ち着かせるように微笑んだ。
「ご安心ください。少しばかりお疲れだったと思います。少し休まれればすぐによくなりますよ。」
「そっそうか……。医者などは?」
「必要ありません。お医者さんも治せません。」
「それは大事ではないか!」
「お静かに。ミルティア様が驚いてしまいます。」
「すまない。」
「ここは私にお任せを。ご安心ください、病気では決してありません。」
恋煩いなど医者に治せるものではない。
ミルティアが遂にショコライルへの気持ちに気づいてくれたことは、すぐにアニスよりアレンに伝えられた。アレンも大層喜び、アニスの願い通り臨時報酬を弾んでくれた。
しかしこのことはショコライルには内緒にすることにした。この気持ちは本人から伝えてもらう方がいいと考えたのだ。まだ気持ちを自覚したばかりのミルティアに、拗らせまくっているショコライルに他人から伝えてしまっては、ショコライルが暴走しかねない。ミルティアの芽生え出した気持ちはゆっくり本人に育ててもらいたかった。
ミルティアの先程の症状はどう考えても、ショコライルを意識したものだった。恥ずかしく真っ赤にしていたため、普通の人なら気付きそうであるが、ショコライルは全く気づいていなかった。恋煩いなど伝えることもできないし、伝えたらミルティアが卒倒しそうである。
うまくこの場をやり過ごすのが最善であることをアニスは理解していた。
「わかった。ミルティアを頼む。もし困ったことがあればすぐに伝えてくれ。」
ショコライルは納得していない顔をしているが、このままでは話が平行線のままになりそうなので折れることにした。
「ありがとうございます。でしたら一つだけお願いできますか?」
アニスのお願いにショコライルはすぐに取り掛かると、アニスにそれを渡して部屋を後にした。
――トントン――
ミルティアの寝室の扉が叩かれた。中に入るよう促すと、アニスが紅茶を持ってきてくれていた。
「ミルティア様。こちらを飲んで落ち着いてください。」
あまりの醜態に恥ずかしさのあまり布団に潜っていたミルティアはモソモソと布団から抜け出すと、アニスからお茶を受け取った。
すぐにミルティアの大好きなベリーの香りが鼻を抜けた。
「ありがとう、アニス。ごめんなさい、仕事を増やしてしまって。」
ミルティアは申し訳なさそうに俯いた。
「お気遣いなく。可愛いミルティア様が見えただけで、迷惑など一つもございません。」
アニスはとても嬉しそうな顔をしていた。あの醜態が可愛いと言ってくれることは嬉しかったが、ショコライルに心配をかけてしまったのが心苦しかった。
ミルティアは気持ちを落ち着かせるようにお茶を一口飲んだ。
「あら?」
「どうかされました?」
「アニス。お茶の淹れ方変えたかしら?ショコライル様の味に近いわ。ほっとする。」
ミルティアのその言葉にアニスはとびっきりの笑顔でこたえた。
「それはショコライル様がお淹れになったお茶でございます。」
その瞬間アニスは盛大に咳き込んだ。綺麗な真っ白い布団に紅茶のシミを少し作ってしまった。
「アニスーーーー!」
ミルティアは恥ずかしさを隠すように大きな声を出していた。珍しくアニスを睨むミルティアを、アニスは侍女であるにも関わらず大きな声で笑って見守っていた。
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