第5章 サボり魔王子と秘密の村③
ショコライルに突然言われた内容を理解できず、ミルティアが固まっていると慌てたように顔を真っ赤にしたショコライルが話し出した。
「誤解を与えるような言い方をしてしまい申し訳ない。言葉が足りなかった。恋人のフリをしてほしいのだ。」
「恋人のフリですか?」
「フリ」があると無いとでは意味が全然違ってくる。ミルティアは少し冷静になりながらショコライルの話を聞くことにした。
「この村は少し特殊で。村人のほとんどは、親から結婚を認められなかった者や今の生活に疲れて自由になりたい者がほとんどなんだ。」
「つまり駆け落ちや家出ということですか?」
「そうだ。この国は生まれ持った家の階級で結婚相手を選ばざるおえない。しかし、身分差で恋をする者だっている。また生まれた家で仕事が決まる者もいる。それが嫌で幸せを求めて逃げてきた者達を、この村が受け止めている。」
「そうだったのですね。知りませんでした。そんな村があったことに。」
「知らなくて当然だ。この村は地図に載っていない。」
「地図に載らないなどできるのですか?」
「私とアレン、ルースがこの国の制度に疑問を持ち内密に作った村だ。行くあてのない者達を救うため、国の考えを変えたいところだが、私たちだけの力では上手くいかないため逃げ場となる村をカルレッタ公爵領に作った。次期公爵であるルースがこの村を収めている。流石に父上に内緒はまずいから、3人で村を作ったことは伝えてるよ。畑仕事をするためとね。私のお忍びの場所だから地図に載せないようお願いしたんだ。税収もきちんと収めてるし、父も何かを感じたのか深くは聞いてこないから助かっている……。父上もカルレッタ公爵も私たちのやる事には気づいているかもしれない。それでも2人とも私達も信じて見守ってくれていることは有難いよ。まぁ、勉強に関しては心配かけてしまったけどね。」
「そうだったのですね。でもよく今まで気付かれませんでしたね?偶然見つけるとかありそうですのに。あれ?でもここに住んでいる人達はどうやってこの村の存在を知ったのですか?」
「諜報活動が得意な部下が、この村に相応しいと判断した者にのみこっそり村の存在を教えるんだよ。村の入り口には結界が張ってあり、この村に相応しいと判断した者しか入れないようになっている。だから声をかけられてここに来た者は村に入ることはできるが反対に連れ戻そうと来た者は、結界に弾かれて永遠に森の中を歩くだけになるんだ。」
「そんな強力な魔法が……!」
結界を常に張るなどとんでもない魔力を消費するのに、それを何年とやってのけるショコライルはどれほどの魔力を持っているのか、ミルティアは住む世界が違いすぎて想像できなかった。ただ自分が暮らす国を考え行動するショコライルはとてもすごい方なのだと改めて実感した。
「でも外で働く者や村を出る者もいますよね?戸籍でバレてしまわないのですか?」
「この村の住人は戸籍上は別のカルレッタ領に住んでいることになっているんだ。だからこの村がバレることはない。現状この村のことを知っているのは、村人以外は国王、カルレッタ公爵、アレン、ルース、私の部下、私、そしてミルティアだ。」
「えっ?」
「どうしたミルティア?」
急に固まったミルティアにショコライルは不思議そうに尋ねた。
「だって……。王妃様も公爵様の奥様もご存知ないことを何故わたくしに?」
「私に何も隠すなと言ったのはミルティア、君だよ?」
とんでもない秘密をただの男爵令嬢が知ってしまった理由が、自分がショコライルに言った言葉のせいだと理解しミルティアは大それたことを言ってしまったと後悔した。反対にショコライルはミルティアに少しだけやり返せたこと、隠し事がなくなったことが嬉しく上機嫌だった。
暫く思考を停止していたミルティアは聞かなければいけない大切なことを思い出した。
「それと、恋人のフリにどんな関係が?」
ミルティアの問いかけにショコライルも思い出したかのように話し出した。
「この村の人たちは過去を詮索しない。その代わりここに住む者達は仲間だと強い意識を持っている。だから、過去は聞かなくても、未来は気になるたちで……。みんな幸せになってほしいと言うことで、私に恋人がいないか詮索してくるのだ。」
「はぁ……。」
「今ミルティアと一緒に歩くと、恋人だと疑われる。」
「なるほど。」
「恋人じゃないと言うと、いろいろ関係など詮索されるし、ミルティアにも年頃の青年が言い寄ってくるかもしれない。そちらの方が厄介だから、恋人のふりをして、余計な横槍を防ごうと思う。」
「なるほど……。」
「その……不満か?」
ショコライルの話を上の空で返事していたため、ショコライルはミルティアが嫌がっているのではないかと心配になった。
「不満など……。そのショコライル様こそ不満は?」
「俺はむしろ、昔馴染みのミルティアが相手だと助かる。」
(なるほど。お互いを知っているため、合わせるのも楽ってことね。)
ミルティアは納得してショコライルに返事をした。
「わかりました。お受けします。」
「ほっ本当か?!!ありがとうミルティア!!」
ショコライルはとても嬉しそうにミルティアの手を強く握って喜んだ。あまりの強さにミルティアは少し顔を歪めたため、ショコライルはすぐに手を離した。
「すまない、ミルティア。力加減を間違えた。痛く無いか?」
やりすぎたと落ち込み、優しく尋ねるショコライルがなんだか可愛く思ってしまいミルティアは思わず笑ってしまった。
「大丈夫ですわ。お気遣いありがとうございます。」
「一つ言い忘れていたが、ここでは私の身分は当然偽っている。」
「はい。心得ております。」
「私はこの家で貴族の実家から逃げ、農作物を育てて暮らしているとなっている。」
そう言われて、ミルティアはようやくショコライルと自分の格好の意味を理解した。ショコライルはラフなシャツに紺色のズボン、髪色も金髪であった。
ミルティアもいつも着るドレスとは違い、膝下丈の軽やかなワンピースと庶民の服装をお互いしており、身分がバレないように変装していたのだ。
ショコライルの漆黒の髪色は王族だと証明してしまうため、見慣れない金髪に魔法で変えていたのかとミルティアは納得した。
「もちろん名前も偽名だ。ここではチョコと名乗っている。」
「チョコ様ですか。」
「様ではない、チョコだ!」
「失礼しました。」
「先程あったルースは、ルイと言う名で私と共に暮らす使用人に扮している。」
「……はい。」
「だからミルティアも偽名で過ごしてほしい。」
「わかりました。いかがなさいましょう?」
ミルティアに聞かれて、ショコライルはしばらく考えた。
「……リリはどうか?」
「リリですか?可愛らしくて素敵だと思います!」
「では、リリ。」
「はい。チョコ……さん。」
「さん……か。まぁそれで許そう。呼び捨てでも構わないからね。」
「……いずれ呼べるよう頑張ります。」
ミルティアはいつ呼べるかわからない約束をしてみた。それよりも、リリと呼ばれたことがくすぐったい気持ちになっていた。
「リリはそのような格好でも、優雅さが抜けきれてないから、私と同じで貴族令嬢にしよう。もちろん言わなくていいからね。それと顔馴染みだったけど、付き合い始めにしよう。今のリリの反応はそっちの方がいいかと思う。」
次々に設定を決めていくショコライルに、ミルティアは忘れないように必死に覚えた。
「ルイの他にも護衛などで何人か私の部下が紛れている。それとなく合図を送るから、覚えていってね。私の恋人なので初対面ではおかしいから、決して自己紹介などしないように。……ではリリ、行くとしよう。」
「はい、チョコさん。」
2人は少しぎこちなくやり取りしながら、外に繋がる扉を開けた。
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