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サボり魔王子の家庭教師  作者: 梨乃あゆ
第一部 出会編
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第1章 4年ぶりの再会①

ミルティア達が暮らすリンレッド王国は山や海に囲まれた自然豊かな国である。

そのためこの土地で育った野菜や果物などの食料や海産物は、品質がよく高級品として他国と取り引きされている。

また自然豊かで美しい景観が多いこと、美味しい食材が豊富で美食の国としても有名なため、観光地としても大変人気がある。



 リンレッド王国の周辺には、争いごとを好む国も存在する。他国を侵略し領土拡大を今なお行う国からもリンレッド王国はある理由から一目置かれていた。

 リンレッド王国には他国と異なり国民のほとんどが多少なりとも魔法を使える。中には強い魔力を持つ者もいるため、その者達を集めた魔法騎士団が存在する。

 

 魔法騎士は騎士としての剣術の腕前もありながら、魔法も使い戦うため、他国の騎士では太刀打ちできない。そのため最強の騎士団と呼ばれ他国から恐れられている。もちろん魔法を使わない騎士団もとても強いため魔法騎士団が出る前に終わる戦いも多かった。

 

 侵略のため戦いを挑むとなると魔法騎士団と戦わなければならず、勝敗は目に見えて明らかなためどの国もリンレッド王国には手出しできなかった。

 


 国を発展させ国民が苦労しない生活ができること、強い魔法騎士団を従え、他国から護ってくれていることから、国民は歴代の国王陛下に感謝し敬愛していた。

 だが現国王陛下の息子であり、王位継承権第一位のショコライル王子のことは国民の不安材料であった。


 

 ショコライル・リンレッド。

リンレッド王国の王位継承権第一位で王太子である。この春で王立学園5年生になる16歳。王族の象徴である漆黒の髪を持ち、深い青色の目をした御伽話にでてくる王子様と噂されるほど端正な顔立ちをした青年である。

 幼少期は大変聡明で誰もがよき国王になると信じて疑わなかったが、ある日を境に急に勉強から逃げるようになり、ついたあだ名が「サボり魔王子」である。


 

 ショコライルには兄弟がおらず、いつかは国王となる日が必ず来る。このままでは国の危機ということで、侯爵家や伯爵家など階級が上の貴族の者が家庭教師としてショコライルについたが、誰が来ても結局逃げてしまい、辞めた家庭教師は先日19人目となった。


 貴族達は時間の無駄とばかりに家庭教師を断るようになり、遂に男爵位のミルティアに白羽の矢が立ったのだ。


「はーーーー」

 ミルティアは何故こうなってしまったのか悩みながら、深いため息を吐いた。

「何故わたくしが…」

 消えそうな声でそう呟き、揺れる馬車に乗りながらぼんやりと窓の外を見ながら先程までのバーナードとのやり取りを思い出していた。


 ――――――――――


「何故そんなに嫌がるのだ??教える事が好きなのだろう?」

「教える場があることは嬉しく思います。ですがわたくしには荷が重すぎます!」

「荷が重いか……。それは王太子だからか?」

「もちろんそれもあります。それに、やる気がない方を教えるのは難しいものです。ましてや今まで沢山の方ができなかったことをわたくしができるとは思いません。万が一……」

 先程までの勢いが嘘のように、急に言葉に詰まったミルティアをバーナードは何を言おうとしていたかを察し、代わりに言葉を続けた。


「万が一ミルティアでもうまくいかなかった時の我が家のことを気にしているのだな?」


 バーナードの問いかけにミルティアは黙って頷いた。


「その件については心配するな。本来やるべき侯爵家や伯爵家などができなかったことができなくて、お咎めがあるはずがない。それにな、これは王命ではない。」

「そうなのですか??」

「これは親友からの頼みなのだ。」

「……そういうことでしたか。」


 バーナードとエクラ国王陛下は王立学園で同級生であり、気が合ったのか身分差など関係なく接し、お互いのことを親友と呼べる仲である。国王陛下となってからもその付き合いはまだ続いており、2人でよく王城でお茶をしたり、お酒を嗜んだりするため、その際に今回の話が出たのは容易に想像がついた。


「大切な友人から頼まれたら力になりたいと思うものだ!ミルティアもそうだろう?」

 先程まで固かったバーナードの表情であったが、そう言うと口角が急にあがった。

 (あっこれは何か嫌な予感がする……)

 ミルティアがそう心の中で思った事は次に続く言葉ですぐに正しかったと証明された。


「だから今からお前には王城に向かってもらう!」

「えっ?!今からですか??」

「そうだ!閉館から頼まれてすぐ了承しておいた。善は急げと言う事で契約書も交わしたし、お前の荷物もハンナに頼んで王城に先程運んでおいた。」

 ミルティアは言われた事がすぐには理解できず固まっていた。

 (何故ハンナがわたくしの荷物を送ったのかしら?それも……王城?!!)

 頭の中で言われた事をぼんやりと考えていきながら、次第に内容を理解したのかことの重大さにミルティアは気付き始めた。


「お父様、何故ハンナがわたくしの荷物を??それに王城ってどういう意味ですか?」

「お前に侍女はいないから、幼い時からこの屋敷で働いてくれているハンナならミルティアのことがわかると思ってお願いしたのだ。後で部屋に戻って忘れ物がないか確認しなさい。」

 

 ハンナはリリアージュ男爵家に長く勤めてくれる侍女である。誰か専属としてではなく、リリアージュ家のために働いてくれている。

 

「お父様、話が読めません!何故わたくしの荷物を王城に運ぶのですか?」

「いや、陛下からショコライル殿下はすぐにどこかへ逃げてしまうので、いつ城にいるか分からないから王城に住み込んでしまった方がいいと提案されてね。だから荷物を送ったのだ。もし足りない物があれば連絡しなさい。すぐに届けるから。それに学園の方には伝えてあるから安心しなさい。先生方も期待されておったぞ。」

「待ってください。わたくしは了承などしておりません。」

「ここまで準備をしてしまったのに断るというのかい?王城に部屋まで用意してもらって……。」

 

(絶対に断れない状況を作ってから話すなんて……)

 ミルティアは諦めるようにため息を吐いた。

 

「わかりました。行きます。ですがすぐに帰ってくると思いますよ。」

「お前なら大丈夫だ!」

「何の根拠があるのですか……。行きますからわたくしのお願いも聞いてください。」

「何かな?」

 

 バーナードの逃げ道がないよう用意周到されたやり方に少しだけ対抗したくて、ミルティアは逃げ道を作るよう提案してみた。

 

「やれることはやります。でもどうにもならなかった場合は辞めさせてください。」

「……わかった。陛下にもその旨伝えておこう。」

「それから……。」

「まだ何か?」

「もしわたくしに縁談の話が来たら教えてください。」

「えっ縁談?!ミルティアお前そのようなお付き合いをする男性がいるのか?」

 

 娘の急な結婚話に落ち着いていたバーナードが急に慌て出した。

 

「誤解しないでください。今までそのようなお付き合いをした男性はおりません。ただわたくしももう16歳です。男爵家の者としていずれはと考えているだけです。お父様はちっとも縁談を持ってきませんもの。」

 縁談話を一つも持って来ないバーナードにミルティアは少しだけ文句を言った。

 

 (友達は皆一回ぐらいは縁談話があるというのに、わたくしには一つもないなんて……。わたくしには魅力がないのかしら?)

 落ち込んでるミルティアの側でバーナードは内心慌てていたが、それを悟られないようにしながら話しを切り上げることにした。

 

 

「わっわかった。来たら必ず連絡しよう!さぁこの話は終わりだ。ほらもう時間がない。忘れ物がないかよく確認しなさい。登城まであと一時間だ!」


 声が多少裏返ってしまったが、ミルティアは気付かず部屋を後にした。

 


 ミルティアが出て行った扉を見つめながら

「すまないな、ミルティア。お前に悪い虫を付けるわけにはいかないのだよ。」


 バーナードはそう小さく呟いた。


 

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