第6章 サボリ魔王子と視察デート①
ショコライルに案内されていくつか野菜を収穫したミルティアは、あまりの楽しさに夢中になっていた。
畑一面様々な野菜が植えられており、見たこともない野菜や苗を見ては、ショコライルに質問ばかりしてしまった。ショコライルはミルティアの質問に嫌な顔一つせず全て答えてくれた。
かごが野菜でいっぱいになった頃ショコライルから一度家に戻ろうと提案された。
「採れたての野菜を食べてみないか?」
そんな誘い文句はミルティアにとって魅惑的であり、早くこの野菜を食べたい気持ちを押し殺して家に戻った。
「どのように食べるのですか?」
家に着いてすぐミルティアは待ちきれないというように話し出した。ミルティアの質問についショコライルは笑ってしまった。
「ごめん……。あまりに食べたそうにしてるからつい笑ってしまった。まずはこのトマトやきゅうりはそのまま食べてみるかい?」
ショコライルは素早く水で洗うとミルティアにきゅうりを1本手渡した。
ミルティアは受け取ってみたもののどうしたらいいのか戸惑った。男爵令嬢として育ったミルティアは常に淑女であるべきだと教えられた。そのまま齧るなんてもちろんやったことがない。でもショコライルから渡されたのはただ洗っただけのきゅうりだ。これはそのまま食べろという意味なのか……ミルティアが困惑しショコライルを見ると、ショコライルは洗ったきゅうりをそのまま齧り付いていた。
「うん、うまい!」
きゅうりを食べながらミルティアを見て笑った。まるで食べてみろと言っているかのように。一国の王太子がやっているのだから今は咎める者もいないはずだとミルティアも覚悟を決めて、きゅうりを一口齧った。
すぐにミルティアの口いっぱいに瑞々しさと爽やかさが広がり、つい感嘆の声を上げてしまった。
「美味しい!採れたてってこんなに美味しいのですね!」
採れたてを食べるのは初めてだったため、採れたてはこんなにも美味しいのかとミルティアは驚いた。
リリアージュ領にもこれらの野菜が育つとどれだけ領民が喜ぶのか……そんな未来が来るかもしれないと考えるだけでミルティアの心は踊った。
「気に入ってくれてよかった!俺も初めて食べた時は感動したよ。城のご飯も美味しいし、もちろん鮮度がいい食材を使ってくれているけど、それでも採ってすぐ食べる美味しさには敵わないよ。」
「本当ですね。いつか当たり前みたいに採れたての野菜などが平等に食べれる国になるといいですね。」
ミルティアは願いを込めてそう呟いた。
「さあ、他の野菜も使って昼ごはんにする?」
「楽しみです!ですが料理はどなたが?」
ミルティアは部屋を見渡してシェフや使用人を探したが見当たらなかった。
「俺が作るよ?」
「えっ!!!」
ミルティアが想像していなかった答えが返ってきて、大きな声を出してしまった。
「そんなに驚くこと?」
「だって王太子ですよ??料理なんてする機会ありませんよね?」
「普通わね!父上も母上もしないね。だけど俺のあだ名覚えてる?」
ショコライルはわざとらしくミルティアに聞いてきた。
「サボり魔王子ですよね。」
ミルティアはサボり魔王子の正体を知っているため気まずそうに答えた。
「正解!サボり魔王子はサボり中にここで料理を沢山作ったんだよ!お陰で食材を美味しくする調理法を覚えたし、そのことをレポートにして学園の単位も取ってるよ!」
ショコライルはミルティアに意地悪そうな顔をした。
調理法とか言っているが、本当は野菜の生育まで研究としてレポートしてるに決まってる。学園をサボりがちだったのに、落第せず進級し1番上のクラスにいたことは、王族の特権を使ったとばかり思っていたのに、本当は誰も知らないところで、他の生徒よりも努力し、課題をこなしていることをミルティアは知ることになった。そして、ミルティアの学園におけるショコライルの評価がバレてしまっている……この人には隠し事はできないと理解した。
あっという間に手際良くショコライルは昼ごはんを用意するため、ミルティアはできた料理を机に並べることしか手伝えなかった。やがて家の中にルース、アニス、エディーがやってきてみんなで食卓を囲み昼食を取ることとなった。
「やっぱりショコライル様の料理はうまい!」
「お前が雑すぎるんだよ。」
「同感です。あなたは料理本を見てまずは作るところからの方がいいかもしれませんね。」
「ルース様もそんなこと言うの?やっぱりアレン様に似てるよなー。」
「どこがですか?」
男性陣が楽しそうに食事をしているのをミルティアは微笑ましく見ていた。
ショコライルが普通に学園に通えてたらこんな光景が学園でも見れたのかと思うと、少しだけ寂しい気持ちにもなったが、ショコライルが信頼でき、心から打ち解けられている仲間が側にいることが分かりホッとする気持ちもあった。
「騒がしいですよね、ミルティア様。嫌じゃありませんか?」
アニスが気を遣って声を掛けてきた。ミルティアはアニスを見て首を横に振った。
「全然。皆様楽しそうですので、わたくしまでなんだか楽しい気分になってきますわ。それに皆さんで一緒に食卓を囲むのはいいものですね。」
「それならよかったです。」
いつもはしっかり纏められてるアニスの髪型も今日は変装のためか三つ編みにしているため、とても可愛らしく思えた。頼れる姉のような存在のアニスが今日はとても身近に感じられてミルティアは嬉しかった。
「アニス。いつもありがとう。男爵令嬢であるわたくしなんかに仕えてくれて……。その不満とかないの?」
ミルティアはいつもお世話になっているアニスに感謝を伝えると共に、気になっていることを聞いてみた。
男爵は貴族位の中で下位のため、王城勤めの侍女が男爵令嬢に使えるなど不満ではないか気掛かりだったのだ。
「不満など絶対にありません。私はミルティア様にお仕いできたことが幸運と思っております。」
「幸運ってそんな!」
「嘘ではありません。私は今とても幸せです。どうかこれからも私を側に置いてください。」
アニスは真っ直ぐにミルティアを見つめた。その目は嘘偽りが一点もないと言うように澄んでおり、アニスが心から伝えてくれていることがわかった。
「ありがとうアニス。わたくしもアニスが側にいてくれて幸せよ。これからも沢山お話しして、素敵な関係を築きましょうね。」
ミルティアとアニスはお互いを見て笑顔になった。そんなやり取りをショコライルは横目で見ながら微笑ましく思っていた。
次は11時に更新予定です。




