第6章 サボリ魔王子と視察デート④
村中が2人の噂で持ちきりとなる少し前に、ショコライルとミルティアは王城へ戻った。2度目の転移魔法もやはりまだ怖さが抜けないため、ミルティアは無意識にショコライルの服を掴んでいた。
「お帰りなさい。ショコライル様、ミルティアさん。」
アレンの出迎えの声でミルティアは我に帰り、慌てて手を離した。ミルティアのそんな行動に気付いていないのか、ショコライルは平然としていた。
「今帰った。問題はなかったか?」
「ええ。一度サマド公爵が魔法騎士団長に殿下を是非と嘆願しにお見えになりました。いつものようにどこに行っているのかわからないとお伝えしておきました。」
「ありがとう。」
村での穏やかなチョコの顔ではなく、今のショコライルはどこか張り詰めた空気を纏っていた。それだけこの王城では、王太子という仮面を着けてしか生活できない環境であると、ミルティアは痛感した。
誰が敵で誰が味方か分からないこの場所で、偽りの姿を続け1人で解決しようと動いているショコライル。
少し前まであんなに楽しそうな笑顔を浮かべていたのが幻だったのではないかとすら思えてしまい、自分だけがただ楽しんでしまっていたことを後悔するように、ミルティアは手に持っていた紙袋をギュッと握ってしまった。
「ミルティア、大丈夫?」
ミルティアが俯いたままであったため、ショコライルは心配してくれていた。その目は先程までの顔つきから、本当に心配していると書いてあるかのように不安で揺れていた。
(アレン様やルース様、エディルダさんにアニスがショコライル様を支えているように、顔馴染みのわたくしなら少しは昔のことを思い出して、心落ち着かせれるかもしれない!勘違いかもしれないけど、ショコライル様の私への対応はきっと嘘ではないはず。)
ミルティアは再度紙袋を握りしめてショコライルの顔を見た。
「ショコライル様、せっかくですからこちらを一緒に食べませんか?」
ミルティアは先程買った紙袋を胸の前に持ち直し、ショコライルの目の前に突き出した。
「でもそれはミルティアが食べたがってた物だよ?俺のことはいいからミルティアが食べて。」
「一緒がいいんです。……だめですか?」
ミルティアは自分でも驚くような言葉でショコライルを誘ってしまった。ミルティア自身驚いているのはもちろんのこと、ショコライルもアレンもミルティアを瞬きせずに見つめていた。
「あっあの……。違うんです……。村で一緒に食べると思ってショコライル様の分も買ってあるのです。……すみません。やはりショコライル様の分は取り分けて置いておきますね。」
ミルティアは恥ずかしさを隠すように早口で伝えた。
必死で伝えてくれるミルティアの姿をショコライルは懐かしく見つめた。ショコライルと話す時、ほとんどの人がショコライル自身ではなく、その後ろにある王太子という肩書や、父親のエクラを見ているような、どこか壁がある話し方をしてきていた。
もちろん側についてくれている、アレンやルースなど信頼できる部下はいる。
それでも出会ってから今まで常に自然体で、サボり魔という落ちこぼれた姿となっても、常に真っ直ぐに接してくれるミルティアの存在は、ショコライルの人を信じられない心を温かい気持ちに溶かしてくれていた。
「ありがとうミルティア。ミルティアさえよければ一緒に食べよう。」
「いいのですか?」
ショコライルの分を分けようと紙袋をゴソゴソ動かしていたミルティアをショコライルは制した。
「もちろん。そのつもりだったんでしょ?」
先程のミルティアからの一緒がいいと言う言葉を確認するようにショコライルは尋ねた。
「……そのつもりでした。すみません。」
改めて聞かれると恥ずかしくなり、ミルティアは俯いたが続くショコライルの言葉ですぐに顔を上げた。
「ではお茶は私が淹れよう。」
「そんなお手を煩わせるわけには……」
「いいんだ。私のために用意してくれたミルティアにおもてなしだ!それに昔はよく淹れていただろう?」
ミルティアは以前アニスに話した内容を思い出していた。アニスに話してからいつかまたショコライルとお茶がしたいと願っていたが、まさかこんなに早く実現するとは思わなかった。しかもショコライル自らが淹れてくれる……ミルティアはショコライルが淹れてくれるお茶がまた飲めることに嬉しさを隠すのに必死になった。
「そうだ!アレン様もご一緒にいかがですか?」
ショコライルのお茶ばかり考えてしまい自然に顔が緩んでしまうのをなんとかするため、ミルティアはアレンに話しかけた。急に話題を振られたアレンは一瞬驚いた後、困ったように微笑んだ。
「お気遣いありがとうございます。私は諸用がありますので後程いただきますね。」
アレンはそれだけ伝えると急いで部屋を後にしてしまった。
「アレン様お忙しいんですね……。」
ミルティアはアレンが出て行った扉を見つめながら、自分達が食べるお菓子をお皿に盛り付けていった。
「ミルティアどうぞ。」
お茶を淹れ終わったショコライルは、お茶を机の上に並べて、ミルティアにも座るよう促した。
「ありがとうございます!!」
ミルティアは嬉しそうに座ると、ショコライルが淹れてくれたお茶を眺めていた。
「すごく楽しみにしてくれているんだね。さぁ冷めないうちにどうぞ。」
嬉しさが顔に出てしまっていたことは恥ずかしかったが、ミルティアはカップをゆっくり持ち上げると一口口に含んだ。
途端に懐かしいベリーの香りと味が口の中に広がった。
「相変わらず美味しいです!」
ミルティアはすぐに感想を伝えるともう一口口に含んだ。ショコライルが用意してくれたお茶は、以前アニスが淹れてくれたミルティアが大好きなお茶と同じであった。その日以来毎日飲んでいるが、アニスとショコライルが淹れてくれたお茶では、ほのかに味が異なっているように感じた。
「ショコライル様。わたくしもこちらに来てからアニスに毎日淹れていただくのですが、ショコライル様と少しだけ味が異なるんです。何か特別な物でも淹れているのですか?」
ミルティアの疑問にショコライルはお茶を飲みながら咳き込んだ。
「だっ大丈夫。すまない。」
慌てて駆け寄ろうとしたミルティアを制止し、ショコライルは深呼吸をした。
「特に何もしていないよ?お茶の淹れ方を研究したからかな?」
もしかしてという考えは今はまだ伝えるのには早すぎたため、ショコライルは適当なことを言ってその場を誤魔化した。
「そうですか……。淹れる方で違いが出るのですね。」
ショコライルはまた咳き込んでしまいそうな衝動を必死に抑えてテーブルの上にあるお菓子に話題を振った。
「ミルティアはチョコレートを買ったの?」
ミルティアが村で買ったのはチョコレートであった。店主の話では、チョコレートの中に様々なフレーバーを入れていると言うことで、気になって沢山の種類を購入してしまった。
「そうです。ショコライル様とのお菓子と言えばチョコレートを思い出してしまって。」
ミルティアは懐かしそうにチョコレートを見つめた。いつも手土産にショコライルが持ってきてくれたチョコレート。王城ではまだ一度も食べれていなかったので、つい懐かしさで購入してしまった。
「いろんな味があるそうです。食べてみませんか?」
ミルティアはチョコレートが乗ったお皿を持ち上げるとショコライルの前に差し出した。
ショコライルはそこから1粒取ると口に含んだ。
「美味しい。これはレモンだ。」
ショコライルが顔を少し赤くしながら、嬉しそうに教えてくれた。ミルティアも一つ口に含んでみた。口いっぱいにチョコレートの甘さとフレーバーの酸味が広がっていった。
「私はベリーです。」
「ミルティアの好きな味だね。」
ショコライルはまた楽しそうに笑った。ミルティアの好きな物を覚えてくれていたことに、ミルティアは胸がギュッと締め付けられる不思議な感覚に襲われた。
2人はチョコレートを次々に口に入れてはフレーバーの味を当てていった。お茶とチョコレートの組み合わせは2人の大切なお茶の思い出を蘇らせてくれた。
「ミルティア。いつかまた君のケーキが食べたい。」
リリアージュ邸で会うと必ず2人で行っていたお茶会。毎回ショコライルはチョコレートとお茶を手土産に、ミルティアは手作りのケーキを用意していた。
ミルティアがお茶を飲んで、チョコレートを思い出したようにショコライルもミルティアのケーキを思い出していた。
「わたくしのでよかったらいつでも!」
覚えていてくれたことが嬉しいミルティアは、満面の笑みで返した。ミルティアの笑顔が可愛すぎて、見つめることができなくなったショコライルは、気持ちを誤魔化すようにお茶を一気に飲み干した。
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